第2話 アイテム作りをしていたら、特異なスキル持ちに出会う

「スキルは便利だけど方角確認に毎回出すのはめんどいし、コンパスとかあれば欲しいよなぁやっぱ」


コンパスを買う金もないので門を出ると同時に【世界記憶】スキルを起動し、ぼやきながら方向を確認しつつ歩く。


「ナビとかないんかなぁ」


―ナビゲーションシステム、起動。


 無理だろうなと思いつつぼやいたところ、こちらの要求にこたえるように案内が始まる。万能さに感激しこれこそチートスキルだと喜びながら移動した。


この世界は魔力が全てであり、人々は生活の至る所で魔法を行使して生きている。だが魔力の量は個人個人で違うため、結局人力による部分も多かった。


世界を支配している十賢者という連中がいるが、彼らは無限の魔力を持っており生活すべてで魔法を行使しているらしい。まぁ雲の上のさらに先の存在なので、会うことは無いから気にする必要は無いだろう。


 そんなことを考えている間に町の門まで来ており、門兵のチェックがあるも荷物は何も無いのであっさり通過する。


出た先には草原が広がりすれ違う人も多かったが、北北東へ進むにつれ人は減り草原から森へ切り替わっていく。


町の近くとは違い人の気配は無く、風で揺れる木々や雑草の音だけが響き渡っていた。ここからが本番と思い気を引き締めて道なき道を進む。


【調教スキル・極】のお陰で動物の多くは敵意を抱かず通過していく。森が深くなると風に乗る匂いが変わり、獣臭さが多く混じり時には血の匂いもするようになる。


侵入者であるこちらを獰猛な動物が監視しているかもしれない。スキルを使用しても獰猛な動物はスルーしてくれないので、弱くて食べれそうだと思えば迷わず襲い掛かってくるだろう。


動物と言えば火が苦手そうだなと思い、低い木の枝を折って【物質変換】スキルを使用し松明を作ったところ、獣臭さが減った気がした。


 森の中を進んで行くと開けた草原に出たが、町の近くのとは違い岩がゴロゴロし、水たまりや動物の死骸などが転がっている。


シカの死骸があったので近付き、【世界記憶】スキルを発動し【物質変換】スキルで食料に変換できるか問うも、死骸は時間経過による腐敗が進行しており不可能だと答えた。


腐敗の進行で不可なら新鮮であれば可能と考えられたので、確認してみると可能だと答える。有難いスキルを頂いたなと思いながら移動を再開した。


 草原はそう長くは続かず森が先の方に現れる。なんとなく野生の勘的なものが働き、この先軽装のままでは危険だと感じ装備を作ろうと思った。


スキルを発動し現時点で変換可能なものを聞いたところ、目の前の木から木の盾と剣が出来るという回答を得る。


一瞬作ろうかと思ったものの、魔法がある世界で木の剣と盾では心もとなかった。鉄の剣は最低でも欲しいと考え改めて聞いてみると、品質は最低ランクだが時間は掛かっても作成は可能だという。


手順は先ず初めに木の枝を二本作った後に、頭くらいの大きさの石を見つけ、枝を置いて【物質変換】スキルを使用し石のスコップとつるはしを作る。


石のスコップとつるはしを用いて地面を掘り進み、鉄を含んだ岩を見つけたら変換して作成、という感じらしい。


ついに肉体労働をする時が来たか。こんなこともあろうかと魔力がゼロと判明して以降、許される行動範囲内で体を鍛えていたので、頑張ろうと気合を入れ斜め右下へ向け地面を掘り進めた。


「あの、誰かいらっしゃいますか?」


 汗だくになりながら地面を掘り進め、しばらく掘ったところでナビから鉄を含んだ岩発見の報告があり、鉄ゲットだぜと喜ぼうとした時に後ろの方から声が掛かる。


まさか追手か!? と思い警戒しつつ振り向いてみると、先の方に小さな子どもがいるように見えた。子どもかと一瞬ホッとしたものの、追手が必ず大人であるという保証はない。


追手だった場合、こんなところから返事をして水なり火なり放たれたら、変換出来るとはいえ危険すぎる。


急いで鉄を含んだ岩に手を当て変換し、さらに鉄の剣へと変換しゆっくりと地上へ上がった。


「居たんですね! しかも人間族とは珍しい! ……なぜ人間族が穴掘りをしてるんですか?」

「少々事情がありまして」


 身長は百三十センチくらいで体からはみ出るリュックを背負い、カラフルな彩のポンチョを着た緑髪の子どもが聞いて来る。人間族と見た目は変わらないものの、左耳のピアスを見てこの子がドワーフだと思った。


ドワーフは手先が器用で製造関連において全種族一の腕を持ち、自分の自信作を必ず左耳につけている、と家庭教師に教えてもらったのを思い出す。


自信作を身に着けているのは宣伝と営業を兼ねており、その作品を見て気に入った人が製作を依頼することが多いらしい。


「申し訳ありません挨拶がまだでしたね。はじめまして、私ドワーフのリミナと言います!」

「ど、どうもです。クレオと申します、よろしくお願いします」


 自己紹介し頭を下げた後で戻したところ、リミナと名乗ったドワーフは目を丸くして止まっている。


挨拶の仕方を間違ったっけなと思いながら、急いで脳内を検索しているとそう言えば左胸に手を当てるんだっけ、と気付きゆっくりと手を当て再度頭を下げた。


「あの、クレオさんは人間族ですよね?」

「はいそうですが」


「私ドワーフですけど」


 問われたので答えつつ頭を上げると、リミナが申し訳なさそうに言ったことで察する。この世界は魔力に重きを置く世界であり、それ故に価値も序列も魔力量で決まっていた。


一位は竜族で二位は魔族、三位がエルフで四位がなんと人間族なのだ。ゲームとかだとステータス平らな種族なのに四位は驚きである。


人間族から下の順位は記載が無い。人口的に見ても上位以外の方が多いけど、種族としてバラけているから記載しないそうだ。


 ドワーフはその他の種族だが種族体質で魔力は製造物にしか使えず、それ故にすべての種族と取引をすることで身を護っていた。


彼らは上位層を恐れたが上位層は彼らを見下しているおり、まるで父親が魔力ゼロの自分を見るような目で見ている。


人間族はドワーフに対して横柄な態度を取る種族だ、ということをこの子は身に染みて知っているからこそ、こちらの態度に驚いているのだと思った。


これまでの人生で他人に見下されこそすれ、他人を見下すようなことは無い。本格的な対魔法戦も今のところ経験していないし、チートスキルを持っているとはいえ侮れば負けるだろう。


本当のところを話すかどうか迷ったけど、話さずに自分はそう言う人間だと答えた時に、人間族にも良い人がいるなどと勘違いされては困るので説明する。


「なら話は早い。俺は魔力ゼロで生まれた人間族なんで、あなたを見下せるような身分じゃない。こうやって穴掘りをしてるのも魔力が無いからなんだ」

「え!?」


 目を見開きながらたじろぐリミナを見て、リアクションが面白くて笑ってしまった。一頻り笑い終えると彼女に対し、なにか用が無ければ穴掘りに戻っても良いかと聞くと頷いたので、じゃあと告げて穴の中へと戻る。


正直言ってあまり時間は無い。戻る時に空を見たが昼は確実に過ぎていた。一日で百キロは無理だがある程度のところまでは移動したい。


こんな近くで長時間居座っているとなにか企んでいるのではないか、と疑念を抱かれてしまう可能性がある。


出来れば剣以外に盾や鎧を手に入れたかったけど、掘れども掘れども鉄の混ざった岩が出てこない。


先ほど出た一個目に似た岩が見える度に、やっと出たかと喜びスキルで確認しても銅だったりで、精神的にも体力的にも限界が近付いていた。


しばらく掘り進め一つ見つかったものの、変換しても盾か篭手のどちらかしか作れないと言われる。


取りあえずは剣があるので盾だろうとなり、変換を終え外へ出るべく疲れた体を引きずりながら歩き出す。


「あれ……」


 剣を杖代わりにしてようやく外へ出ると、少し離れたところにリミナがいて驚く。岩に腰かけお茶を飲んでいたがこちらを見つけ、コップを逆さにし水を払いながら慌てて駆け寄って来た。


「お疲れ様ですクレオさん!」

「え、あ、どうも」


 もう剣を隠す気力も無かったため杖代わり状態で挨拶する。剣を見た後でこちらを見、ぐるりと回って前に戻ってくると首を傾げた。


まぁ魔力がゼロなのに突然穴から剣や盾を持って出て来れば、疑われても仕方がない。かといってスキルの事を話すのは危険すぎる。


特異なスキルであることは承知しているし、いずれ多くの人に知られた時にこの子が巻き込まれたら、助けられるか保証できなかった。


体を鍛えたり剣術を学んだりして来たものの、穴掘り程度でこの有様では実戦での効果は期待できない。


「クレオさんは本当に魔力ゼロなんですか?」

「嘘を付いても仕方がない」


 気の利いた嘘が思いつかなかったので、問われたことに対して正直に答える。こちらの言葉を聞いたリミナは、何も言わずに穴の中へ駆けて行った。


「短時間でこれだけ穴が掘れるのに普通とは思えません」

「え、その程度ドワーフなら楽勝では?」


「楽勝……? 楽にできるということでしょうか。であれば出来ません。こんなランクの低い道具では半分も行けるかどうか」


 戻ってくると中に放置した石のスコップとつるはしを持ち、真剣な顔で言われる。気を遣って褒めてくれているのだろうけど、自分がそれほど凄いとは思えなかった。


問題はどう誤魔すかだ。目を見た感じ疑っているというよりは、好奇心で聞いているようなので、適当に言っても引き下がらないだろう。


「申し訳ないが種は明かせないので、そういう不思議な人間が居たなと言うだけに留め、明日には忘れて欲しい。それがあなたの為だ」

「そうですか……」


 リミナはよほど残念なのか肩を落とししょんぼりする。見ていて可哀想に思ったものの、知れば災いにしかならないのは間違いないため、ここは心を鬼にして押し通す。


「あの! 私この道具をランクアップさせることが出来ます!」

「え、マジで!?」


 諦めて大人しく去ってくれるかと思いきや、想定外の方向の話が出て来て驚いてしまう。


ランクアップってどういうことだ? 相手もこちらの状態や状況に混乱しているだろうが、それと同じ状況になった。

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