〈六〉 終焉ーしゅうえんー
終焉
「もう言い逃れはできませんよ……」
炎上する
完全な濡れ衣だ。
しかし東宮も時頼もいないこの状況で何を言っても真実味がない。左大臣 藤原頼直は持っていた扇をきつく握りしめた。右大臣はそれを見 るとニヤリと笑い、声を張り上げた。
「左大臣だ! 左大臣が中将を使って御所に火を放ったのだ! すぐにひっとらえよ!」
炎を背にして一気にまくし立てる。
(よし、やった……)
これで左大臣も東宮も消えた。後は我が後ろ盾の皇子を東宮に立てるだけ、これからは自分の時代が来る。
右大臣はしばしの間自分の勝利に酔っていたが、ふとそこに集まっている
「お前達、何をして……」
パキン、と乾いた木を踏む音がする。
「……誰が、誰に殺されたというのだ右大臣」
右大臣はまさかと思って皆の視線の方を振りあおいだ。右大臣の目が驚愕に見開かれる。
そこに立っていたのは、火付けの犯人右近中将と、炎にまかれて死んだはずの東宮、その人であった。
雑色達は一気にひれ伏す。
「もう一度聞く。誰が、誰に殺されたというのだ?」
東宮は厳しい表情で右大臣を見下ろす。大臣は驚愕のあまり声も出ずにへたり込んだ。
腰を抜かしている右大臣を見て、今まで黙っていた時頼は一つ笑うと
「私が火付けの犯人ですか? 面白いことおっしゃる……では東宮は目の前で火を放った私を黙認したと言うことになりますね? ……そうやって貴方は自分の地位と息子の命をふいにされたわけだ」
右大臣は時頼の言葉で全てを知られていることを悟りがっくりと肩を落とした。
「
時頼の凛とした声が響き渡る。
今までひれ伏していた雑色達は我に返ると慌てて動き出した。
雑色達に押さえられた右大臣が東宮の前を通る。東宮は右大臣にむけて静かに言った。
「……自分の罪を悔い改めよ。お前の罪は私を殺そうとしたことだけでは ない。お前の放った火で多くの者が死んだ、……先の明るい恋人達も。それを忘れるな」
東宮の言葉に、右大臣は悔しそうに顔を歪めたが、最後にはゆっくりと頭を垂れた。
御所が、焼け落ちる。
そんなことを思いながらぼうっと東宮を眺めている時頼の視線に気がついた東宮は、彼に声を掛けた。
「中将、後は他の者がやるだろう。早く手当をしてもらいなさい」
はっと我に返り言葉を紡ぐ。
「い、いえ、私よりも東宮を先に……。誰か! 東宮の怪我の手当を……」
最後まで言い終わらないうちに背中に激痛が走った。目の前が真っ暗になる。
「中将!」
かすかに、東宮が自分の名を呼ぶ声を聞いた気がしたが、時頼の意識 は激しい痛みとともに闇の中に消えていった。
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