第28話
《side:芳我竜真》
その威圧は俺でさえ立ち竦むほどの重圧だった。歯を食いしばり、辛うじて立つ。
『ほう? これを耐えるか……ならばこれはどうかな。〈我が眼の権能に命ずる。滾りし魔力を源とし、彼の者達に石化の呪いを施せ〉――《石化の呪眼》』
瞬間、クヴァルティスの左目が怪しく光ったかと思うと、攻略隊の生命反応が途絶えた。
「——っ」
俺は咄嗟に振り返る。
アイツが言った石化の呪眼とやらが本当なら、博幸さん達は――
――やはり石化していた。
皆、殆どの人が蹲った姿勢のまま石化している。中には倒れている人もいた。これは威圧によって失神したのだろう。
石化ならまだ助かる余地はある。だがこの石化状態の彼らをバラバラにされたらもうほぼ修復は不可能だ。
俺は彼らの足元に巨大な異空間収納への入り口を開け、その中に落とす。
これで俺が死なない限り、彼らは助かるはずだ。
俺はクヴァルティスに向き直る。そして鋭く睨みつけた。
『まさか異空間収納とはな。貴様、魔力量も相当なようだな』
「……れ」
『どうだ、貴様。我ら側に来ないか? ダンジョン運営側に』
「黙れ」
『貴様、誰にそんな口を利いている――!』
俺はクヴァルティスに肉薄し、鳩尾に渾身の一撃を入れようと振り抜くが――掌で止められた。
『いい一撃だ。だがそれでは我に傷一つ付かんぞ!』
クヴァルティスはそう言って俺の拳を握ると、そのまま俺の身体を持ち上げ投げ飛ばした。
クソ、生半可な攻撃じゃ通用しないのか。やはり攻撃スキルを繰り出す必要があるな。
俺は空中にで素早く体制を整え、壁に着地するとそれを踏み台にして跳躍する。そしてクヴァルティスに肉薄する前に、魔剣を召喚し空中で剣を上段に構える。
そして――
『きたか!!!』
「——【
俺はクヴァルティスに到達する前に魔剣を振るった。
刹那、何かが砕けた音と共に俺以外の全てがスローモーションになった。それでもクヴァルティスは目で追ってきている。
俺は肉薄し、叫ぶ。
「
瞬間、俺の魔剣に濃い紫色の炎が宿る。そしてそれでクヴァルティスを斬った。
クヴァルティスの身体が融解するように、するりと刃が通った。
そして時の流れが正常に戻る。
『GURAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA』
クヴァルティスの轟音のような怒声が上がる。それがあまりにもうるさいので俺は耳を塞いでいると、クヴァルティスはドロドロの液体のようになって真っ白い地面にへばりついた。
「うわ、きもっ」
正直な感想が口から漏れる。
『許さん、許さんぞ。我をこんな姿にしおって……いいだろう、貴様には本気で相手をしてやる』
「あ、結構です」
うわ、あれ本気じゃなかったのかよ。まずいな本気はどれほど強いのだろうか?
そんなのんきなことを考えていると、ドロドロの液体のようなクヴァルティスの体がみるみる肥大化していく。
そしてそれが28m級のデカさになると、まるで自動で動く粘土のようにくねくねと動き形付いてきた。
色が付き、九つの頭が鎌首を上げてこちらを殺気立った目で睨んでくる。
あれが九頭龍クヴァルティスの本来の姿なのだろう。まるで第二形態だ。
『改めて名乗ろう! 我の名は、九頭龍クヴァルティス!! 彼の世界に存在する14体の九頭龍の中で闇・暗黒の属性を司る者なり!!』
どんだけ自分の存在を誇示したいんだよコイツ。
そう思いながら俺はクヴァルティスの喋っていた頭目掛けて肉薄する。
「——【
――首を刎ねたつもりだった。
気付けば俺はクヴァルティスの残像を斬っていた。
『芸がないな! 貴様よ!! 《
クヴァルティスの九つの頭から同時に漆黒の光線が放たれた。それは床や壁を融解し、俺に迫ってくる。
それをひらりと避けつつ俺は思う。
掠りでもしたらこの身体でも、炭化してしまうだろう。
攻める隙はあるが、
どうする……? 実験もせずに他の攻撃スキルを使うか……?
『貴様よ! 避けるのに精一杯の様だなァ!!』
よし、腹が立つので使う事にしよう。
まずは――《チェイン・ロック》!
真っ白な床から濃密な魔力で煉られた鎖がいくつも飛び出し、クヴァルティスの体に巻き付く。
『ぬおっ!?』
この魔法は汎用型の地属性の初級魔法だ。
汎用型と言うのは、簡単に言うと込めるイメージと魔力量で威力・効力が変わってくる魔法の事を言う。
俺はこの魔法、《チェイン・ロック》を初級だから危なくないと思い、晶と一緒にE級ダンジョンの魔物に向かって試したことがあるのだが、込める魔力量を誤ってしまった。
巻き付くところまでは良かった。その後が問題だったのだ。
ロック――その巻き付いた鎖と固く締める具合に、魔力量を誤った影響が出てしまった。
結果、鞭が音速で振るわれるが如く鎖が締まった。無残にも実験台のE級の魔物は破裂、バラバラとなってしまった。それに加えて周りの地形が吹っ飛んだ。
それ以来一度も実験していない。俺は魔力を調節して入れるのが下手だったからだ。
それを今、ここでクヴァルティス相手に実験をする!
込めた魔力は体感で5000万。それは超級魔法五発に匹敵する――。
『な、なんなんだこの鎖はッ!! 壊れぬ、壊れぬぞ!!』
クヴァルティスは鎖から逃れようと必死に身体を動かす。だがその鎖が壊れることはない。
むしろその鎖が徐々にクヴァルティスの体に食い込んでいた。
何故かはわからない。前世の記憶が俺の中でフラッシュバックし、それに重ねるように俺は口にする。
「弾け飛べ。駄龍が」
『貴様ぁ!!! この魔術を――ゴぺっ』
クヴァルティスは最後に謎の奇声を上げて、バラバラに弾け飛んだのだった。
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