第29話
血生臭い匂いが辺りに充満した。俺の服にもクヴァルティスだった血肉が付着している。だからだろう、余計不快感が募る。
それを《クリーン》で落とし、クヴァルティスの残骸を丸々異空間収納の中に落とした。
瞬間、辺りが激しく揺れ始める。
これはダンジョン最終ボスの
クヴァルティスは《チェイン・ロック》によって弾け飛んだ。その時に
これによってダンジョンは消滅すると同時に、中に存在する魔物を除くすべての生物はダンジョンの入り口付近に転移させられる。
そうネットで調べた常識を思い出していると、足元に魔法陣が出現した。
俺は一歩も動かず、その魔法陣に身を委ねた。
目を開けるとそこは、地上のダンジョン広場だった。
直ぐ近くには階層を跨ぐときに分断された二人がいた。その二人は俺を認めると、目を丸くしてそして目を一瞬逸らし「お前一人しか生き残らなかったんだな」と悔しそうな顔で言う。
それを否定しようと言いかけると、テントの中から駆け足で職員が何人か出てきた。
そして俺達の前に来るとまとめ役っぽい女性が口を開いた。
「攻略お疲れ様です、そして亡くなられた皆さんは……本当に、残念でした……」
「「「……」」」
皆沈痛な面持ちだ。そこに俺は話を切り出す。
「配信の様子を見ていらっしゃったなら分かると思いますが、攻略隊の皆さんの石化を解けるかもしれません。確証はありませんが……」
「……本当か!? やるだけやってみてくれないか!!」
俺の申し訳なさそうな声に反応した有村さんがそう言って俺の両肩を揺する。
「もとより試すつもりです。少し場所を開けてくださいませんか? 開けた場所に攻略隊の皆さんを出したいと思います」
「あ、はい!」
職員たちがパタパタと俺の目の前からはけていく。有村さんと秀樹さんも例外ではない。
俺は十分な広さが空いた事を確認し、異空間収納から石化した攻略隊の皆さんを召喚する。
「おぉ……」
後ろから何故か感嘆するような声が聞こえたが、まだ石化を解いていないのにそんな声を上げたら不謹慎じゃないか?
そう思いながら俺は大仰に手をかざす。
この魔法――《解呪魔法》の成功率はほぼ百パーセントだとは思う。しかしこの魔法は今まで試したことがない魔法なのだ。試す対象がいなかった。そもそもこの世界に呪いにかかった対象がそれほどいない。
だが成功率がほぼ百パーセントだと断言できるのは、この《解呪魔法》が位別規定型だからだ。
位別規定型とは、汎用型のような効力を自由に変えられるものとは違い、込める位によって魔力が決められている魔法の事を言う。
つまり俺は込める魔力の調節を意識する必要がない。
ここで失敗など許されない。
「——《上位範囲解呪魔法》」
俺がそう唱えた瞬間、石化した攻略隊の皆の足元に巨大な魔法陣が現れた。
するとその魔法陣が淡い緑色の光を放ち始め、石化した皆の姿が頭から順に元に戻っていく。
「奇跡か……」
背後にいた誰かがそう呟いた。
◇◆◇◆◇
“すげぇや……”
“こんな事ってあるんだな”
“竜真様……めちゃくちゃ神々しい”
“これって本当にやらせじゃないの?”
“↑考えてみろ、あの有村がやらせなんかできる訳ないだろ”
“草”
“初めてこんな魔法見たわ”
“杏たん、生きててよかった”
などのコメントが配信ではコメント欄に山のように流れていた。
一方掲示板では――。
【最終階層】準S級ダンジョン攻略実況スレpart12【九頭龍】
873:名無しの探索者
マジで何者だよ芳我竜真
874:名無しの探索者
今話題の男、芳我竜真を知らない人のために一応基本情報投下
芳我竜真(21)二つ名は省のサイトによると募集中らしい
数日前にE級からA級に飛び級した異例の経歴持ち
芳我竜真の攻略戦での活躍
・謎スキルによる探索で、散り散りになったS級10名、A級5名と合流。
・今までレシピが存在しなかった魔力回復ポーションを自作、攻略隊に飲ませて回った。
・謎スキルで次の層への階段を特定、誘導。
・最終階層で九頭龍クヴァなんとかの討伐をほぼ単独で成功。
・ダンジョン攻略成功→生還。
・攻略隊の石化を解く。←現在
875:名無しの探索者
有能ニキ現る
876:名無しの探索者
ほえー
21歳でこの強さかよ、化け物じみてね?
877:名無しの探索者
A級S級は皆化け物だろ
878:名無しの探索者
二つ名何になるんだ?
879:名無しの探索者
亡くなられたA級の方々にご冥福をお祈りします。
880:名無しの探索者
S級の皆さんが無事で本当に良かった
881:名無しの探索者
杏たんが結果的に無事で本当によかったぁ
882:名無しの探索者
芳我また水無月に頭撫でられてるw
883:名無しの探索者
この二人の関係性は何なんだ?
884:名無しの探索者
数日前、A級試験の日に水無月パパと芳我が一緒に省に来ていたって事しか知らんな
885:名無しの探索者
水無月パパってあの『天槌』?
886:名無しの探索者
そそ、画像を見る限り仲良さそうな感じだった
887:名無しの探索者
あ、アナウンスだ
888:名無しの探索者
芳賀竜真氏、名指しで省にお呼ばれしてる
889:名無しの探索者
まーそうなるわな
魔力回復ポーションの件もあるし
てかはよレシピ出せ
――などの声があったのだった。
《side:芳我竜真》
石化を解いた後、俺は攻略隊の方々から口々にお礼を言われ、そしてなぜかまた俺は博幸さんに頭を撫でられていた。
「本当によくやったよ。そして助けてくれてありがとうね、竜真君」
ニコニコと微笑みながらお礼を言ってくる博幸さん。それ、もうそのお礼三回くらい聞いてるんですけど? マジで心境が分からない。
生還した喜びを分かち合っている攻略隊の皆さんを眺めながら、俺は異空間収納のリストを眺めながらクヴァルティスの死体を整理する。
見事にバラバラになっていたので、解体せずとも整理ができるので楽だ。
それにしても何故クヴァルティスの死体は丸々残ったのだろう。通常、ダンジョン内に生息する魔物は死んだら黒煙になって消える。いや、ダンジョンに吸収されるといった方が正しいか。
クヴァルティスの死体が残ったことで考えられる要因は二つある。
一つ、最終ボスであるクヴァルティスを倒したことによってダンジョン崩壊が起き、血肉、死体を黒煙として吸収することができなくなったのではないか。という可能性。
二つ、クヴァルティスがダンジョンの魔物ではない可能性。
あの時言っていた、『彼の世界』っていう言葉が気になる。もしクヴァルティスが俺の前世と同じ世界から来ているのだとしたら、何のためなのか気になるな。
そう考えに耽っていると結構な大音量で、出発前に聞いた男の声が聞こえてくる。
『諸君、攻略成功おめでとう! 芳我竜真君は至急、省に向かってくれ』
急に名指しをされて驚く。そして周りの居た人達の視線が俺に向く。
至急という事は即行かなくてはいけないよね?
俺は博幸さんに向き直り、口を開く。
「あの、博幸さん。俺、省の方へ呼び出しがかかったので行ってきます」
俺はそう言って博幸さんと離れると転移魔法陣を発動させる。
すると博幸さんは「私も行くよ」と言い俺の傍に寄ってくる。
「え、ちょ――」
その瞬間、転移魔法陣は発動し博幸さんと共に省へ飛んだ。
異世界から日本のスマホに転生した■■、魂生を楽しむ (仮題) ボンジュール田中 @bonzyu-ru_tanaka
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