第43話 理解

― で、どうしてソル系なのですか?

 あの人がカルティバに尋ねる。

 あの不思議な空間の移動をしてから数日後、セレタス王宮・黄炎宮の表の間で、私たち5人はまた集まっていた。ハーミオン皇子が参加しているのは、明日がお誕生日なので、昨日学校を卒業されたため。この前は当然のことだが一緒に行けなかったので、今日は話だけでも、と意気ごんでいる。トトラナ摂政王が参加されたのは皇子さまと少しでも一緒にすごしたいためだった。明後日には皇子さまはジェン荒野フィールドに行ってしまう。親子として過ごせるのは事実上この2日間だけなのである。こうやって3人が並んでいると、親子って本当に似ているものなのだなあ、と思う。

 あと、みんな一応王族だから、一人一人が自分の従者を必要なだけ従えている。表の間にいる人数は20人近いだろう。私もウロンドロスとエルクリーズとサグを連れてきている

― 理由は厳密にはわかりかねますが、ソル系第3惑星はひどく空間的に不安定なのです。あの倉庫のあった場所のようなものが簡単にできるし、ソル系上のどこともつながりやすい。それはソル系の歴史上でも、いたるところで記録されています。集団で行方不明になるとか、大きな船団が目的地につかないとか。

 私だって話として聞いただけで、実際入ったのはこの前の時が初めてなのだ。理屈はよくわからない。でも笛吹き男の例を持ち出すまでもなく、行方不明事件の記録は珍しくなかった。

― ソル系の人々が意図的にそういう空間を生み出しているということですか。

コーグレス王が尋ねる。

― いえ、それは違います。前にもお話ししましたが、彼らはそれを怪異として受け止め、後付けで人知の及ばない物の仕業として理由づけていることが多いです。当然彼らの手で起こせる現象ではありません。

 「神隠し」という言葉がある、というと皇子さまは面白がる。

― つまり、僕たちの誰かが人をさらっていると考えたんですね。

 そこへカルティバの後ろにいた従者がまじめな顔でいいだした。

―そしてあそこは基本的には虚数空間なのです。一見今われわれの暮らしているこの宇宙と何の違いもないように見えますが、長時間そこで過ごしたものは通常空間に戻れなくなるようです。物体も然りで、元の世界に戻せば信じられないような壊れ方をする。その代わり通り抜けるだけなら、あの時間逆行作用をもたらします。

 カルティバ君は従者仲間を誘って、あの後私たちと全く同じ方法であの倉庫のある空間を「体験」してきたそうだ。彼らの時は倉庫にすぐ人が現れて港へ連れて行かれたが、船がなかなか来なかったという。そこで彼は大胆にも港町を幻術体アバターのまま散策したのだ。そして町のように見えるものの、人は思ったより少ないないこと、食料や生活必需品は町の外からしか入って来ないこと、目の前の海に生き物がいないことなどを知ってその港町も閉ざされた空間の中のものなのだとわかったという。さらに住民を調べて、大部分の人々はこの国(彼らはそこはアメリカという国だと信じていた)で生まれたが、時々外からやってくる人があることも知っている、ということをつかんだ。

― ではあそこにいた人々はもともとはソル系人なのだね。

と、あの人が念を押す。カルティバが続ける。

― 遠い昔に迷い込んだ人やら、連れて来られて住みついた人もあるようです。その子孫が今もあの閉ざされた空間で暮らしているわけですよ。

― 迷い込んだまま帰れなくなった人もあるのだね。

― そうです。あそこで荷物運びをしていた人々から1人でもここへ連れて来たら、数時間もたたずに消失するだろうと思います。そういった例もあるんじゃないですか、ミトラ王。

― そのとおりです。聞いたことがあります。

― ありがとうございます。これで確信が持てました。

 カルティバは彼の後ろにいた数人と短く話し合ってから、再び私たちに向き直った。

― 社会構築実験のチームがあの空間を利用して今も生存し、私たちを脅かしているというミトラ王の仮説は、成り立ちます。

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