『辺南村』
名前:辺南村(こう見えてへんなむら、と読む)
脅威度:高
場所:H町、B町に続く山の峠にあり
因習村の匂い。
地図にはない村。
存在しない村?本当に?
この依頼自体は政府からの依頼だった。
とある場所にダムを作ろうと思ったのだが、どうしてもその近辺に村が存在するらしいとのこと。
地図には載っておらず、何人かを派遣させたが村を探しに行った一派が全く帰ってこないとのこと。
怪現象など馬鹿馬鹿しいと豪語していた(でっぷり太った)政治家は私たちをじろりと見てこう言いきった。
「何の仕事か解らん怪しい奴らに出す金などありはせんがね」
その言葉を聞いて真っ先に怒りだしたのは定ちゃんだったけど。
そこまで言われては引っ込みがつかないと、定ちゃんが言うもんだからすっかり彼女が行くと思っていたのだけれど、意外にもそれを静止したのは冬伊くんだった。
と、言うのもこの辺南村の出現要因にあるらしい。
辺南村への生き方は深夜2時に山の峠を越えること。
すると下に下る道が現れるらしく、そこを目指すと辺南村に着くという。
辺南村には日本の憲法が通じないだとか、日本で戦っていた日本兵がまだ潜んでいるんだとか、昭和の暮らしをしているのだとか様々なうわさが飛び交うがどれもこれもどこか似た都市伝説の話でしかない。
きっと何かと混ざっているのだろう、別にこの辺南村が存在しなければ、と思うのだが、この 『町はずれの廃ビル302号室』のことを考えれば本当に存在する謎の村だということになる。
深夜2時に女性陣を行かせるのはあまりにも危ないということで冬伊くんが啖呵を切ったのは良いが、峠を越えるのには足が必要だ。
よって、車を唯一運転できる私が同行することになった。
深夜1時にH町を出て1時間、県境の山にやってくる。
山道に沿って車を走らせる。
もうすぐB町というところで奇妙な下り道が現れた。
しめた、と思い私たち4人はその下に向かう。
書き忘れていたが、一路くん、紫樹くん、冬伊くんの3人で来ている。
女性は私だけだ、ちょっとしたハーレムだったね。
入って一番に感じたのは、人気のなさだ。
少なくとも、深夜に人気がないのは当たり前だがとにかく人の気配が全くと言っていいほどしない。
深夜に活動している人は愚か、電気を消した家ですら「本当に人がいるのか」すらも不明だ。
私たち4人は玄関のノックを試し見る。至る所の家からも誰も出てこなかった。
仕方ない、諦めようと戻る途中、常識はずれの紫樹くんが1つの家の扉を開けた。
慌てて謝罪しようとしたが、中から溢れだす何かの香りに私たちは肝を抜かれた。
味噌汁の匂い。
中に入ってみると、温かな味噌汁が置かれた穏やかな食卓が現れた。
だが、可笑しなことに誰もいないのだ。
人の気配は全くしない。しかしついさっきそこにいたような錯覚に襲われる。
背中に冷や汗が伝った。
これは、いわゆるマリア・セレステ号と同じなのか。
違う、といったのは一路くんだった。
味噌汁の椀を持った。
「熱いくらいに温かい」
それは、ついさっき置かれたことを意味している。
背中にひやりとした物が伝った。
外に出ると、眼前に掲示板があるのに気付く。
それをみた我々は、更に度肝を抜かれることになる。
恐らく、あの政治家が行っていた「送りつけた一派」のことだろう。
1人1人の顔写真が並べられており、その上には真っ赤な文字で一言。
処刑 と書かれていた。
その下には細かいことが書いてあった。
広場の中央で首吊り処刑。
暴れるものは斬首、というものだ。
最後に送ったのはいつだったのか。少なくとも、ここにいる数人は既に亡き者にされてる可能性が高い。
「念のため、行ってみますか?」
冬伊くんがそう言うと、好奇心、恐怖心、様々な感情が入り交ざり、頷くしかなかった。
結局のところ、広場にあったのは巨大な絞首台と、揺れる麻紐。
そして、汚い地面だった。
まるで中世のヨーロッパのような光景だ。
息をするのも、憚られるような威圧感。
暗闇の中、まるで光っているように存在感を表すその絞首台に、更に嫌な予感が過る。
――マズイ。
私たちは一刻も早くこの村から出なければならない。
何故なら、先ほどまで無かった人の気配が
異様にしたからだ。
車を発進させ、慌ててH町に戻り我々の拠点へと戻る。
事の顛末を女子たちに説明すると、彼女たちも想像したのかゾッとした顔になった。
この事をどうやって政治家に伝えるか、考えるのも億劫になるほどだ。
結局、私たちは再度訪れてくれた政治家に全てを話したが、流石政治家様は何も信じてくれず、結局あの村に行ってしまったのだろう。
後日ニュースで政治家が行方不明というのを連日やっていたが、それも1週間もせずに皆の記憶から消え去ってしまったのだから。
LORE Rokuro @macuilxochitl
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