第3話 初めての仲間
驚いたまま固まっていると、リミナの持つスコップとつるはしが光りだす。少ししてこちらに柄を向けて渡して来た。
恐る恐る手に取り【世界知識】スキルを発動させて確認したところ
―最低ランクからCランクまで上昇。この世界のドワーフが所持する魔法ではなく、スキルの発動を検知。
ナビからそう報告される。ドワーフの魔法ではなくスキルってなんだろうと思ったけど、自分もそれに類することに気付く。
偶然にしては出来過ぎに感じるが、こちらが持つ特異性に引き寄せられてきたのかもしれない。完全に信用した訳ではないけど、リミナの座っていた岩に近付き触れ変換し、少しだけ取れた鉄を掌に載せて見せた。
「俺の持っているスキルはこんな感じだ。これが魔法で無いことは、詠唱も発動時の掛け声もないことからも分かるよね?」
こちらを見つめたまましばらく動かないでいたものの、やがて涙をぽろぽろとこぼし泣き始める。慌てて駆け寄り大丈夫かと尋ねたところ大きく頷き、良かったと大きな声を上げた。
彼女を見て昔の自分が重なる。魔力が無くて魔法が使えず悲しんでいた時に、亡きこの世界の母が泣いてる子には優しくしないとね、と言って抱きしめてくれたのを思い出す。
元の世界では親から抱きしめてもらうよりも、もっと普通にしろ普通になれと叱られることが多かった。
何が普通なのかも分からず親の顔色を窺いながら時は過ぎ、小学校時代にに皆が喜ぶ中で自分が冷めた感じていたら、初めて両親から褒められそこからそれが正しいんだ、と理解したのを思い出す。
これまで一度も振り返ることは無かったので気付かなかったが、小学校時代の件で両親の求める普通の正解を得たことで、感情を押し殺し始めたんだと気付く。
前の世界では親とは自然に疎遠となっていたし、どちらの世界でも親が亡くなったところで泣く事は無いだろうと思っていた。
実際こちらの母が息を引き取った当日は泣かなかったけど、抱きしめられたことを思い出して涙がこぼれる。
どうにかして止めようとするも、後から後からとめどなく流れ続けた。このまま泣いて立ち止まってしまっては、アイツらに母がされたことを思い出し憎しみに支配されてしまう。
しばらく二人で泣き続けた後、落ち着いたリミナは自分のことを教えてくれる。ドワーフの豪族の家に長女として生まれた彼女は、やがて家を継ぐつもりで鍛冶の修行をしていたが、最終工程である魔力注入時に魔力が無いことが発覚する。
魔力を注入できなければ他種族と差別化出来ず客も付かない。色々試してみても魔力は宿らず家は弟が継ぐことになり、失望した父親に家から追い出されてしまったらしい。話を聞き終わりため息が出た。
自分のような目に遭った人と追い出された初日に会うなんて、どんな確立なんだと呆れる。彼女に対し自分も全く同じで今さっき追い出されたばかりだ、と告げると目を丸くして驚いた。
「私、鍛冶しか学んでこなくて……。採掘も出来なくて道に落ちてるものを加工し、どこかで雇ってもらえないかって探してたらここまで来ちゃって」
どうやら追い出された日も同じで違うのは時間だけらしい。なんだかどっと疲れが襲って来て地面に座り込む。リミナは心配してくれたが大丈夫だと笑顔で答える。
「もはや一緒に居ないのが罰が当たりそうなレベルだな」
「頼れる人も誰も居なくて……出来れば一緒にいさせて頂けると助かります」
「構わないけど俺の元家はすぐそこだし、親父や兄弟には心底嫌われてる。出来ればここから離れたいんだけど良いかな」
「問題ありません! 北東から来たんですが、途中シカとかが多い草原がありました! 行くのであれば急ぎましょう!」
そう元気に言い終わると同時に彼女のお腹の虫が鳴き、釣られてこちらのお腹の虫も鳴く。二人で一頻り笑い合った後でその地を目指して移動を開始した。
森の中を移動するのに松明を作成しリミナにも持たせて進む。先ほどと同じように進めば進むほど、獣と血の匂いは多く濃くなっていく。
人間に町があるように獣やモンスターにとって森は町なのだろう。見たこともない新参者が入ってくれば、警戒するのは当たり前である。
森の平和を乱すつもりはないので急いで走り抜けていく。やがて日は傾き始め差し込む光も弱くなってきた。
視界がはっきりしている状態では控えていた獣たちも、夜が来てこちらの動きが鈍くなれば、躊躇わずに襲い掛かってくるに違いない。
リミナは体力に問題無いようだけど、こちらは剣と盾を作るために飛ばし過ぎた為、徐々に走る速度が落ちてしまう。
休憩しましょうと言われたが、ずっとこちらの後を付けて来ている臭いが一つあったので、急いで抜けるべきだと考え首を横に振り走り続ける。
「す、すまないリミナ……限界だ」
気合いでしばらく走り続けてみたものの、草原に辿り着く前にこちらの体力が底を尽きてしまった。足を止め松明を地面に突き刺し、息を整えながら木の枝を剣で斬り落とし集める。
ある程度の量が集まったところで松明を使って焚火を作った。バラバラに動いては危険だと思い、リミナと二人で食べれそうな木の実などが無いか探し始める。
匂いや形に色などを見て良さそうなものを一か所に集め、【世界知識】スキルを使用し確認した。
運良く食べられるものが数種類あり、リミナに大目に渡して夕食を取る。大した量では無かったためあっさり食べ終わってしまう。
転生前なら腹の減りも少なかったが、今は十五歳なので食べ盛りだったことを思い出す。
こういう時はさっさと寝てしまうのが良いけど、今は野宿で獣が近くにいるかもしれない状況ではそれも難しい。
リミナに先に寝るよう勧めるも、クレオさんの方が疲れているのでお先にどうぞと気を遣ってくれた。
体力を考えれば彼女の方があるし、突っ張れる身分でもないのでそうしたいものの、ずっと付けてくる臭いが気になる。
焚火を囲んでその話をしたところ、リミナも気付いていたという。あまり怖がらせたくないのですけど、と前置きした上で彼女はこの森の主といわれる、ホワイトキングの話をし始めた。
この森一帯は昔から動物とモンスターの森としてあり、地形が複雑なのもあってどの種族も立ち入らなかった結果、独特の支配体制が出来上がっているらしい。
資源を取る場合には入り口付近でお供えをし、それが消えていたら主の許可が下りたと受け取り、森に入り資源を採取する。
いつ誰が始めたか分からないようだが、許可を得ることで安全に採取が行えていたので、皆守っていたようだ。
ある日好奇心の強い者がお供えを取りに来るのは誰かと考え、なるべく見つからないような場所で待ち続けた。
三日目が終わろうとした朝、森の中から草木を掻き分け白い毛の巨大な狼が出てくる。
堂々とした姿に王の風格を感じ、発見以降はホワイトキングと名付けられ、この森の主として他の種族にも周知された。
腕に覚えのある者が挑んだこともあるようだけど、結局誰も帰ってこなかったとリミナは言う。
彼女が声をかけたのも草原へ急ごうとしたのも、そうした言い伝えや伝統を知っていたが故だと知り納得する。
恐らく付けているのはホワイトキングだろう。お供えをすれば何とかなるだろうと思ったが、肝心のお供えする物が無い。
【世界知識】スキルを発動し相談したところ、近くに川が流れておりシャケがいると教えてくれた。
森は暗闇に支配されこちらは動きを止めてるが仕掛けてこないし、木の実だけではお腹を満たせないので、お供え分以外に自分たちの分も取ろうと決める。
川までの案内を頼み元の景色に戻るとリミナに提案し、同意を得ると焚火に木の棒の先を入れ松明を作り移動を始めた。
雑草を掻き分けながらナビの指示通りに道を進んで行くと、水の音が聞こえてくる。
リミナと目を合わせ喜び合いながら警戒しつつ、水の音へ向けて走り出した。
「わぁ……!」
月明かりに照らされた川を見て、リミナは感嘆の声を上げる。美しく幻想的な風景がそこには広がっており、魚が一匹ざばっと川から上がったのを見て声を弾ませた。
魚がいるのは間違いないようだけど、問題はあれをどうやって捕まえるかだ。ナビに頭の中で呼びかけ質問したところ、釣竿を作成し近くのミミズを使い小魚を釣って確保し、それを餌にすれば釣れると教えてくれる。
さっそく松明を地面に突き刺し、先ほど取った鉄と近くにあった太い木の枝を使って、頑丈な釣竿に変換した。
近くにある岩を使って鉄を取り、枝も確保してリミナの分も変換する。さぁやるぞとなったものの、糸が無いことに気付く。
どうしたものかと考えていると、彼女がリュックから糸を出し提供してくれ互いの竿に糸を通す。ミミズは鉄を取った際に無くなった岩の下に居たので、利用させてもらい釣りを始めた。
「やった!」
二人で並んで糸を垂らしていたところ、しばらくしてリミナが魚を釣り上げる。一旦川から離れ魚の口から針を取ってエラに刺し、彼女には鮭釣りに挑んでもらう。
気持ちで焦っては駄目だと思いつつ、深呼吸しながら当たりを待つ。
「ク、クレオさん!」
目を閉じてじっと当たりを待っていたが、リミナの慌てた声に目を開けると川に巨大な魚が現れ、彼女の餌に喰い付いていた。そんな情報は聞いてないぞと思いながらも、この魚を釣り上げればお供えしてもお釣りがくる、そう考え自分の竿を投げ捨て一緒に引っ張る。
転生するも魔力がすべての世界で魔力が無い!それでも与えられたスキルを駆使しスローライフを目指す! 田島久護 @kyugo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。転生するも魔力がすべての世界で魔力が無い!それでも与えられたスキルを駆使しスローライフを目指す!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます