第30話 密会
― お久しぶりアルシノエ。あなたの即位式以来かしらね。
― こちらこそトトラナ。それでお仕事は如何ですか。
形式上は摂政王のトトラナは実際の階級は
― 順調とは言い難いわね。今のところわかっているのは出回っているのがほぼ偽物だということ。本物に触れさえすれば来歴がわかるのだろうけど。
白砂宮表の間、公式な客人を迎えるための部屋で、わたしとトトラナは二人で話し合っていた。サグとイクセザリアに当面の彼女の仕事を一時的に肩代わりさせ、トトラナはわたしの所まで来てくれたのだ。
今日のトトラナは、片纏いの大袖ガーメントを二重に重ねている。色はワインレッドの地に薄紫の雪花の刺繍背紋。
さてトトラナが言うには、マティ政府の言う反乱分子は外宇宙との自由貿易推進派で、この件は彼らの人気を落とすための策略であるということだった。つまり外宇宙から入ってくるものは、百パーセントあてになるものではない、我々は損をするように仕向けられている、と一般民衆に思わせたいのだ。そしてこの事件の黒幕はマティ経済担当大臣のセシト・セアニャという者であろうということであった。
― 計略としてはまあよくできてると思ったのだけどね。青や白のリングにあんな使い方ができるなんて私も思ってなかったし。でもこういう計略というのは、ある程度評判が広がればもう本物は出さないものでしょう。それなのにまだときどき蘇生の実例があるの。雑なのか、全く偶然に任せているのか。
― 彼らには本物と偽物の見分けがつかないとか。
― それも考えた。おかしいのは一度蘇生に成功した白のリングを持っていってすぐに別の病人にためしても、軽い治癒効果さえなかった例があること。
― そんなことが。
― ね、おかしいでしょう。しかもこの時はわたしの信頼に足る者が、見ている前だったの。リングはすり替えられたりしてない。本物なら二人目にも多少の効果があっていいはず。
― 失礼、エネルギー切れ、ということは?
わたしと共感応でつながって聞いていたウロンドロスが尋ねてきた。
― あら、副官殿? いいえ、使い果たした白のリングは崩壊するものなの。わたしもコーグレスがやって見せるまで知らなかったけどね。
― 白のリングは青より上限が低いの。王はその分、数を多く身に着けることで補うのよ。だから瞬間的に大きなエネルギーを使えば、崩壊させてしまうことがある。わたしもときどき足首のリングを壊すわ。
論より証拠だ。リングのはめられた拇指を握りこんで右手に思い切りエネルギー負荷をかける。コチっと小さな手応えがあって、開いた手には砂のように粉々になった金属片が残る。
― ね、こうなるのよ。
― 恥ずかしながら、初めて見ました。聞いたことはありましたが。
そういうとウロンドロスはしばし黙った。
― ま、青のも緑のも内包しているエネルギーが切れても反応がなくなるだけだし、しばらく放っておけば自分の生命エネルギーを取り込んで勝手に元へ戻るものだから、知識として知っていても自分が使わなければ思い浮かばないわよね。
トトラナが苦笑交じりに話したところへ、またウロンドロスが言った。
― 王、一つ仮説が思い浮かびました。もっとも実験してみなければなりませんが。
― どんなこと。
― 死者のリングではないかと。
死者のリングというのは、葬儀の参列者への謝礼として配るものだ。といってもリゼアでは成人体を捨てて、幼体すなわち生まれ持った体に戻ることを社会的に死亡とみなす。幼体に戻れば、長くても数年で肉体が老いて自然に死に至るからだ。告知をして葬儀をし、死者を見送るために集まった人々へ、家族や親しかった人、時には本人自身が形見として自分の階級のリングを渡す、これが死者のリングである。これには仕掛けがあって、わざと割れ目を作って
― どう思います、トトラナ。
― 使い切り、という点ではあり得るかもしれないわ。割れ目にはめる石をはずして、表面を塗装かなんかでごまかせば。どちらにしても本物を手に入れないと、立証は難しいわね。
― ですから、こちらで作ってみて実験してみた方が早いかと思います。
― まかせるわ。やってみて。
実験の報告をなるはやでしてもらうことにして、私たちの密会はお開きになった。
「やれやれ、やっと息がつける。宗能力者たあ、よく言ったもんだね。見透かされやしないかとひやひやしたぜ。」
白砂宮から交易都市の仮住まいにもどったとたん、トトラナのガーメントの留め金から声がした。手のひらを一回り小さくした程度の留め金がゆらりと形を変え、トトラナの身長の半分もない、小さなヒト型になる。
「見透かされてたわよ。」
「本当かよ。」
「本当よ、訊かれたもの。」
「いつだよ? そんな話なかったぜ。」
人の姿に戻ったその者は、身軽にソファーの背もたれ部分に飛び乗って腰掛ける。
「あのね、あなたやアルシノエの副官には聞こえないテレパシーもあるのよ。」
「接触か。最初の挨拶の時だな。あんな一瞬で会話できるのか。ちきしょー、わかってたらしゃしゃりでてやったのに。」
「それはできないと言ったでしょう、ニニ。姿を現した途端、探知システムが発動してあなたは拘束されるわ。」
トトラナはほほえみながら小さな従者の横に腰を下ろした。
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