業火②


「まったく……中将といるとすぐにやっかい事に巻き込まれる」

 ぬけぬけと言い放つ諸悪の根元に、時頼は呆れた表情をした。今の状況を見て物を言っているのだろうか。

「今のお言葉、そっくりそのままお返しいたしますよ、東宮」

 このような状況に追い込まれても飄々ひょうようと言ってのける東宮に半ばヤケになりながら答えて時頼は周りを見た。

紅蓮ぐれんの炎はどんどん勢いを増し、木造の屋敷を飲み込んでいく。

今自分達が御所ごしょの中を歩いていられるのは奇跡に近かった。

「ご丁寧に油までまいてくれたらしいね」

 東宮は皮肉っぽく呟いたが、その間に煙が肺に進入し、激しくせき込 むはめになる。時頼は焦りを感じていた。

 早く脱出しなければ数刻後には二つの死体ができあがる。 東宮と、おそらく東宮殺しの濡れ衣を着せられているであろう左近中将の死体が。

しかしここで右大臣達の思惑通り東宮を死なせるわけにはいかない。そう思いながら部屋の角を曲がった時、真っ赤に燃えさかったはりが激しい音とともに東宮めがけて降り注いだ。


 バキバキッ!!


「東宮――ッ!」

 時頼の叫び声は、炎の燃えさかる音にかき消された。



*****  *****



 さて、炎上する東宮御所の前ではこちらも熱い戦いが行われていた。

「なんと申されるか右の大臣おとど

 左大臣 藤原頼直は射抜くような目で右大臣を見返す。

右大臣は鼻で笑うと左大臣を見下すように言った。

「しらを切りおつもりか? 無駄なことを……調べはついているのです。貴方が謀反むほんを企て東宮を殺害しようとしたことは」

「何を馬鹿な。私が東宮を亡き者にして何の得があるというのだ! 得をするのはそなた、右大臣ではないか!」

 頼直は右大臣を睨み付けたが、大臣はニヤリと笑うと続けて言った。

「証拠があるのですよ……中将と東宮は幼き頃からの旧知の仲。中将なれば東宮御所に入っても何の疑いもかけられない……。それに目撃者がいるのです、御所炎上計画を企てた文を貴方から中将に届けた者が文の内容を見ていたのです」

 なに? と視線をくれた頼直に右大臣は勝ち誇った顔で告げた。

「お疑いになるか? その目撃者とはそなたのところの女房……若菜と申す女であるぞ」


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