最終話 Flower with Tear

□ 別れの刻


 彼の墓はない。


 あの日、パーティーが崩壊した彼がいなくなった日以降、私はあの場所には行っておらず、死体が見つかったという報告もなかった。全て蟲に喰われていたと思っていたし、悲しいことではあるが、傭兵として戦争の憎悪の渦の中で溺れ死ぬよりはマシな結末だと思っていた。


 しかし、この悪趣味な呪術師が回収し、屍体として甦らせ、戦うことしかできなくなった彼を見て、汚れた水たまりのようだった心から、かつて口にはできなかった言葉がゆっくりとしみ出しているのを、私は双剣の冷たさとともに感じていた。


 双剣と拳が交差するが、双剣のはやさに拳はもはやついていくことすらかなわず、かつての体術の名残でかろうじて致命部位への被弾は避けているだけ。

 そんな有様の中、縫われていない口から言葉が零れる。

 

 ずっとそばにいるって言ったじゃん

 つまらない話をしてくれるんだよね

 手紙を初めて書いたんだ

 昔はそんなことできなかったのにね

 私のあの場所、もういっぱいなんだよ

 夢を見たんだ、何度も何度も

 君が私のあの顔を見たら、どう思うのかな

 涙を拭ってくれるかな、笑い飛ばしてくれるかな

 私のそばにいてほしいよ、一緒に生きたいよ

 でも、そのからだじゃあきみは私のそばにいられないし、いてほしくない

 だから―


「さようなら」


 息を止めて四連撃。

 四肢の腱を破壊された骸は、そのまま何を言うこともなく、崩れるように倒れた瞬間、黒い靄を全身から垂れ流しながら、塵となって砂漠の風に吹かれて散っていった。


「ふう」


 張り詰めていた息を吐き出し、感覚のレベルを徐々に下げていく。

 なんの気なしに周りを見渡すと、枯れて色あせてはいたが、その形を保っている黄色い花を見つけた。


「ごめんね、今までまともに弔えなくて」


 その花を、靄が散った地面に置く。

 

 生者が去ったとき、花はかつての色合いで輝いていた。


 

 彼女の行方は、杳として知れない。

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デザートドライフラワー タルタル索子 @ALTZN

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