第46話 追跡
エルクリーズが用意した声明文の発表が終わった後、私はサグの所へ戻った。
― どう、追えそう?
― お任せを、王。これでもわしは人の追跡には慣れておりますでな。
星間長距離運行用のゲートの中で筐から筐に移動をすること。それが彼らの切り札だった。そのために細長い宇宙船を仕立ててその両端に筐を設置するという手段を考えたのだ。これは研究者の間ではよく知られている、異空間への出入り口を開ける方法なのだが、実は私たちのいう、ジェン
ただ彼らの誤算は2つあった。一つは普段は出入りする者に無関心なジェン
ついで、作戦には本来関係のなかった宇宙船の乗員たちもジェン
サグが追いかけているのは、宇宙船内にいたのにこの罠にかからなかった二人だった。見た目は他の乗員と大差ない恰好をしているのに、罠にかからなかったこの二人を、イクセザリアは
― 奴ら、船が空っぽになったと知った途端、予想通り筐から移動をしようとしました。さすがにゲートを出るまで待ちましたがね。そこでもたついている間に追跡用の印をつけました。大丈夫、追えますよ。
― 例の人工的な空間を通ってるんでしょう? どうやってテレポートできてるの。
― あれは二人一組でやるようです。一人がテレキネシスで空間の壁に穴をあけている間にもう一人が二人まとめてテレポートをかける。そうやって隣の空間に移動しているらしいです。どうもつながっている隣にしか行けないようですね。
― 宇宙船の回収は、終わっているのね。
― はい、そっちはカルディバとウロンドロスの方で。
― で、逃げた二人は今、どこにいるの。
― ソル系に似た大きな町ですね。あ、また移動した。うん、ここは…
― これって、現実のソル系! 私、ここ見覚えがある。サグ、ここから先をよく見張ってて。私今から追う!
― わかりました、姫様!
ソル系、第8番コロニー衛星、ニュート-キョー。コロニー都市の限界建築高である5階建てのビルが果てしなく続く何本かの表通りの一画が、私の見覚えのあるところだった。そうコスミアの彼氏と、その幼馴染だと言ってた男がこの付近で育ったと言ってた。まだ二人が付き合い始めたばかりの頃、全くその気がない私にダブルデートを持ちかけられて来た街。私の相手に目された男も困った顔をしながらついてきてたっけ。
一番ソル系に近い交易都市の、長距離用の個人使いの筐から出て、
― 着いたわ、サグ。ここからどっち?
― えー、そこからですと、右に折れて、高い建物が連なる通りまで出てください。それからさらに右へ。この建物に入っていきました。
画像が送られる。これって宇宙開発推進局?
― 本当にこの建物で合ってるのね。
― そうです、ひ、いや王。その建物の入り口から入ってすぐ左の短い通路の突きあたりで移動しました。
そこはエレベーターだった。現在位置の表示は5階になっている。
― これを使うの?
― 中に入って奥の鏡に手を置いて、テレキネシスで穴をあけるイメージをしてください。
降りてきたエレベーターに乗り込んで、正面の鏡に手を押し付ける。開いた!
「うわっ、ちょ、ちょっと、君いったい誰?」
入ったところは、どう見ても個人の家の中。双子かと思うような、よく似た見た目の二人の若いソル系の男がいる。自宅のリビングでくつろいでいる体。何この状況? まるで私が不法侵入者みたい。一瞬驚いたが、すぐに、いやちがう、これはまやかしだ、と気がついた。誰かが私の出方を窺っている気配がある。ふっと明かりが消えたように暗くなった。外は昼間だったはずなのに。
「まいったな、君、ミトラ王なんだね。追いかけてくるとは思わなかったよ。…」
暗闇の中で話しかける声がする。二人はさっき見た場所にそのままいる。話しているのは誰? あの二人のうちの片方か、それとも
「ひっかからないかあ、さすがだ。」
声の主はあっけらかんとしている。
― じゃあ、ここまで尾行してきたご褒美に教えとくよ。マティに関わる責任者は僕なんだ。もっとも、ここまで追い詰められたからには完敗だね。とっとと降参するよ。だけど、ここから先は…
「悪いけど、まだ行かせないっ。」
双子が突然立ち上がって、私にとびかかってきた。いつの間にか、二人ともダイナマイトのベストを着てる。うそ、ここで爆弾って。
ドガーーン! ガシャーン!
轟音がとどろいた次の瞬間、私はマティに戻っていた。ソファーにもたれた二次体は不覚にも息を切らしていた。
― 王、ご無事で。
エルクリーズがすばやく寄ってくる。サグは大きく目を見開いたまま、固まっている。エルクリーズが差し出した水を飲み干すと、私はサグに尋ねた。
― ソル系の街は無事?
― あそこは奴らの作った空間の中でした、王。現実のコロニーは無事です
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます