第273話

 その後は、俺も先輩も疲れたので早々に寝ることにした。

 珍しく夢を見た。


 子供の頃の、無知故の恥ずかしい失敗の夢。他人からすれば本当に些細なことだが、今もたまに思い出すと叫びだしたくなる。そんな夢だ。


 目が覚め、妙に呼吸が荒くなる。なんであんな夢を見たんだ?しかもやけにリアルだった。


 汗を拭って起き上がると、とんでもなく不機嫌そうな顔の先輩が、ブツブツと何か言いながら鋭い目つきで短剣を磨いていた。

 あれ?俺まだ夢見てる?


「起きたかい?雄亮君」


「あ…………はい、おはようございます先輩」


「君も悪夢を見たんだろう?」


 悪夢?まあ、良い夢ではなかった。微妙に恥ずかしくなるだけだったけど。

 肯定の意味を込めて頷くと、先輩が舌打ちする。


「チッ、邪神が僕と君に過去のトラウマを夢として見せてきたようだ。見る限り他の人はターゲットにされていないから、リーダー格の判断力を鈍らせるのが目的かな」


 シャーシャーと、先輩は砥石で短剣を磨きながら低い声で説明してきた。


 確かに戦闘中にあの夢のことを思い出したら動きが悪くなりそうだ。

 さすが先輩、敵の思惑なんてお見通しだな。


「先輩?」


「フーッフーッ、あのドグサレカス野郎が……いいだろう。目にもの見せてくれるぅ!」


 おーっと、先輩はかなりブチギレておられる。一体どんな夢を見せられたんだ!?


「先輩先輩、冷静になってくださいよ。そこまで怒ってると邪神の思う壺でしょ」


 ブチギレてる先輩は、言ってるセリフだけを見れば悪役に見えてしまう。

 いや、鋭い目つきで武器を研いでいる時点で悪役か。


「失敬な。僕は至って冷静だよ。冷静にぶち殺してやる」


 駄目だ。もう何言っても聞いてくれない雰囲気だぞ。


 しかし、同じ術にかかったのにここまで効果に差があるなんて、先輩のトラウマが相当重かったのか、俺がちょっと嫌な気持ちになった程度のトラウマで済むくらい頭お花畑だったのか、どちらなのだろう。


 後者はちょっと嫌だな。


「そもそもあの邪神は殺せないって自分自身で言ってたじゃないですか……」


「出し惜しみはしない。ああそうとも。なんの容赦もしてやるものか」


「あのぅ」


「………………」


 もう無言で武器を研いでいる。研ぎ方が力任せになったのか、シャーシャーとした音が大きくなってジャー!ジャー!と聞こえる。


 本当にどんな夢を見たんだ?






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