追いゴブリンと暗雲と Part.2



 *残念ながら、勇者スネックが死亡しました*



「サンチョ?」

「…………」

「オッサァ~ン?」

「う~ん…昨夜からあんな感じなんですが、大丈夫でしょうか?」

「うん…」



 …いやいや、いきなり勇者スネックって誰?って話だろう。


 女神から貸与された携帯端末から突然のメッセージ。

 慌てて、地図アプリを確認すると――


 恐らく。

 死んだ異世界テスター闇バイト仲間は、俺、カイドウ、ルリちゃん、双子姉妹の片割れ、もう一人が位置するこの中央大陸ヘレスの下にある暗黒大陸に位置していた三名の内のひとりだろう。

 三点あったマーカーの一点が消失し、残りに二点も今迄一緒にいたのに距離が開いているように見える気がするし…。

 何かとんでもないトラブルが遭ったに違いないだろう。


 まだ、推測の段階だが…俺が暗黒大陸に居るのはあの学生っぽい三人組のような気がすんだよなぁ。


 七日過ぎるまで、詳しい状況を確認できる術がない以上…彼らの安否は現時点では判らん。

 だが、少なくとも二人は存命なのは確かだってことだな。



「おいっ! サンチョ!聞いているのかっ!?」

「おぶっ!?」



 お怒りになった赤髪ロリから小突かれて俺は我に返る。


 どうやら、ぼんやりと誤魔化していたリアルの“死”にブルっちまったようだ。

 現実世界へと帰った時にどんな状況なのか気になって昨夜はほぼ寝れてなかったしな…。



「申し訳ございません。少し考えごとをしてしまいまして…」

「むう。そう気を抜いてくれるなよ? 今日の探索で、一応は村の北方面の探索を終えるが…ゴブリン共がオレ達を出し抜こうと潜んでいるかもしれんのだからな!」

「いやぁ~実はとっくのとーに遠くに逃げちゃったかもよぉ~?」

「はあ…。ガーディ、ちゃんと話を聞いていなかったのか? ノースカインは確かにコチラにゴブリン共が逃げたと言っていただろ」



 俺達のリーダーでアベル嬢がプンスコ怒って先頭を行ってしまう。


 そんな愛すべき困ったちゃんに俺達は総溜め息だ。


 …だが、ガーディとな?

 あの猫かぶりラウルフ女の愛称かね。


 そこへ、件のガーディが俺にわざとらしくもたれ掛かってきた。



「…安心しろ。昨晩の時点で“楯の姉妹”が西でゴブリンの残党を打ち取った報告があった。今頃、他の連中も村で帰り支度をしているはずだ。アデルカイン様が本日のピクニック・・・・・を満喫されたら、夕暮れ前にはミルファに帰還する手筈になっている」



 なるほど? もう、行楽扱いとな。

 俺はそう耳打ちしてきた彼女の言葉に、我ながら情けないとは思うが安堵したよ。



「了解した。ガーディ・・・・ちゃん?」

「…………。図に乗るな、この間男め(バチンッ)」

「あ痛ァ!?」

「コラ! サンチョにちょっかいを出すなっ!」



 すいません。調子に乗りました。



  (‥)



 それから改めて本日の調査ピクニックを開始したが…結果は昨日と変わらず。


 まあ、それも当然か…もう件のゴブリンはあのクマ女達が問題無く片付けてくれてるはずだからな。

 

 俺が村から供して頂いた食材で拵えた弁当を皆で食べる。

 ホントに単なる武装した遠足みたいだ…いや、武装してる時点でそんな気楽さはないか。


 暇を持て余す子爵家令嬢は終始不機嫌な御様子だったが、皆で外野での昼食を楽しむ内に機嫌が幾らか回復していったようだ。



「ふむ。ノースカインの不安を晴らすことが出来なかったのだけが心残りだが…ここまで探して姿が見えないとあってはな。致し方あるまい。村に戻るとしよう」

「「…………」」



 実年齢以上に幼さがまだ色濃く残る我らがアベル嬢。

 だが、その声と瞳からは、しっかりとした領民の安寧を願う慈悲深い統治者の面影を感じた気がする。


 はたとガーデニアを見れば判り易く、普段の軽薄さとは掛け離れた苦虫を嚙み潰したような顔をしてやがったぜ。


 俺ですら言葉に上手くできないが…罪悪感のようなものを感じてんだ。

 ヤツの胸中はそれ以上だろうよ。



 アベル嬢が腰掛けていた倒木から立ち上がったことで俺達もそれぞれ動き出した。


 俺は各人の弁当箱代わりの小さな籠箱を回収しつつ、その場の跡片付けをする。

 だが、キョロキョロと周囲を見渡して浮かない顔をしているガーデニアが気になって思わず他の面子にバレないように声を掛けちまったんだよ。



「どうした? ガーディ」

「アンタって……もう良い。いや、やはりどうにも今日も…おかしい・・・・

「オカシイ? 何が?」

「…ハァー。仕方のない奴だ。気付いていなかったのか? 確かにここら一帯にゴブリンの気配は無かった。……が、他の魔物の気配もまた無い。ミルファ近郊にはお前が通ったヘザー地方と比べれば魔物は弱いと呼べる代物ばかりだが、それなりに数は居る。村落のもので何とか対処できる程度には、な」



 確かにゴブリンラット遭遇時から、やたら皆して少ない少ないだのは言ってたな。

 だからこそ、弱い魔物を餌にするゴブリンの巣があるんじゃないかって話になってたんだっけか?



「弱い魔物は自身のレベルよりもレベルの高い魔物…特に外様の魔物の気配には敏感だ」

「けども……昨日の時点で西の方でゴブリンの残党が狩られてるにも限らず…?」

「そうなる。本来なら有象無象の先日のゴブリンラット程度のものの姿があって然るべき…あ。お、お嬢? なんでもありませんよぉ~?」

「おい! 出発するぞ? またお前はサンチョにちょ――」



 ボソボソとその場に残って会話を交わしていた俺達に気付いたアベル嬢が近寄ってきたタイミングだった。



 少し俺達から離れ、荷物を背負い直したナセルとギルスの二人の足元が爆ぜて吹き飛んだのは。



「ナセル!? ギルスぅ!?」

「敵の魔法攻撃だ! 落ち着けっ! お嬢から離れるんじゃないぞ!」



 俺とアベル嬢は茂みの方へボルト矢を装填した石弓を向けて前傾姿勢を取るガーデニアから離れ、●ムチャ状態になってしまった二人の元へ急いで駆け寄った。



「おい! 大丈夫かよ!」

「ぐっ……何とか…直撃はしていません。ですが、ギルスはもう動けないでしょう。何とか治癒を試みますが…」



 どうやらボロボロの雑巾のように変わり果てた姿となった二人だが命だけは無事のようだな…あ~焦ったぜ。


 ギルスはダメか…完全にノビちまってんなぁ。

 ナセルも今から全力ダッシュできる感じでは、先ずない。


 二人とも魔法職っつーか…HPが10しかなかったっけ?


 寧ろ、良く助かってくれたもんだぜ…。



「ウシャシャシャシャ!」

「ウシャー!」

「チッ! …クマ共め、さては取り逃がしたな」


 ホッとしたのも束の間、ガーデニアが威嚇で放った矢に反応して茂みから複数の人影・・が飛び出してくる。


 その姿は前見たゴブリンよりも、人の姿に近かった上に……棍棒や金属製の剣や楯で武装した厳つい連中だ。



「……よくもやってくれやがったな」



 これまた意外なんだけども。


 このピンチに置かれた中年三十路男の胸の内から湧きあがるのは恐怖や怯えよりも…まさかの仲間を攻撃されたっつー怒り・・の方の割合が高かったことだな!


 俺は背中から殺意高めに青銅の剣を抜き放つ。


 

「遂に姿を現したな。…サンチョ。お前の怒りは理解できるが、ここは堪えよ。相手は少なくとも低級程度の魔法を扱えるゴブリン…も初めて遭遇するが、少なくともレベル5の相手だろう」

「っ!?」



 レベル5! てぇことは一体をマトモに相手すんのにすらレベル5の冒険者5名様も必要じゃん!?

 

 冒険者ギルドで変態鬼教官に扱かれながら聞きかじった知識だが。

 魔物のレベル補整は俺達のとはまるで別物で、サシで戦って勝てる見込みがあるのは冒険者側のレベルが3以上高いケースなんだと。

 レベル1の原始ゴブリンをレベル2の俺が単身で倒したら普通にスゲーって褒められる世界だからな?

 無論、その難易度はレベルが1上がる毎に段飛ばしで跳ねあがっていくものと思われるわけで…。


 相手が全部レベル5とういわけではないかもという希望的観測を以てしても、恐らくこの場で腐れつよつよゴブリン共に対抗できんのは隠れレベル10のガーデニアくらいだろう。

 ひとりだけHPも二百台だしなあ。


 

 ならば、ここは実は子爵家護衛騎士様にお任せ…できないのが俺の隣の御主人様なのよね?


 茂みから飛び出た剣と棍棒に鉄兜を被ったゴブリンの背後には更に二匹のゴブリンが姿を現した。


 …? 何だか端からボロボロのような気もするが、片方のを持ったヤツを見た途端悪寒が奔りやがる。


 多分、魔法を使ったのはヤツだろ。



「レベルが低いと判断した二人を…いや、魔法を使えるギルスを優先したってことか(…ただの間抜けじゃない? ここはアベル嬢を担いでも離脱すべき、か…?)」

「(ゴゴゴゴッ)おのれ…よくも私の仲間を…っ!」

「お、おじょ――」



 いつものオレ一人称を使う余裕もないほどオコだったんだろう。


 俺が止める暇すらなく、煌々と美しく揺れる赤髪の毛先から肉体へと伝う魔力の波濤が彼女の細い指先に集い燃え盛る火球を生成していく。



「汝に滅びをっ」



 その掛け声と共に射出された火球が飛び出してきた一体を仕留める…どころか周囲数メートルを爆炎で包み込む。


 炎の煌めきが霧散した痕には半球状の小さなクレーターがあった。

 鯉とか飼うのに丁度良さげな規模だ。


 え? オーバーキルが過ぎん?

 つよつよゴブリンの跡形も無いじゃないのよ…。



「す、すげぇ~…」

「フフン! 私に惚れた…か……あれ?」

「おっとっと!?」



 俺に向ってドヤ顔してきた彼女の髪色が戻った途端にフラフラしだしてバランスを崩したので、俺は慌てて抱きとめる。



「どったの!?」

「(また無理をなさって…!)お嬢は魔力は凄いんだけどぉ~まだ全然扱い切れてないのに恰好つけるからだよぉ」

「うぎぎ…っ」



 ガーデニアも難無くもう片方をボルト矢一発で首をチョンパ(多分同じくオーバーキル?)して俺達のもとへ駆けてくる。

 だが、ふざけたようなセリフとは裏腹にその表情はアベル嬢への心配で占められていた。



「っ! 真打ちが来るよぉ! オッサンは悪いけどお嬢を守っててねぇ~」

「…うっ…ガーディ…無理はするなよ」

「…………」



 様子見していた残りの二匹も出てきやがる。

 俺がそう前を伺った矢先だった。



「ミスター・ピカピカパンツ」

「「っ!?」」

「この腐れ鬼がァ!」


 ゴブリンの杖持ちが発した謎の言葉と同時に熱線のようなものが俺とアベル嬢に向って放たれたが……咄嗟にガーデニアが放ったダガーに阻まれ空中で爆散した!


 つーかビームみたいな代物に対抗できるこのラウルフ女ヤバない!?



「うおー!? チクショウめ、やっぱり魔法を使える奴を的確に狙ってきやがる!」

「お嬢! 無事!?」

「あ、ああ…スマン」

「…杖持ちを仕留める! 死んでもお嬢を守れよっ!」

「ガーディ!」



 弱々しいアベル嬢の姿にニヤケ顔演技を一切止めたガーデニアが地面スレスレを這うように地を蹴って突っ込むと先ず武装ゴブリンを蹴り飛ばして空中を舞いながら杖持ちに向って石弓の狙いをつけた…その瞬間。



 何故かニタリと杖持ちのゴブリンが表情を歪めやがった。



「トランスホーマー・コンボイ・ノ・ナゾ」

「えっ」



 杖持ちが発した言葉に俺達の動きが止まる。

 どうやらまた別の魔法の効果らしい。


 まあ…若干、俺は別の理由でも止まっちまったが。



 ボルト矢を発射できなかったガーデニアが受け身もマトモに取れず地面にしたたかに身体を打ち付けて石弓から手を放してしまった。



「な、何が起こったってんだ!?」

「ぐぅ…しまった。魔法とは違う、コレは相手の身動きを停める呪文・・だ…! 魔法と違ってレベル差では状態異常に抵抗が…ってシド…? いや、待て…お前、動けるのか!?」

「へ? うん、普通に…?」



 そりゃいきなり某悪名高い理不尽レトロゲーの名前を叫ばれて思考が数舜停止・・しちまったが。


 俺は別段身体を普通に動かせるが?


 見やればアベル嬢も、後方のギルスを魔法で治癒していたらしいナセルも上手く身体を動かせないようだな……いや、コレってかなり拙いピンチなのでは?



「ならば、早くお嬢を連れて逃げ――っ」



 ズリズリと地面を這って逃れようとしていたガーデニアが何者かに蹴り飛ばされて藪の向こうに転がっていった。


 やったのは涙目で顎を摩る武装ゴブリンだ。

 …ああ、さっきガーデニアにキックされてたっけ。


 いや、しかしマジでどうすればいんだ?



「よくも…よくも…ガーディをっ!」

「ちょ!? もう無理すんなってば!」



 俺が抱え上げようとしたアベル嬢の赤髪がまた煌々と赤く輝く。

 

 だが、俺はその赤髪の向こう側から何か鈍く反射する光に気付いた。



「危ないっ!」



 俺が彼女を咄嗟に抱き込むようにして庇ったと同時に右肩に衝撃と鋭い痛みが…?



 見れば、一本の矢が俺の肩を射貫いていた。



「ぎゃあ!」

「サンチョ!?」



 俺は悲鳴を上げてもんどり打つ。

 そりゃあ矢で射られるなんて初めての経験だったからな。


 いや、動転して逆に冷静になってるというかなんと言えば良いのやら。



「オナシャス!」

「シャス!」



 ガサガサと近くの草むらから音を立てて弓を持ったゴブリンがもう一体出てきやがった。


 クソッタレ…伏兵かよ! ゴブリンの癖に!(※種族差別)



「ギヒッ!」

「ズビビビッ!」



 怯えて涙を流すアベル嬢を見やる三体のゴブリンが下卑た笑みを浮かべて高速で腰を早くも振り始めやがった。


 だが、アベル嬢は助けを求めも叫びもせず……情けなく転げ回っていた俺を見てニコリと笑ってこう言ったのだ。



「ゴブリン共は魔力の高い私さえ手に入れば満足してこの場から引いて行くだろう。だから…コレからどんなものが視界に映ってもお前は何もするな。二人を連れて生き延びて村に戻れ。……良ければ、ガーディには世話を掛けてスマンと。そう伝えてくれ…」



 俺はゴブリン達に徐々に囲われ、遮られていく彼女の姿に――



「ギヒャギヒャギヒャ……ゲ?」

「……ジュネーブ条約を知らねえのかよ? この糞レイプ魔野郎共がっ!!」



 取り敢えず無力化したと判断された俺に向って堂々と背を向けていた弓ゴブリンを殴り飛ばした。



「サンチョ!?」

「グガァアアア!」



 既に半脱ぎで下半身を晒していた元武装ゴブリンがトゲ付きバットを振り上げて俺に襲い掛かる。


 ゴブリンゴブリンつってもタッパ的には俺と大差ない相手だ。

 普通なら恐怖で脚が竦むか、ケツまくって逃げるとこだが。



 ちょっと俺はその時…どうやら覚醒プッツンしてしまったらしい。


 視界の端が赤く明滅するような錯覚すら覚え……ってゲームだったらかなり体力ゲージが低くなった時の演出な気もするが。



 ……何かさっきから懐からSEが連発されて煩い。

 だが、そんなのは後回しだろ! 常識的に考えてっ!


 拾い上げた自身の剣をそのままヤツ目掛けて振り下ろす。


 だが、屈強な肉体に加えて着込んだ鎖帷子的なもので弾かれる。



「止せ! 杖持ち以外でもレベル4以上はある! レベル3のお前じゃ勝てっこない! 逃げ――」

「うるせぇ! お前を置いて逃げられっかァ!」



 …剣がダメなら。



「グヒィ!?」



 刀身ではなく柄…自身の拳そのままに奴の顔を殴りつけてやる。

 想像以上に頑丈だ。

 鼻血ブーにしてやれたのは愉快だが、コッチの指が何本かイカレちまったかもしれん。



「ごはっ!」

「サンチョ!」



 そりゃやったらやり返されるわけで。

 鼻血ゴブリンが今度はおもっくそ俺の頭を殴ってきやがった。


 おかけでコッチも盛大に鼻血ブーになっちまったじゃねーか!



 …だが、俺は倒れない。

 痛みはある……気がするが恐らく脳内麻薬的なヤツがドッパドパ出ちゃってんのかやけにハイなんだわ。



「フンヌらぁ!」

「ゲッ!?」



 俺は腰に挿していたダガーを奴に突き刺す。

 同時にヤツの身体がビクビクと痙攣して動きが止まった。


 役に立ったわ…ダガー(麻痺)。

 あんがとな…ガーディ…!



「うああああ!」



 俺は狂ったように叫びながら何度も剣を奴の首元に振り下ろす。

 数は数えてないが、鈍く抉った傷が太い首の半ばほどまで達したところでやっとくたばったようだ。


 ドスッ。


 いつの間にか復活してやがった弓ゴブリンに今度は右腿を射貫かれた。



「何だァこんなもん!」

「ギ!?」



 だが、最早俺は痛みをほぼ感じない。

 そんな余裕すらない。

 歯医者も盲腸も怖くない!


 俺は湧きあがる怒りそのままに肩と脚の矢を引き抜いてやった。

 おいおうビビリやがるがいいぜ!


 そのままぶっ殺してやんよォ!!

 

 俺は何故か今度は爆笑しながら爆走する。

 本格的に脳がアレしてきたのかもしれん。


 仕留めた下半身丸出しゴブリンから引っ手繰った釘バットで二刀流じゃあ!



「ミスター・ピカピカパンツ!」



 また呪文ってヤツか!

 杖持ちが放った熱線が俺をローストする。



 後ろから微かにアベル嬢が泣き叫ぶような声が聞こえるような気がした。


 もはや、意識は飛びそうで勝手に手足どころか瞼まで下がっていく…が。

 まだだ。

 まだ、死ねない…!


 俺は自分でも意味不明の絶叫を上げながら突っ込むと勝利を確信していた奴らに肉薄するや否や、釘バットで先ず弓ゴブリンの下顎を吹っ飛ばす。 


 

「トランスホーマ…」

「もういい加減にしろォ! このクソゲー厨!!」



 再度呪文を使おうとする杖持ちに向って生焼けの釘バットを投げつけて妨害そのままに…俺は体当たりを敢行する。


 …………。


 俺に抱きつかれ背中から剣先・・を生やしたゴブリンが俺諸共崩れ落ちる。


 どうやらコイツも魔法職みたいなもんでHPが低かったのかもなあ。


 涙と泥でそれは酷いことになった赤髪の乙女ロリが俺にしがみ付く。

 どうやら呪文を使ったコイツがくたばったんで効果が解除されたみたいだ。

 


「サンチョ! おい、サンチョ!? 死ぬなよ!」

「……え、ええ、何とか頑張ってみま…っ!?」



 薄れいく視界に影が掛かる。

 何とか顔を動かした先には弓を引き絞ったゴブリンの姿があった。


 流石、レベル4の魔物サン。

 下顎ふっ飛ばされても乙らないとかパねぇ~(笑)



 今度こそ死を覚悟したその瞬間……コォンと小気味良い的中音がゴブリンの額から響き、どうと倒れた。



「ガーディ!」

「ハァ…ハァ…。シド…よくやった…!」



 ガーデニアでも苦戦するとはなあ。

 こりゃあ暫くモンスターはゴメンだなぁ~。


 皆無事だったか…あぁ~…良かった……。



 だが、そこまでが俺の限界だったようだ。



  

  (‥)



 気付けばそこは見知らぬ天井? いや、天蓋だった…。


 俺は正直ここがあの世のなのかと思ったさ。


 だって、寝かされてるベッドはこの世のものとは思えないほどフッカフカの超特大ド高級ベッドだったからね!


 だが、混乱しつつ現状確認おば。


 一つ。このベッドといい、室内の調度品といい…ここは貴族レベルの御屋敷の中。

 つか、既視感からして子爵家の屋敷ン中だろう。


 二つ。俺は絶賛包帯コーデのみという誰得半裸だった。(※服着てない)


 三つ。俺の枕元近くで小さな寝息が聞こえるかと思ったら……椅子からベッドに突っ伏したアベル嬢だった。

 ふぅ…仮に隣で寝てたら俺は切腹せねばならんかったかもしれんので安心したぜ。



 ……さて、どうする?


 こんだけ包帯グルグル巻きにされてっからさぞや重症かと思えば、別段ちょっと筋肉痛かな?レベルだし。

 かといってどこぞの百人隊長の如くカッコイイ傷だらけというわけでもない。

 …明確に痛むのは肩口くらいだな。

 因みに、穴は開いてない。ちゃんと塞がってくれている。

 胸と腹に多少の火傷痕……しっかし、アレだけもろに攻撃魔法(呪文?)喰らって良く生き延びてたなぁ~俺?


 裸ってか…身に着けてたパデットはアレで完全に燃えてダメになったか。

 折角買って貰った装備だったのに…あ。何か今更あの杖野郎に腹立ってきたかも。


 おっとそうだった。

 戦闘中は確認する余裕なんてなかったが…


 ゴソゴソと端末を取り出して見やると俺のレベルが4に上がった。

 序に各スキルレベルも上昇していたぜ。

 何か〔棍棒〕とかまであったけど…アレ? 俺、棍棒なんて使ってたっけ?

 他にも気になることが…――



「サンチョ!? うわあああ!」

「おぅふ!」



 俺が目を覚ましたのに気付いたアベル嬢に抱きつかれてしまい…非常に危ない絵面になってしまっている。


 聞けば、俺はもう丸一日以上寝ていたらしい。

 まあ、レベルが上がっていた次点で何となく察していたがな。


 その間、重症だった俺は大急ぎで優れた治癒を扱える“オーガーズ”の助力で一命をとりとめ教会にて再度治療を受けた後に屋敷の一室(なんと畏れ多くもアベル嬢の部屋でした)に運び込まれていたそうな。


 

 その後に、ガーデニアを引き連れた騎士達やらアベル嬢の妹君までやって来て頭を下げられたが俺もペコペコするばかりだったよ。


 正式な謝礼は後日となったけども…寧ろ、ゴブリンとの死闘よりも疲労感ある。



 一応、大事をとってその日もまたアベル嬢の部屋で軟禁…いや、身体を休ませて貰うことになった。


 バタバタしてる内に既に陽は落ちてしまっていたし。

 ……ソッカイさん達に心配掛けてなきゃいいけど。



 …何とか今回も生き延びられたな。


 …………。


 だが、やはり気に掛かるのは――

 


『デデェ~ン!』



 …………。


 …嫌だ。もう見たくない。

 あと二時間足らずで現実世界へと戻れたじゃないか?

 なんで…っ!?



 俺は意を決して端末の画面を覗き込んだ。



 *残念ながら、勇者キラが死亡しました*

 *残念ながら、勇者シンイチが死亡しました*



  (種)



 ▼勇者タネモト▼


 ▶レベル:4   EXP:▯▯▯▯▯▯▯▯▯▯

 ▶アーキタイプ:戦士

 ▶身分:オツベル家の召使い・ミルファの冒険者‐等級・銅の無星

 ▶称号:狼族の情夫、赤髪の乙女・オールドルーキー

 ▶HP:60   MP:0

 ▶所持金:23ゴールド、62シルバー

 ▶攻撃力:55  >付与:無し  

 ▶防御力:0   >耐性:無し

 ▶筋肉:E-

 ▶敏捷:F

 ▶魔力:F-

 ▶精神:F+

 ▶知識:18

 ▶状態異常:無し


 E:ブロンズソード

 E:ゴブリンバット+1

   クロース

   治癒のポーション+1

   ――――――――

   ――――――――

   ――――――――

   ――――――――


 勇者タネモト◀スキル・カスタマイズ


 【種男】Lv3     〔狂戦士〕Lv3

 〔従者〕Lv3     〔片手剣〕Lv3

 〔棍棒〕Lv0     〔植物学〕Lv2

 〔畑〕Lv2      〔家庭料理〕Lv2

 〔性交渉〕Lv0    〔 - 〕


  ==残り予備スキル枠:10==


 〔 - 〕      〔 - 〕

 〔 - 〕      〔 - 〕

 〔 - 〕      〔 - 〕

 〔 - 〕      〔 - 〕

 〔 - 〕      〔 - 〕


 *種メイカー最大使用回数:4回(スキルレベル+1)

 *ドロップアイテムにスキルレベルに応じた種アイテムが追加

 *????


 ▼クエストボード▼

  業務期日(7/7)


 ==今回のノルマ==

 

 ●モンスターを5体倒せ!

  (5/5)

 ▶達成報酬:3ゴールド


 ==ペナルティ==


 ●達成報酬無しの上、カウントはリセット。

  次回のノルマへ持ち越し。


 ==現在進行中のイベント==


 ●特に無し


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闇バイトで異世界テスター~スキル【種男】(意味深)が異世界で逝く~ 森山沼島 @sanosuke0018

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