追いゴブリンと暗雲と Part.1



 ゴブリン、植えちゃった。ケヘッ★(※この際の推定IQは2)



 まあ、何でも他人のせいにするのはよろしくないが…頼れる赤毛クマ農夫こと、ソッカイさんが俺の背中を優しく押してくれたことも手伝ってね。


 まーじで、何が生えてくんだろね?



「(まあ、仮にまんまそれだった場合だが…)ソッカイさん、ゴブリンとかって知ってる?」

「そりゃあ勿論だよ。僕達農奴は元はこの子爵様の土地の外から来たわけだしね」



 何でも、この子爵家に囲われているソッカイさん達の出自の殆どがアクアントとデルムーンの境辺りにある奴隷村の生まれらしいんだわ。

 他の面子も混じり気の無い純獣人ばっかだしなあ。

 やはり、ヘザーの混血ラウルフの村はそれなりに特殊なんだろうね。


 で、生まれながらに奴隷という俺なら鬱ルート間違いなしの境遇の彼らであるが。

 非戦闘推奨のアーキタイプ・獣市民である彼らは、それでも人間族の市民なぞとは比較にならんほど強靭な肉体と種族系ユニークスキルを持っている者が多い。

 特にガタイの良い大型獣人(※総称でリカントなぞとも呼ばれる)であるクマ系獣人ウルスラのソッカイさんは村を襲来するモンスターを撃退する矢面に立たされる機会が多かったそうで、当然ゴブリンなどの比較的ポピュラーな奴らも知ってるそうだ。


 因みに、俺の隣で一緒にしゃがんで土いじりをする優しさしか感じないそのクマさんはそんなゴブリン(※自分のレベル以下)共をほぼワンパンキルできちゃう見た目以上にリアルクマさんなんだそうですよ?



 …いや、ぶっちゃけ鑑定済みだから見てみる?



 ▼農奴隷ソッカイ▼


 ▶レベル:5  EXP:▮▮▮▮▮▮▮▯▯▯

 ▶アーキタイプ:獣市民(ウルスラ)

 ▶身分:水国貴族‐オツベル子爵家農奴隷

 ▶称号:農園の赤毛貴公子

 ▶HP:100   MP:0


 ▶攻撃力:60  >付与:無し  

 ▶防御力:25  >耐性:冷気

 ▶筋肉:A+

 ▶敏捷:E

 ▶魔力:F-

 ▶精神:B

 ▶信頼関係:良好

 ▶状態異常:無し

 


 農奴隷ソッカイ◀スキル


 【毛皮+】Lv5    【牙】Lv3

 【爪】Lv3      〔農民〕Lv5

 〔剣闘士〕Lv4    〔マーシャルアーツ〕Lv3

 〔畑〕Lv5      〔植物学〕Lv5



 普通に俺より強いじゃん?


 そもそも、アーキタイプ・市民が非戦闘を推奨されるのは、レベル上げによる能力値の補整がほぼ皆無だからだそうなんだが……。

 つまり、このステータスはレベルによる補整はほぼ無き素のソッカイさんのポテンシャルとなります。


 そんでも、初期HPが俺の十倍なんですが?


 仮に、彼が市民以外のアーキタイプを持っていたならば…と想像するだけで恐ろしい。

 

 実は今更気付けたんだが、画面で各種スキルの項目をタップすると詳細が見れるヤツがあるのを発見したんだわ。


 全部じゃないんだよなぁ~……一番気になる俺の【種男】スキルの全容は相変わらずグレーでして。


 で、ソッカイさんのスキルだが特筆すべきはユニーク(種族固有枠と思われる)の【毛皮+】Lv5、【牙】Lv3と【爪】Lv3だろう。


 【毛皮+】は、ぶっちゃけルッツやガーデニアとかの獣人種族が持ってる【毛皮】の上位互換みたいなもんだろうな。

 冷気への抵抗力に加えてレベル1毎に防御力に+5されるという強スキル。


 因みに、このスキルは今のとこソッカイさんだけだな。

 他の子爵家の農奴隷の獣人達も粗方鑑定してみてるんだけど、【毛皮】止まりだった。

 そもそも、ウルスラという種族自体がソッカイさんだけで、他はイヌ系のラウルフとネズミ系のトルクという獣人ばかり。


 あ。ひとりだけ鑑定するまで何の種族か判らない奴にティベットというソッカイさんよりも長身の巨獣人がいたな。

 種族はイタチ系のムスタという大型獣人なんだとソッカイさん達から聞かされた。


 というか、フレンドリーな農奴隷達の中で彼だけ無口で無愛想というかなり毛並みの違う男なんだよなあ。


 何だかアーキタイプも能力やらスキルを見る限り…どうにも訳有りっぽくて詮索するのも面倒だからスルーしてる。

 

 話が逸れたな、元に戻そう。


 次に【牙】と【爪】だが、これもどうにも種族差(もしかしたら男女差もあり得るか?)があるみたいだがな?

 それぞれが、レベル1毎に素手?(武器を装備してない状態だろう)状態時に攻撃力+10する代物だ。


 追加で異彩を放つ戦闘技術スキル〔マーシャルアーツ〕についても触れておこう。

 このスキルは言わば、生粋の格闘術のそれだ。

 素手時に相手に組み付いて不可避だったり、“急所に当たった!”みたいなクリティカった攻撃の威力をスキルレベルに応じて倍化させる。

 しかも、基本の防御力を無視するらしい。


 あ~…例えば、俺が隣に居るソッカイさんから突然のしゃがみアッパーカットを喰らうと防御力無視の180ダメージになる感じか?


 勿の論、現在HPの最大値が40しかない俺は即座にお亡くなりワンパンキルになられます。

 三回分はオーバー・キルですわ(笑)



 …だが、これまで彼が如何に壮絶な経験をしてきたのかも同時に理解できてしまう気がするぜ。



 〔剣闘士〕なんぞというけったいなスキルがあるからして、かなり壮絶な戦闘を強いられてきた過去があったりすんだろね。


 つか、今朝なんだけど…ソッカイさんの髪?を少し整えるのを手伝った時に、普段は厚い毛皮で隠れているだけで、身体中に深い傷があることに気付いてしまったわけだ。


 当の本人さんは困った顔ではにかんでたが……そりゃそうだよなあ。

 奴隷なんだから、そんな楽な人生な訳ないもんなあ。


 俺がしょげてもしょうがないだろうに。


 だが、そんなスーパーソッカイさんがいるんだし、昼間は自分の畑から離れていても問題あるまいて。



「サンチョ」

「おや? これはお嬢様、おはようございます…いや、皆様お揃いで?」



 名(勝手に名付けられただけだぞ?)を呼ばれて立ち上がると、屋敷方面から俺の臨時主人であるアベル嬢。

 それに随行する犬だが猫を被っていたガーデニア。


 それに加えて、敷地外で合流するとばかり思っていた若き冒険者のナセルとギルスの姿もあるじゃないか…どうしたんだ?


 …んん? てか、他にも誰かいるじゃん。


 えーと確かあの嬉々として俺を虐待してきた不良ギルマスを叱っていた…?



「あーと…確か、フィリップさん?」

「はい。おはようございます、シド様」



 おっとっと? ここではサンチョと呼んでくんないとうちのお嬢様の機嫌がぁ~……って、アレ?


 なんか端から御機嫌斜めじゃないのよ? どぅした?


 いや、てか変だよな。

 なんで冒険者ギルドのサブマスがこんな朝っぱらから態々、子爵家の敷地を跨ぐんだ?


 伺えば、他の面々もそれぞれ微妙な顔をしているようだが。


 ……いんや、こんな時でも変わらずふざけた口調で話し掛けてきそうな(まあ、そういう演技だろうが)ラウルフ女が今朝に限ってやけに大人しい。


 つーか、ひとりだけ百八十度後ろ向いてますよ?


 ……理由は簡単。


 原因は俺の隣に居る、“赤毛貴公子”にある。



 …まあ、ソッカイさんは非常に多方面でモテる。



 説明するまでもなくその容姿は獣人女には特効っ!

 故に、実はファッションビッチでしかなかったガーデニアにとっては直視できんほどの美形に映っているらしい。

 うーん…まあ、普通にイケメンの雰囲気はあるよね。


 人の好みなぞ十人十色であるが、女獣人は身体が大きくてケモ度が高い男獣人が至高であるらしいですよ?


 コレには、その貴公子も困った顔で笑っていらっしゃる。


 中にはルッツのように俺みたいな毛無し(ハゲじゃねえよ?)の方が好きだと公言する変わり者もいるみたいだが…単に節操が無いだのと夢の無いことは出来れば考えたくはないなあ。


 さて、実はオボコかったガーデニアはこの際放置で良い。

 フィリップ氏から要件を聞こうじゃないの。



「ゴブリンだ」



 だが、答えたのは何処のスレイヤーだよと思わずツッコミたくなる赤髪の乙女だった。


 え? 今日もまたゴブリン退治なの?



「…実は、昨夜ですが。ノースカインの村人がゴブリンに襲われたとの報告がありまして」

「……あちゃ~。それは大変なことですね。…つまり、(チラリ)依頼が失敗に終わったということでしょうか?」

「違います」

「あっ…そうですか」



 違うんかい。

 いや、俺の単なる早とちりだったらしい。


 ちゃんと話を聞けば、今度は同じゴブリンでも…ハイゴブリンなる別物が村に現れたそうな。

 しかも、原始的なゴブリンに比べて知性・その他の能力も高いそこそこの難物らしい。


 少なくともレベル3以上で剣や弓、鎧で武装までしてる可能性が高い上に魔法まで使える個体もざららしい。


 昨日相手した野生のゴブリンこと、ゴブリン・プライマルがレベル1。

 一昨日の…恐らくその野獣ゴブリン共がメスの大ネズミとメイクラヴして世に放たれたゴブリンラットというクリーチャー共はレベル0。


 モンスターのレベルは人族のそれとは大きく異なり、1レベル差でまるで別物ということ充分あり得るという世界なんだとさ。



「御承知かもしれませんが、レベル1の原始ゴブリンを相手取るならレベル1の冒険者は1名。最低レベル3のハイゴブリンならば、レベル3の冒険者が3名必要とされますが…物事はそう簡単に運びはしないでしょう…」



 まあ、そうだろう。

 今度の相手はレベルだけの問題じゃなさそうだしなあ。


 というか暗にフィリップ氏は、目の前の義憤を滾らせる我がアデル嬢を行かせぬ様にどうにか説得して欲しい…とおもっくそ顔に書いてありましたとも。


 …そりゃあ、ミルファを治める代官、オツベル子爵家の跡取りであるこのアベルカイン・ヴァーリス・オツベルに大事があれば大勢の人間が困るだろう。



「急だが、事は決して小さいものではない。…オレに付いて来いっ! サンチョ」

「……仰せのままに。お嬢様」



 だが、残念。

 この鼻息の荒さじゃあ俺に説得は無理だぜ?


 俺、召使いなのよね。


 どうやら彼女は村人が襲われて(多少の怪我程度で済んだらしいが)かなり腹に据えかねているらしい。

 個人的には民草の上に立つ者としては好ましくも思えるんだが……やれやれ、こうなりゃこんなにも勇敢で可愛いお嬢様の為に、弾避けくらいにはなってやろうじゃねえか!


 

 …おっと、冗談だぞ? 冗談だからな?



  (‥)



「なるほど。そう来たか……」

「チッ! 余計な真似を」

「いやぁ~流石に私らだけじゃ無理があるってぇ~」

「ですね」

「うん」



  俺達が結局パーティのリーダーであるアベル嬢を怒りを鎮めることもできず、外壁で待機していた馬車で件のノースカインへと赴いたわけだが。



「やあ! アンタか! 噂に聞いた通り、貴族様んとこで扱き使われてるみたいだね?」

「こんにちわ。ストロベリーさん。本日はよろしくお願いします」

「勿論だ! アンタの身体に傷一つ付かないようにしてやるよっ! なあ?」

「「うんうんっ!」」



 何と現場には他の冒険者パーティも駆り出されていたんだわ。


 しかも、ミルファ初日に俺をナンパしてきたあの“オーガーズ”だ。

 相変わらず素晴らしい肉体美とビキニアーマーだな!(眼福)



 これが冒険者ギルドの苦肉の策、暴走しかねない子爵家令嬢対策だろう。

 俺達のパーティへの危険度を大幅に下げる為に、上位の等級を持つ冒険者パーティとの合同討伐ってこった。


 オーガーズは確か…銀星二つだったな。

 俺達“赤髪の乙女”は銅星四つだから、三つ上の等級だ。

 銅星は五つまでで、次が銀星一つって感じの等級だったはず。

 銀星は四つまで。

 その上の準最高位である金星は三つで最高位となる。


 彼女ら三人組は見た目でも鑑定上でも文句無しの実力者。

 俺以外の四人をガン無視して俺に握手を求めてきたので対応する。


 不満げなアベル嬢には悪いが…本音を言えば、これで良かったと思う。


 実力を隠しているガーデニアと凄まじい魔力を持つアベル嬢ならば問題なく戦闘が可能かもしれないが……流石にギルド側が気を揉むほどの危険度を持つモンスターとの戦闘は、多少レベルが上がったとて流石に怖いからなあ。


 同じレベル帯の同パーティのナセルとギルスも口には出さないだけで、俺と同じ意見だろうぜ。


 兎に角、今回のハイゴブリンの相手は彼女らオーガーズに任せて――



「うへぇ! ボス! 薄血のガキ共がいやがりますぜ?」

「…オーガーズか。剛力の民の血を半端に引く連中だったな? フン。ギルドもせんない事をするものだ。我ら“楯の姉妹”に全て委ねれば万事問題ないというのに」

「……このメスグマが」

「ギルドもなんでこんな奴らを寄越しやがったんだ…」

「ムカつくぜ」



 何と、もう一組パーティが居たようだなあ。


 いや…知ってたけども。

 何かコチラに向ける雰囲気が非常によろしくなかったので全力で無視してた。


 多分ソッカイさんと同じウルスラらしきプレートアーマー女獣人の五人組。

 しかも、全員盾持ち。

 リーダーっぽい人に至っては両手に盾を持ってんぞ…得物も盾なのか。

 

 それと、クマはクマでもマレーグマって感じかなあ?

 女獣人は無駄に見栄えが良くて趣向フェチが過ぎるので判別し辛い。



「我ら姉妹は…フッ。悪いが、銅星のお守りをする気はない。ゴブリン共の始末はコチラに任せて貰おう。そこの毛無しモドキ・・・・・・負け犬・・・で世話をすると良い」

「モドキだと! こんのぉ…金星間近だとか調子乗りやがって! ゴブリンの前にテメーらをボコしてやってもいいんだぜっ!? なあ!」

「「おぅ!」」

「………(ガシャン)」



 なんでこんな喧嘩腰なのこの人達?

 案の定、沸点の低そうな筋肉娘は激おこぷんぷん丸。


 負け犬(恐らく、混血ラウルフの差別用語かね?)呼ばわりされたガーデニアに至っては前回の夜デート以上の無表情で石弓にボルト矢を装填しちゃってんですけど。

 殺る気なんでしょうか?


 これは最早、ゴブリン討伐どころではないのでは?


 俺はさり気ないボデータッチ(セクハラ案件ではない)でとりまメスグマ達に肉薄するオーガーズの面々との間に割り込んだ。


 俺と交渉しましょう、そうしましょう?



「む? 見ない顔だな。だが、村人じゃあるまい。子爵家の遣いかね?」

「はい。数日ほど前から子爵家で御世話になっているシドと申します(ペコリ)」

「ふむ…君は話が通じるようだな? 私はこの姉妹の団の大姉、ボストフだ」

「左様ですか。では勇敢なるウルスラのボストフにお願いがあるのですが」

「フッ。毛無しにしては口が上手いな。では、このボストフに何を願うのだ? …おっと、残念だが我ら姉妹はそこの節操無しの女共とは違うのでな。色仕掛けは通じぬと知れ」



 …ほほう。意外な反応だな?

 

 ボストフって男みたいな名前な。

 あ~それでボスって呼ばれてたのか?


 だが、良いことを聞けた。

 偶然・・…今朝、始末をする暇が無くて取り敢えずアイテムボックスに入れておいたコレが役に立つかもしれんぞ?



「いえいえ…貴女の自信は十二分なる実力からくるものだと私は疑いませんとも。……ですが。私達もオーガーズの皆さんもそれなりの気概を持ってこの場に参じております。特にアベル嬢は冒険者の立場としてだけではありません。被害に遭われた村の方々は身内も同然かと」

「フン。だが、実力が足らん! この気に喰わんが、銀星二つの彼奴らならまだしもだ。ギルドが態々、我ら姉妹に尻拭いを押し付けたのが良い証拠だろう。大人しく帰るか、村に籠るかしておれば良いのではないか?」

「至極真っ当かと。ですが…どうには気を割いては頂けませんか?(スススッ…)」

「ん? 何だそれは? (スンスン)…っ!? そ、それは!? まさか!」



 おっと気付いたか。

 流石は獣人、鼻が良いな。


 俺は懐に手を突っ込む振りをしてスマホモドキの画面…アイテムボックスのアプリから引っ張り出したものを掴んで前に差し出す。


 

 …そう、コレは……ズバリ! 今朝梳いたソッカイさんの御髪である!(驚愕)



 実はさっきまで普通に忘れていたブツだ。

 何となくノリで出してみたが…最悪、相手が怒って俺を殺す可能性も有りかもだ。



「このかぐわしさ…!? 見事な赤毛…! ま、まさか…ソッ…っ!?」

「……(コクリ&ニヤリ)」

「くっ!くれっ!? いや、このボストフに売ってくれ!後生だっ!!(ガシッ)」

「アッハイ」



 …お、おおぅ!?

 予想を遥かに上回る喰い付きだ!

 

 ぶっちゃけ最早ホラー。

 出してしまったことを後悔していますのレベル。


 手元から赤い毛束を半ば強奪される。

 

 取り敢えず…ごめんなさい、ソッカイさん。



「フゥ~…フゥ~…! や、やった…! まさかこのような形で手に入れ――」

「ボ、ボス…?」

「っ!? い、いかんこのボストフとしたことが……コレで足りるか?」

「はい?」



 目を充血させて涎を垂らしていたメスグマがパーティメンバーから慌てて隠すように胸元に毛束を突っ込んだ後、俺の手元に向って小袋を放って寄越した。


 …この手触り、通貨コインか?


 獣人でも銀貨が平気……とか考えて中を見るとそこには金色・・のコインが20枚(約四百万円)は入っているじゃあーりませんか!


 後で数えたら22枚でした。


 俺がそれを見て噴き出すと、同じく小袋の中を覗き込んだストロベリーもギョっとしていやがったぜ。

 動揺を隠しきれない様子でその場から後退るボストフに声を張り上げやがった。



「おい! 待てクマ! 何だよこの金貨ぁ!?」

「はっ、ハンッ! 半端者と違って我が姉妹の団は稼ぎが違うのだ!」



 そうだよ。別に俺は単にソッカイのスト…熱狂者ファンに毛を売りつけたかったわけじゃないぞ。



「そうですよ。私はただ、アベル嬢の意を汲んで頂きたかっただけでして…(この大金は惜しいが、説明を皆にするのも正直面倒臭いしなぁ)」

「コホン。…シドとやら、今回は君の誠意に痛み入った。では、こうしようではないか?」



  (‥)



 仲間に何か勘付かれる前に場を離れたくて仕方ない様子のボストフからの提案。


 それは、ノースカインの村から西の広域を鼻が利く“楯の姉妹”が受け持ち、前回ではまだ未探索地帯でもある東を“オーガーズ”が。


 そして、前回探索済みで比較的安全かもしらん北方面を我らが“赤髪の乙女”が受け持つことになりました。


 それと、早々とボストフが西方面に逃亡した為、金貨は返却不可となった。

 別にソッカイさんの毛を返せとは言わんかったのに……。



 そりゃ、お嬢はそう決まってしまった方針に不満たらたらだったんだが、俺の「二度あることは三度ある」の言葉に何か感じ入ったのか渋々了承してくれた。



 それに、早い再会を果たした村長の準男爵ノースカインからゴブリンはから現れたとの言葉もあったことだし。



「サンチョ、今回はまだ一回しかゴブリンと遭遇していないが?」

「……。今回は一度起これば、再びあるかもしんないよ? バージョンなのです」

「…ククッ。笑わすんじゃない。まあいい、さっさとゴブリンを倒すぞ!」



 こうして、三度目の北方面の探索に赴く。



 だが、結果は空振り。


 それも、当然だ。

 この辺は探索してゴブリンとその眷属共を討伐したばっかだし。


 …ぶっちゃけ、ガーデニアが俺にセクハラするフリで耳打ちしてくれた裏情報によるとだな?


 ノースカイン準男爵の情報は完全なデマで、襲って来たゴブリンは村を東西から挟み撃ちにするようだったとのこと。

 大半が名誉の負傷を負った準男爵と退役騎士達によって倒され、その残党数匹が逃げていったには西だったらしい。


 因みに、オーガーズは既にコレを知っていて、一応は東を見つつ折を見て西のボストフ達を追うとのこと。


 大事な子爵家令嬢を守る為…色々と苦労が絶えないことだな。


 だが、当のアベル嬢は納得しない。



「今日は村で宿泊するぞっ!」



 そして、梃子でも動かなくなった困った主人に付き合って俺達もまた村の空き家を借りることになった。

 つっても、お嬢とラウルフは当然村からの待遇が異なりこの場には居ない。


 俺は三十路中年と年頃の少年二人とで、同じ鍋の飯を突いて喰らい、他愛もない話に花を咲かせて楽しい夜を過ごすことになった。



 だが――



『デデェ~ン!』

「おうわっ!?」

「…ビックリした」

「シドさん? どうかしましたか?」



 突然のスマホモドキから鳴ったSE(年末の年越しのイメージが強いヤツね?)で俺は雑魚寝のまま数センチジャンプしちまった。


 イチチ…なんか身体の筋痛めたかも?



「いや、すまん…すまん…。ちょっと、うたた寝しててさ?」

「え。普通に喋ってた最中でしたよね?」

「器用だなぁ」

「うへへ…っ(全く脅かせやが――)」



 俺は身体を摩りながら取り出した異世界の住民には不可視の携帯端末画面に表記された一文を目にして思わず息が止まる…。



 *残念ながら、勇者スネックが死亡しました*



  (種)



 ▼勇者タネモト▼


 ▶レベル:3   EXP:▮▮▮▮▯▯▯▯▯▯

 ▶アーキタイプ:戦士

 ▶身分:オツベル家の召使い・ミルファの冒険者‐等級・銅の無星

 ▶称号:狼族の情夫、赤髪の乙女・オールドルーキー

 ▶HP:40   MP:0

 ▶所持金:23ゴールド、62シルバー

 ▶攻撃力:30  >付与:無し  

 ▶防御力:5   >耐性:無し

 ▶筋肉:F+

 ▶敏捷:F

 ▶魔力:F-

 ▶精神:F

 ▶知識:18

 ▶状態異常:無し


 E:ブロンズソード

 E:パデッドアーマー

   クロース

   治癒のポーション+1

   ダガー(麻痺)

   ――――――――

   ――――――――

   ――――――――


 勇者タネモト◀スキル・カスタマイズ


 【種男】Lv2     〔戦士〕Lv2

 〔従者〕Lv1     〔片手剣〕Lv2

 〔植物学〕Lv2    〔畑〕Lv1

 〔家庭料理〕Lv1   〔性交渉〕Lv0

 〔 - 〕      〔 - 〕


  ==残り予備スキル枠:10==


 〔 - 〕      〔 - 〕

 〔 - 〕      〔 - 〕

 〔 - 〕      〔 - 〕

 〔 - 〕      〔 - 〕

 〔 - 〕      〔 - 〕


 *種メイカー最大使用回数:3回(スキルレベル+1)

 *ドロップアイテムにスキルレベルに応じた種アイテムが追加

 *????


 ▼クエストボード▼

  業務期日(5/7)


 ==今回のノルマ==

 

 ●モンスターを5体倒せ!

  (5/5)

 ▶達成報酬:3ゴールド


 ==ペナルティ==


 ●達成報酬無しの上、カウントはリセット。

  次回のノルマへ持ち越し。


 ==現在進行中のイベント==


 ●ミルファ近郊北部のハイゴブリン討伐せよ!

  (参加中のパーティ:赤髪の乙女)


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