第6話 試技

 帰還して2日後、わたしは新王選定委員に「ミトラ王の資格を問う試技」のため呼び出された。試技をするということは知ってたけれど、そういう名前なんだ。知らなかった。

 王の交代に伴って家具類が撤去され、がらんとした王の部屋に通された。新王選定委員長とあいさつした後、さっそくその日に予定されている試技が始まった。

 最初はテレパシーとテレポートの試技だそうだ。簡単に言えばどこかわからない惑星のとある場所に強制的に移動させられて、そこの住民と接触して正確な地点を知った後で自力で帰ってくる、という問題を連続して9問やるのだという。

 試技の監督をするAIと観察官という3人が、移動先まで同行するらしい。AIはわたしが不正をしないよう、脳波やテレパシーを観測するためヘルメット型をしている。ついでに現地の人々に不審な人物と思われないようにカモフラージュする役割もあるらしい。

― 質問していいかしら。

― ええ、どうぞ。

― 現地の人なら誰と接触してもいいの?

― もちろんです。ただしリゼア人であることを明かしてはなりません。

― 近くに人がいない場合は?

― それも試技のうちと、お心得ください。

― 帰ってくるだけじゃなく、どこなのか明らかにしないとだめなのね。

― 左様でございます。われら観察官は、ルシカ公をお届けしましたら一度離脱させていただきます。

 なるほど、子どもの頃にやったことがある「テレポート鬼ごっこ」という遊びと似ている。これは何人かの子どもが一定の範囲の中でテレポートをしながら一人の子を追いかける遊びである。ルールは全員が一度テレポートするごとに必ず「今ここにいる」と現在地を共感応で示すことだ。子どもの頃から能力値が高めで、連続テレポートをしても疲れなかったわたしは、この遊びが好きだった。なんだかワクワクする。

― ではルシカ公、まいります。

 3人の観察官に前と左右を囲まれた途端、跳んだ。あれ、ここは広間みたいな部屋で、移動用のはこで はなかったと思ったんだけど。たぶん筐のシステムで跳んだ先を知られないよう、使わないで跳んでいるのだろう。降りたところは、背の高い植物が点々と生えている開けた場所だった。周りをぐるりと知覚している間に、3人の観察官は見えなくなった。ここは見覚えがある。独特な景観と産出量の少ない貴重な鉱物資源で有名なところだ。知覚を広げていって道路を見つける。密採鉱者を取り締まる警備員の車が通りかかった。

― サールモ系第4惑星、サールメイのガコ樹林保護地区。これ以上細かく位置指定がいるかしら?

― 結構です、ルシカ公。では次にまいります。

 今度は独特な匂いのするどす黒い海に囲まれたところ、というか人工的に造ったと思しき島だった。海水らしきものまで到達するのに数十階建ての建物くらいの高さがある。

「うわぁっ、あんたどっから来た?」

「ここは立ち入り禁止区域だぁ。子どもだからって勝手に入ってはなんねぇ。」

 背も横幅も大きい男たちにいきなりどなられたが、これで場所はわかった。

― ワイツ系第3惑星、「黒の海」の貨物輸送用空港6号、

― 結構です、ルシカ公。では。

 この調子であっという間に9問終わった。観察官は途中で4回入れ替わった。無理もない。筐を使わない移動は体力を使う。最も遠方だったのは4つ目か5つ目だっただろうか。わたしでも3パーセクって直接帰るのはためらう距離だったし、さすがに休憩を取らされた。それでも1日のうちに終わったので、委員長によれば「上出来」なのだそうだ。もっとも、これは連続だからきついのであって、単独ならテレパシーにしろテレポートにしろ、私よりできる人はきっとあるだろうという程度の難易度である。

 翌日は 最も大掛かりな計測、テレキネシスだった。亜空間都市の移動を連続でいくつ分賄えるか、によって測るのだという。亜空間都市、というのはリゼア系独自の、もっとも一般的な居住地のことだ。一度恒星系単位で滅んでしまった歴史のあるリゼア系では、長い歴史の中で都市一つを巨大なカプセル状の空間に閉じ込めて、亜空間に浮かべておくという形の居住地ができあがった。この空間は現実宇宙との接点を惑星上の1地点に定めておくことで安定させてあるのだが、数公転年に1度くらいの割合で場所を変更してやらないと、接点が途切れてしまって空間ごと迷子になってしまうことがあるのだ。この接地点の移動をする間、都市をつなぎ留めておくためのエネルギーはたいてい王族数名で 賄うものだが、これを一人で、連続してやるわけだ。

 こればかりは自分でもどれだけやれるものなのか、見当がつかずにいた。結局最大規模の20万人都市の移動を10ほど連続移動させたところで終わった。後であの人、現セレタス王が、8つ移動させたのが最高記録と聞いた時は、ひそかにほくそ笑んだものだ。

 三日目、肝心の予知能力の計測は興味深かった。問題そのものが後日偶然の要素の組み合わせで決定するという9問の答えを今書くというものだった。「A惑星で」「Bである都市の」「Cである生命体の」「Dたるものの個数を答えよ」という例文である。ABCDにあたる選択肢は、私のあずかり知らぬ場所でだれかがカードを引くなりボタンを押すなりして決めるという寸法だ。

例えば「グー系第7惑星で、もっとも標高の低い都市の、水源となる淡水域に生息する最大の脊椎動物の、1公転期間内に繁殖する標準個数を答えよ。」といった問題ができあがるというわけだ。たとえ問題がわかったところで答えを探すのが面倒くさい。これを9問、全問正解した。もちろん、判明したのは数日後である。ちなみにこの問いの答えは0だ。グー系第7惑星は水源を海水に頼っている。

 結果が出そろった後は新王決定の公式発表が出された。予知能力の高さは空前絶後であるという、新王選定委員長の言葉に王都内外ではわたしの出生に関しての噂が再度取り上げられた。

 

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