世界史ドリームタッグ

@bongtenging

第1話(完結)

■前半は映画の予告パンフレット風です


ある日突然、地球に宇宙人が侵略してきた。奴らはタイムマシン技術を使って人類を全歴史もろとも抹消し、地球を乗っ取ろうと目論んでいる。

これに応じ地球側も急遽、タイムマシンを発明。あらゆる時代と地域を駆け回り、歴史上の強戦士たち(記録にはあまり残っていない者もいるが)を現代へと招集した。

【ヨーロッパの銃士・ウィリアム、アフリカの猟師・レマイアン、中東のアサシン・ハサン、日本の武士・ホウジョウ。】そしてその部下たち。

ウィリアムは18世紀イギリスの戦列歩兵隊を率いる将校。真っ赤なコートでド派手に着飾り、何十丁も用意したマスケット銃を撃っては捨て、物量に任せ矢継ぎ早に撃ちかける(まどマギの巴マミみたいな戦術)。MMORPGで例えるならダメージディーラー職。レマイアンはマサイ族一番の狩りの名手。羽付き帽子と凝った織模様の装束で山林や岩陰に隠密し、弓矢で一撃必殺を狙うスナイパー。ハサンは11世紀にシリアあたりに存在したとされる暗殺教団のメンバー。涼しげなターバンとトーブをまとい、軽やかなステップで敵の攻撃をかわし、湾曲した短剣で敵の急所を一突きする回避系アタッカー。ホウジョウは12世紀日本で鎌倉幕府を樹立した北条氏の親戚筋にあたる。和鎧と兜で守りをがっしり固め、矢の雨をものともせず敵陣に詰め寄って大太刀で叩っ斬るタンク職。

全員装備や戦い方もバラバラで一見ちぐはぐでまとまりが無いように見えるが、意外と前衛・後衛のバランスが取れた部隊だ。

こうして、宇宙人を撃退するための作戦コードネーム:「世界史ドリームタッグ」が始動したのだった。


これを見た現代人たちは、中世・近世の人間たちにハイテク宇宙人と戦う力などあるのかと初めは笑い飛ばした。ところが、古い時代の人間ほど、神々が居た初期の世界の名残である「神代の空気」を色濃く浴びているため高い身体能力と知性を持っている──後に「」と呼ばれるものが掛かっていることが判明。マジかよ!?

その証拠が、【ホウジョウの防弾装甲鎧を着込んで走る筋力、レマイアンの正確無比な貫通爆弾矢の狙撃、敵のレーザー弾幕をくぐり抜けるハサンの華麗な身のこなし、ウィリアムのマスケット銃。その力を以って宇宙人軍団を次々と撃破していった。】


作戦本部で現代の科学技術などを学び、さらに力をつけていく4人。世界中を観光し、故郷の数百年後の姿を見て喜びあり驚きありで、故郷を必ず守ると決意を新たにする。ホウジョウは秋葉原に行き萌えアニメを目にして困惑するも、まんざら興味がないわけでもない様子。しかし、教養の一環として世界史を学んでいたとき、事態は思わぬ方向へと転がる。【彼らの民族間で戦争が起こり、多大な殺戮と略奪がなされた悲しき歴史を知ったことで4人は対立】し、ドリームタッグは分裂状態に陥ってしまったのだ。


バラバラになった彼らは再び団結することができるのか?そして、宇宙人の手から人類を守ることができるのか!?

【ゆる世界史ロマン&コメディ】ムービー近日上映。


■後半


ハサンやレマイアンが17世紀イギリスの奴隷貿易や20世紀アメリカの湾岸戦争の歴史を知り、深く悲しむ。しかし、帝国主義真っ只中の時代に生きたウィリアムがアフリカの植民地支配や中東への介入を正当化した進歩主義や当時の剥き出しの資本主義を、弱肉強食の論理を持ち出して肯定する。戦国の乱世を生きたホウジョウも、日本が近代化により独立を守ったことを挙げてやや同調する。ハサンやレマイアンが「欲望垂れ流しだ」「国家や経済システムのために人が犠牲にされるべきでない」「そもそも俺たちは争うために生まれてきたのではない」と批判する。そして誰からともなく声が部屋に響く。「【タッグは解散だ】」


その後、バラバラに戦う4人だが、協力できないため劣勢に立たされる。

宇宙人が街を破壊していく。ビルに取り残された小さな子供が宇宙人に撃たれそうになるが、ウィリアムがすんでのところで助ける。そのとき、ウィリアムの脳裏に鮮明な映像が浮かぶ。もしも、ウィリアムたちの軍隊が他国の村を焼き払い、金品を略奪していたとしたら。燃え盛る藁葺きの家に取り残された小さな子供の姿。

【ウィリアムはそのような悲劇が実際にあったことに心を痛め、レマイアンやハサンたちの国の人たちが感じた苦しみと恐怖を想像した。】ウィリアムは他の3人を呼び集める。

ウィリアム「我々の国は本当に取り返しの付かないことをしてしまった。償いたい。」

ホウジョウ「私達も誤った道を辿っていた。」

ハサン「そうだな…なかったことにはできない。でも、どの国も自分たちのことを守るので必死だったんだよな。俺たちもそうだったよ。しかも君たちはいち早く近代化を迎えたから、歴史上初めてのことばかりで分からないことだらけだったよな。俺が君たちと同じように近代化の先頭に立っていたら、ひょっとしたら同じ惨劇を起こす側になっていたのかもしれない」

レマイアン「過去の話もいいが、もっと大事なのは未来のことだ。【これから俺たちは過去の失敗から学び、皆が尊重される世界を共に目指していこう。そのためにまずは地球を守ろう】」

かくして、ドリームタッグは再結成され、4人は戦場へと舞い戻った。


人類の反撃は続く。他のあらゆる地域の戦士もタイムマシンで駆けつけ、参戦したのだ。

【北欧の海賊ヴァイキング、イギリスのプレートアーマー騎士、中国の大将軍、第一次世界大戦のドイツ突撃兵、スパルタのマッチョな兵士、密林の女戦士族アマゾネス、古代ローマの剣闘士、ネイティブアメリカンの投げ斧の名手、忍者 -NINJA-、アステカの鷲の戦士、ヒッタイトの馬戦車兵、犬ぞりで走るイヌイット、アメリカ開拓時代の保安官、マケドニアの重装歩兵、インドの戦象乗り、オスマントルコのサーベル騎兵。】

この軍勢は人類史の集大成と言っても過言ではないだろう。そうそうたる面々が大挙して宇宙人の本陣になだれ込み、大打撃を与えて見事

「ナ、ナンナノダ!?コノバラバラナ格好ヲシタ統一感ノナイ軍団ハ!?ワレワレト全然チガウ!ウワッ、突破シテキタゾ!?」恐れをなした宇宙人は撤退していった。

宇宙人がまた悪さをしに来ないよう、現代の科学者が時空錨を降ろし(SCPのスクラントン現実錨みたいなやつ)、過去改変を無効化する処置を地球に施す。

この戦いは人類の完全勝利に終わり、救世の戦士たちは大いに宴で盛り上がった。

しかし過去から大量の人間が移動したことで時空に歪みが生じ始め、4人は元の時代に帰らねばならなくなる。別れ際、彼らは「歴史の大きなうねりは変えられないかもしれないが、少しでも良くしてみせる」と固く誓い合った。

4台のタイムマシンは四方に飛んで空に消えていった。それをずっと遠くから眺めると、真っ暗闇の中で青い地球が太陽の光を受けて輝いていた。 完


■あとがき


独自の文化や装備をまとったいろんな時代や地域の戦士たちが一堂に会したら面白いだろうな~、との発想で書き始めたら、妙に壮大というか、少々政治的なメッセージも含む話になってしまいました。地球の一員として互いを認めて手を取り合い、ともに困難に立ち向かいたいよね!的なメッセージを含められてたらいいな~なんて思います。


世界史を最近かじりだしたニワカですので、どこか誤りや不適切な点があれば、ご指摘いただけると幸いです。4人を史実上の人物をうっすらモデルにしようかなと思いつつ、ちょうどいい人物を知らず…名もなき一兵士という色合いが強いです。


この話は『アベンジャーズ』や『異世界かるてっと』を観て思いつきました。

歴史上の人物が勢ぞろいするところが『Fate』シリーズや、観たことはないですが『ドリフターズ』にも似てるかもしれないですね。

あとは、最近読んだハラリ氏の『21 Lessons』には、だいたい次のような主張が述べられています。「あらゆる政治・経済の思想や制度は人々の頭の中でのみ共有されている物語・虚構に過ぎない。物語を盲信することは全体のために一部の人々を犠牲にすることの正当化に繋がる恐れがある。この世で最も確かに存在するのは『苦しみ』『痛み』であるため、今生きている人間や生命の苦しみを取り除くことを優先して行動すべきだ」この考えに共感しているため、話の中に取り入れてみたところです。


これハリウッドで映画化してほしいーー!!見てぇーー!!…ってことで、ぜひこのシナリオはご自由にお使いください。この話を膨らませて小説や漫画を書いてくださる方が現れるのを楽しみに待ちつつ。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。皆さんの考えた最強のドリームタッグがあれば、ぜひコメントでお聞かせください。

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