別れ。そして現実へ

「あ、ジロウちゃん、ここ、燃やしちゃって」

 アケミが、俺を見て言う。

「放火は犯罪って言ったの、アケミさんじゃん」

「もういいのよ、どうせボスもいないんだし。ボランティアさんに片付けさせるのも申し訳ないじゃない?」

「でも、本当にいいのか?」

「いいのいいの。火竜の城が木造とかバカでしょ? ここ、しょっちゅうボヤ騒ぎがあったんだから」

 確かに、火竜が酔っ払って、ちょっと火でも吐こうものなら、すぐにどっか燃えるわな。

「じゃ、まあ、遠慮なく」

 俺は、城の一階部分を目掛けて魔法を放った。

「強火!!」


 ゴウゴウと激しく燃えゆく火竜の城。


「ヤツらは、身体の中を可燃性の液体流れてるからね。燃えるのも早いのよ」

 アケミが言う通り、思ったよりも早く、城は焼け落ちてしまった。


「太郎ちゃん、ジロウちゃん、こっち来て」

 俺らがアケミに近寄ると、アケミは俺達の周りにシールドを張った。

「な、なんだ?」

「ちょっと後始末するから、そのまま待っててね」

 アケミはそう言うと、空に昇り、焼けた城の上を飛ぶ。その姿は、大きく立派な美しい竜に変わった。

「あ、アケミさん?」

 アケミは、稲光を起こし、大雨を降らせた。雨は城の火を完全に消し去った。


「おまたせ~。後始末、お〜わりっと」

「アケミ、めっちゃベッピンやったで」

 太郎が言う。あ、俺が言おうと思ってたのに。

「やだ〜、うそ〜、うれし〜。太郎ちゃん、ありがと〜」

 太郎はまた頬にキスされている。

 俺は、言わなくてよかった気がした。



「アケミさん、これからどうするの?」

「ああ、アタシ、またお店始めるわ。火竜に客取られて潰されたけど、まだ仲間がその辺に隠れてるから、呼び戻して」

「そっか。これからは皆安心して店に通えるようになるな」

「火竜のボスみたいにならないように気をつけるわ」

 アケミがケラケラと笑う。その笑顔は平和に満ちていた。



 ピピピ、ピピピ、ピピピ……


 アラームの音で目が覚めた。


「おっと。冒険はおしまいか」

 うーん。大きく伸びをする。

 足元には太郎。まだ起きそうにない。

「ん? こいつ何持ってるんだ?」

 太郎が押さえているピンクの紙を抜き取った。

「……読めねえ」

 あっちの世界の言葉だ。何だ、このカード?

 俺は、カードをひっくり返してみた。

「写真? んんん?? あっ、もしかして!」

 アケミか!!

「盛りまくりだな」

 と、いうことは、これは、アケミの名刺?


 パッ!


 太郎が名刺を引ったくって、自分の寝床の下に隠して、また寝てしまった。



「お前、アケミさんの店、行く気満々じゃねえか!!」


 太郎のことがちょっとだけ心配になった俺なのだった。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

またまた異世界か?ちょっと今回、魔法とか使おうぜ、太郎。って話 緋雪 @hiyuki0714

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ