第23話 朋友
久しぶりに降りる新生命宮は、私が暮らしていた子供のころとほとんど変わっていなかった。ここはその名の通り、リゼア人の人生の通過点であり、旅立ちをする場所。いつ来てもたくさんの人がいて、またそれぞれの場所へ出かけていく。死出の旅に赴く賢者の年合いの人、赤ん坊を迎えようという二人、そして
つい、感慨深げに眺めていたら、
―ミトラ王。
と呼びかけられた。振り向いた私はまっすぐ相手に駆け寄った。
―お久しゅう、
―ご即位おめでとう、アルシノエ。やはりあなたのほうが先でしたね。三年ぶりになりますか。
3年のうちに背が伸びていた。再会を喜び合ったこの人は、キナンの王位継承者、ハーミオン・クレズシカ。現キナン摂政王トトラナとコーグレスの子である。
前キナン王が自身の退位を決めたとき、後継者となったのは当時妊娠中だったトトラナで、しかも彼女は王族ですらなかった。これは予言書に言う「生まれついての王」であろうということになり、ハーミオンと名付けられた皇子は成人するまで即位を猶予され、それまではトトラナと彼女の配偶者であるコーグレスの二人が共同統治の摂政王としてキナン王位を預かることになったのだ。トトラナは、ハーミオンを生んだ後はもともとの
だが、この美形の皇子さまは、年齢にそぐわない大人びた子で、10歳になった時分から両親とともに政務に関わる会議に出席し、予言書も見せてもらっていたらしい。さすがに生まれついての王と言われるだけのことはある。子ども扱いはされてなかったのだ。
私たちが出会ったのはそんなころで、彼はたまたま見かけた「館の
―皇子さまも、もうじきに
―うん、あと二月ほど。初めて一人になれるからね、楽しみにしているよ。
後方十歩ほど離れたところで私たちを見守っている、お付きたちにちらりと意識を向ける。今日は3人だ。どこへ行っても叱られたり文句を言われたりはしないけれど、お付きをまくことだけは厳禁なのだそうだ。
成人前の1年間、すべての人がジェン
― 今度は私が皇子さまのお帰りをお待ち申し上げましょう。
― うん、そのあとは3年間の外宇宙実務が待ってるし。ね、アルシノエは外宇宙、どうだった。楽しかった?
― ええ、いろいろございましたよ。良くも悪くも、開眼させられる体験でございました。
最初の出会いの時には彼の方が高位だと思い込んでいたので、今は王位に就いた私のほうが丁寧になるという敬意の逆転が起こっているが、今更変えることはできないので、そのままになる。お互い内心そこに気づいているので、会話の端々でつい笑ってしまう。彼のお付きから見れば、さぞや面白い光景だろう。
ふと気がついて、尋ねてみることにした。
― 皇子さま、少しお時間をいただけましょうか。私、ご意見を伺いたいことがございます。
― 予言書?
目線で同意する。彼の意識が私の思考の表面をなぞっていく。
―うん、わかった。行きましょう。ちょっと待ってて。
振り向いてお付きの者たちに話をしたのだろう。後ろの3人が改めて膝をつき私に礼をする。これで予定外の行動が許可されたわけだ。
そのまま2人で新生命宮第2室の「王の間」へ行く。子どものころ入り口から覗き見したことしかなかった王の間に、自分がすわるのはなんだか妙な感じだ。王が二人お出ましとあって、たちまち十枚近い
― 使い方、わかりますか。ひっかかる言葉があればチェックを入れて、ないなら、そう、そうやって次へ追っていくんです。
一枚使っていれば残りの
― これ、まずいですね。
先に止めたのは私のほうだった。
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