転生するも魔力がすべての世界で魔力が無い!それでも与えられたスキルを駆使しスローライフを目指す!

田島久護

第1話 あだ名が空気なのに転生したら毒になり追い出された

 仕事もしくは学校生活が充実し、彼女も居て友達も居て今の人生は順風満帆だ、なんて人間がどれだけいるのだろうか。


誰かにとってあこがれだったりヒーローにもなれず、陰で言われるのは悪口だけで何ならいることすら忘れられる、そんな人間である自分の心の中は無風状態だった。


憎しみや劣等感を持たないだけマシだと言うかもしれないけど、持つほど人間に興味が無いだけである。


勉強やスポーツで取り立てて目立つこともないが、コミュニケーションはそれなり。毒にも薬にもならない、そんな存在だった自分の学生時代のあだ名は空気だった。


ひょっとしたら怒るところなんだろうけど、空気は欠かせないものだが自分は違うな、という感想でしかないのを覚えている。


自分の名前は山田久怜央と言うが、物珍しい名前なので初対面の人には一瞬興味を持たれるものの、結局最終的には同じようなあだ名に落ち着いた。


普通の人が当たり前に持つ感情が欠落しているのを感じ、自分はこの世界に居るべきではないのではないか、と小さい頃から思い始める。


 ズレを感じながらもなんとなく過ごしやがて就職したものの、とくに修正されることなく過ごしていた。


生活の中で唯一の楽しみと呼べるものは、休日のゲームだけである。特にRPGゲームが大好きで寝食を忘れるほど夢中になった。


ゲーム以外で楽しいことが無い生活を送るうちに、プレイしているゲームの中のような世界で人生をやり直したい、そう思うようになり寝る前も異世界に行きてぇと呟くのが癖になっていく。


「クレオ様可愛い!」


 叶う訳がないと思っていたある日、目を開けると見たこともない人々に笑顔で見つめられ、下の名前を呼ばれる。


なぜ知っているのかと聞こうとするも言葉が出なかった。体を動かそうにもすべてが短く感じ横を見ると柵が見える。


周りの人々が元気な赤ちゃんで良かったと喜んでいるのを聞き、自分が赤ん坊であることを知った。


 これは人生をやり直すチャンスだと歓喜し、なるべく子供らしく過ごし世界や言葉を学んだ。どうやらこの世界は人間以外にも言葉を喋る二足歩行の種族がおり、皆魔力を持っていて魔法を使い生きていると知る。


ゲームのようなファンタジー世界の人間に転生したんだと喜び、さらに家が金持ちであったことから自分にもやっと幸運が巡って来た、はずだった。


「クレオ、もうお前も十五になったな? では我がヤッシー家から出て行って貰おう」


 目の前のオールバックに髭面、目のつり上がったおっさんが高そうな椅子に座り、ふんぞり返りながらこちらを見下ろしそう言い放つ。


コイツがこの世界での父親で、リョウギ・ヤッシーという。初めて見た時から偉そうだったが、十年ぶりに見ても偉そうで印象は最悪なままである。


生まれてからしばらくは蝶よ花よと育てられたものの、五歳の時に魔力が無いと判明するや否や、母と共に敷内の小屋に隔離され生活することを余儀なくされた。


着る物や食べる物、勉強や剣の稽古などの教師には困らなかったが、すべての人から哀れみの眼で見られ、鬱陶しいことこの上ない日々を余儀なくされる。


以前は抱くことのなかった怒りや憎しみそして惨めさを、転生した先で十年間味わうことで取り戻す。欠けていた感情を取り戻したのは良いことなのだろうが、出来ればもっと良いことであって欲しかった。


「ふん、母親は優秀だったから嫁に貰ってやったというのに、息子には容姿しか継承させないとはトンだ出来損ないよな」


 母親は病に侵され亡くなったけど、その時ですらこの男は”魔力ゼロの子どもを産んだ罰だ”と吐き捨てている。


二人で慎ましく息を殺して生きてきた母を蔑ろにされ、憎むなと言う方が無理があるものの、決してあの人たちを憎むことなく自分の生きたいように生きなさい、という母からの遺言でもあるので我慢した。


逆に言えば憎まなければやっても良いと思うので、この先会うことがあり邪魔くさかったら無心で刺すと決めている。


なんにしてもこれでようやく解放されるようだ。十五の誕生日という喜ばしい日に、放逐を言い渡されとても喜ばしい。出来れば感謝の言葉の一つでも述べて出て行こうかとも思ったが、可愛げがあり過ぎるので相手に合わせた対応をした方が良いだろう。

 

「魔力も無い家柄に相応しい態度も取れない、何ならお前にあるのだろうな……まぁもう何も言い及ぶことは無い、家から出ていけ」

「あのー黙って話も聞いたんで、せめて餞別くらい貰えませんかね」


「ヤッシー家という名家に生まれながら魔力ゼロの出来損ないを、十五まで養ってやったことが餞別だ。疾く失せよ。聞こえぬのか? ……おい、衛兵!」


 家の恥なので一刻も早く追っ払いたかったのだろうが、子どもを放り出したのでは面子に関わる。一人で生きられるであろう十五まで待ち、誕生日に即刻放逐を言い渡し追い出す。


なんという素晴らしい名家だ。糞見たいな名前に相応しい行動で呆れを通り越し、乾いた笑いしか出なかった。


「何が可笑しい? 相変わらず気持ちの悪い奴だ……さっさと連れ出せ!」

「あざっしゃいー!」


「意味不明な言葉を発するな! 衛兵! この汚物をどこかへやれ! 何故来ない!?」


 ”あざっしゃい”とは、”ありがとうございました謝意を表します”という俺が作った略語だ、そう言い張ってみるも通じず案の定余計キレさせてしまう。


十五年も隔離してくれたお礼に少しくらいおちょく……じゃない、感謝の言葉を述べようとしただけのに残念だ。


結局衛兵は来なかったので、話も進まないし自分から出ることにする。


「いよぅ出来損ない! やっとこの家から消えてくれるのか?」


 豪華な装飾の施された壁や柱、それに真っ赤な高そうな絨毯の上を歩いていると、脇から高そうな服を着た肩まである金髪が出て来る。


記憶の中にある兄弟の小さい頃と照らし合わせたが、誰とも合致しない。目付きや態度からしてあの父親の子どもだとは思うが初めて見た。


なにか素敵な言葉でもかけてやろうと思ったが、罵詈雑言しか思いつかないので笑顔で通り過ぎる。


「フン……くらえ!」


 声を聴き即身を翻すと火の玉が飛んできている。正直このまま適当に避けようかと思ったけど、一つくらいやり返しておこうと考え両手を突き出す。


「変換!」


 手の先まで来ていた火の玉は、まるで何もなかったかのように掻き消えた。相手は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたが無視し、笑顔で頭を下げ踵を返し屋敷を出るべく再度歩き始める。


魔力ゼロの自分がその代わりに得ていた能力の一つ、それがさっき火の玉を消した【物質変換】スキルだった。


気付いたのは五歳くらいの時だ。他の人が魔法を使っていたので自分も使いたくなったけど、何をどうしても出来ない。周りの大人も気付き医者や王様直属の魔法使いが見るも、魔力が無いと判明したのもその時である。


父親はそれを信じずあらゆる手段を講じ、魔力が出せないにもかかわらず魔法を出させようとした。


ある日魔法をぶつければ目覚めるという、誰かの助言を信じこちらに先ほどのような火の玉をぶつけてくる。これは死んだと思った瞬間、頭に【物質変換】スキルを発動と言う声が飛び込んで来て、自然と手が前に出た。


火の玉はエネルギーへと変換されこちら吸収される。魔力は吸収できないらしいので空中に四散したと声が聞こえ、心の中で問い返すも返事は無かった。


父親は魔法を使えたのではないかと喜んだが、魔法では無くスキルでだったので何をしようと魔法は出ず、屋敷の中に専用の小屋を建てられそこで母と暮らすことになる。


説明しようかと悩んだものの、そこから実験体にされたり体を弄られたりするかもしれず、その時はまだ親が好きだったので危ない目に遭うのでは、と思い躊躇っているうちに母が死んだ。


「十五年間ありがとうございました」


 見送ってくれえる人も誰も無く、玄関を一人出て中庭を歩き門を開いて敷地からも出た後で、屋敷に向かいそう言って頭を下げた。


幸いなのはここに母の墓が無かったことだ。あればどうにかして出したかったけど、呪われてるだとか言って実家に遺体を送りつけたらしい。


なにをどう贔屓目に見てもクソな家から追い出され、清々した気持ちで頭を上げ屋敷から距離を取るべく歩き出す。


これからどうするかだが、生活するにしてもこの周辺は危険すぎる。ここはフィルジ国の首都クダイの城下町でヤッシー家は国の重鎮であり、目障りだとか言う理由で人目に付かないところで排除され兼ねない。


出来ればこの国ではなく別の国近くで生活しようと考える。魔力ゼロなのでなるべく人と関わらず、適当な草原のど真ん中に家でも建てて過ごそう。


そうと決めたら早速目標へ向けて動きたいところだが、地図を記憶していてある程度の場所は分かっていても、正確な位置や場所は分からない。


お金があれば情報を買うなり馬車に乗るなりするが、着ている黒のシャツとスラックスに靴以外は何もなかった。


あとは自分の足で探すしか方法が無いけれど、適当に歩いたのでは着く前に凶悪なモンスターに喰われてしまう。


そこでもう一つのスキルを発動させる。まだ親に愛されていた頃、興味本位で町の外に出て迷子になり発動したスキルだった。


「【世界記憶】スキル発動、周辺で一番近いフィジル国以外の国を検索」


 スキルの発動と目的を告げると周囲の景色が変わり、夜空の中に佇む。

空に幾つも小さなウインドウが次々と現れ、しばらくすると一枚に集約され地図に変化する。


見ると右斜め上に矢印が置かれ、キリアン国の都市バッヘと吹き出しが現れた。さらに町の北門から北北東へ凡そ百キロ地点、という情報が出てくる。


キリアンは竜族の一人、火竜ドラゴが治める地だ。この世界にはまだ未知の場所が多くあるが、判明している範囲では竜王ヴァーミリオンが統治していた。


どの種族も分け隔てなく接し、重臣も各種族から出ていることから反乱は起きてはいないものの、その後釜をどの種族も虎視眈々と狙っている。


故にキリアンに行けばヤッシー家と言えど手出しは出来ないし、私情による暗殺などバレれば家がつぶれるだけでは済まない。殺されないとは限らないけどこの近くにいるよりは安全だ。


「間の環境の確認と歩行の経路、野宿の可否の確認」


 刺されていた矢印から左下へ下がり赤い点が現れた。現在地のようで北北東へ進むも途中で×が出る。


地図は斜めになると立体感を出し、草原と森そして丘陵や山が入り組んでいることを教えてくれた。


環境を見る限り歩行はまだしも、野宿は通常なら難しいのが分かる。現在までの歩行記録や野宿の記録を調べたが、途中で途切れていた。


ひょっとするとなにか強力なモンスター、もしくは動物がいるのかもしれない。一瞬止めようかまよったものの、逆に人間と会う可能性が低いし追手の追撃もなくせる、そう考えそのルートを選択する。


 転生後の小さい頃に迷子になり【世界記憶】スキルが発動したと同時に、第三のスキルである【調教スキル・極】も発動していた。


これは任意のモンスターや動物を従えることが出来、さらに動物の警戒心も無くす便利スキルである。但し獰猛な動物やモンスターは、【世界記憶】スキルによるダイス判定が行われ、四以上が出なければ戦闘になる仕様だった。


【調教スキル・極】があれば普通の人間が歩くよりは危険度は低い。


「さぁって、行くぞ行くぞ行くぞ!」


 自らを奮い立たせて北門へ移動する。ろくに屋敷の外へ出させてもらっていない為、初めて見るものばかりだがのんびりはしてられない。


好奇心を抑えながら北門を出て、キリアン国の都市バッヘを取り合えず目指すことにした。

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