獅子と酢漿草
笹倉海春
本編
第1話
学校図書室から帰ってきた私─
取っ組み合いをしている男子、声にならない悲鳴をあげる女子。
遠くから、救急車の音が聞こえていた──。
ここは、T県A市立A高等学校。そもそも田舎のT県のさらに田舎な所にある自然豊かな学校だ。G県やS県との境ギリギリにある為、色々な県民がこの学校に来ている。
私が住んでいるのはG県T市。本を読むのが大好きな私は、正直言ってこの街が嫌いだ。
書店も貸本屋も図書館も全部車で30分。何故私はこんなド田舎に生まれてしまったのだろう、とよく思う。
唯一の救いが、移動図書館。2週間に1度の移動図書館の来るはとても楽しみにしている。
今日は、移動図書館の来る日だ。
─放課後─
「あ、栞莉ちゃん、こんにちは!」
「ハルトさん!」
彼はハルトさん。移動図書館の車を運転している図書館司書の資格を持つ人だ。
「あ、これ、お願いしまーす」
今読んでいるのは、魔法使いの主人公が魔法界を冒険する話だ。
全部で12巻あるうちの第5巻。
これで1巻約500から1000ページもあるのだからこれを書ききった作者は相当の達成感があっただろう…。
そんなことを思いながらこの本を借りる。と、
「「「あ、しおりお姉ちゃん!」」」
あどけなさの残る可愛らしい声がする。
「あ、ミトくん、コトちゃん、リトくん!」
この3人は、ハルトさんの子供。小学2年生の3つ子だ。他に私くらいの男子がいるらしいけれど、そちらは見たことがない。
「しおりちゃん、どこまでよんだの?」
「今、5巻だよ!」
「え〜、すご〜!!」
かわいい!!
「ありがとう…!!!!」
この3人の天使、可愛すぎる!!
きゃわわ〜♡♡♡
あぁ幸せ…神様、私は、この天使たちと一生仲よくすると誓います…!
「本田?」
「ひぇっ!?」
突然の声に振り向くと、後ろにいたのは…
「ひゃああああああああごめんなさいいいいいいいいい!!!!!」
思わずその場から逃げる。
走りながら、頭をフル回転させる。
私に話しかけたのは、獅子倉くん─
数日前の出来事が脳裏に鮮明に浮かぶ。
─クラスメイトを殴って、停学になった人。
獅子倉くんに申し訳ないけれど、正直言って獅子倉くんは苦手だ。
とにかく怖い。
よりによって図書館で頬を緩めてしまっている時に会うなんて!!
最悪!
さっきの事をできるだけ思い出さないように慌てて借りたばかりの本を取り出す。
そしていつもの栞を─
「…栞!?」
「あれ、栞がない!!!!!」
嘘でしょう、まさか走っている時に落としたとか…
どうしよう!!
……To be continued
獅子と酢漿草 笹倉海春 @Miharu_Sasakura
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