火竜の弱点

「気を付けてね、ちょっとしたダンジョンみたいになってるから」

「油断すると迷子だな」

「敵もどっから出てくるかわからんしな」

 小声で話しながら、城の中を進む。


「グワッ!!」


 なっ、敵?! どこから?! 俺は剣を構える。


「お前反応遅すぎんのよ」

 振り向くと、太郎が猫パンチで倒していた。


「いい? やつらは『顔が命』なの。顔を狙って!」

 アケミが言う。

「わ、わかった」

 俺は剣を諦め、肩からかけた袋に手を突っ込み、「尖った石」を一掴みつかんだ。 

「ジロウちゃん、そっちに二匹!!」

 アケミが指す方向目掛けて、尖った石を思いっきりぶつける。奴らの顔に無数の傷がついたところで、アケミがすかさず鏡を見せる。奴らは顔の傷を見ると、ショックで○んでしまった。

「やっぱり、ジロウちゃんは、投石が上手いわあ」

 アケミが喜ぶ。

 尖った石の意味が、今わかった。


 しかし……勇者の必殺技、投石って、プロフィールに書かれるの恥ずかしいわ。早く剣とか魔法とか極めよう。


 

 こうして、めずらしく戦闘らしい戦闘を繰り返し、ついにボスのところへやってきた。


 金銀財宝に囲まれた、美しい火竜。これがホントに♂なのか?という美しさ。アケミも美人だが、ボスは超越している。

「なによ?」

「あ、すんません。つい見惚れて……」

 俺はつい本音を吐いてしまった。

「おほほほほほほ」

 ボスは高笑いをした。

「騙されちゃダメよ、ジロウちゃん、奴はほぼ整形よ!! たっかい化粧品だって塗りたくってるんだから!!」

 アケミが叫ぶ。


 バシュッ!!


 ボスの吐いた火の矢が、アケミの顔をかすめた。

「要らんこと言うんじゃないわよ! 顔をグチャグチャにされたくなかったら動くな! この水竜が!!」


 バッ!! バッ!!


 唾を吐きかけるように火の矢をアケミに向かって吐く。

「キャア!! もう、顔は止めてったら!!」

 アケミは一歩も動けない。


 俺は、ボスがアケミに構っている間に、ボスの顔に向けて、尖った石を投げつけた。


 バンッ!! ババババ バンッ!!

 カンッ!! コンッ!! バラバラバラ……


 隙をついたつもりだったが、反対側の着物の袖で全て弾かれた。金属製なのだろう。少しのダメージも与えていない。


「ふーん。汚い真似するわね、アンタ」

 ボスはそう言って、俺の方を向くと、


 ボワッ!!


 大きな火の矢を吐いた。


「危ない!!」

 俺の前にアケミが跳んできて、自分の体でそれを防いだ。

「アケミさんっ!!」


「あら〜、美しい友情ねえ〜。」

 高らかにボスが笑う。

「アタシ、そういうの大っ嫌い!!」

 そう言うと、とどめを刺すべく、大きく息を吸い込んだ。


 その瞬間だった。

「ジロウ! 俺をあいつに向かって投げえ!!」

 太郎が足下に来て言う。


 何が何だかわからなかったが、言われるがままに、俺は太郎を掴むと、ボスに向かって投げつけた。


 ポスッ。


 情けない音を立てて、太郎はヤツの膝に落ちた。しまった、弱かったか! 

 しかし……


「いや〜ん、うっそ〜。猫ちゃんじゃ〜ん」

 ボスの顔がデレデレになった。

「にゃお〜ん」

 太郎はボスの顔にスリスリしている。

「何やってんだあいつ?!」

 俺がそう思った次の瞬間だった。


 バリバリバリバリバリバリバリバリ!!


 太郎は、ボスの顔を、これでもかとひっかき倒した。

「ひぃいいいいい!! いやああああ!!」

 血まみれの顔を掌で押さえてボスが座り込む。


 俺はアケミの懐から鏡を抜き取ると、ボスに向かって差し出した。


 ぎゃああああああ……


 ボスは、そのまま息絶えた。


 俺は、アケミに駆け寄る。

「アケミさん!! アケミさんっ!!」

 アケミは、頭を上げた。

「あ、終わった? いや〜、鱗のとこでも結構効いたわねえ。痛かったわあ」

 ……無傷だった。

「当たった瞬間、うっそ〜、お腹痛いじゃ〜んってなったんだけど、そっち見たら、何とかなりそうだったから寝てた」

 おい。


「それにしても強かったわねえ、太郎ちゃん!」

 アケミは、太郎を絶賛する。そうだよなあ、なんだかんだ、最終的に、ボス倒したの、太郎だもんなあ。

「ジロウちゃんも凄かったわよ〜。あんたコントロールいいわよね!」


 アケミはそう言うと、俺らの頬にキスをした。

「……」

 ビミョーだった。

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