金が無い

 村に入る時に、門番に呼び止められた。

「あ、ちょ、ちょっと。このモンスター、仲間?」

「あ? ああ、そうだが?」

「もー、ちゃんと『仲間シール』貼ってもらわないと困るな〜、あんた名前は?」

「……ジロウ」

門番は、持っていたテープに何やら書き込み、アケミにペタッと貼り付けた。

「ほい、行っていいぞー」

 スーパーで米とかトイレットペーパーとか買ったときみたいな扱い。


「まずは、装備? とりあえず、Tシャツとジャージじゃヤバイよな」

「あそこやな。」

いつも思うが、なんでこいつは、この世界の言語が読めるのだろう。

「えーと、勇者の……いや、冒険者の装備一式って幾らするんだ?」

俺は、店員に聞いてみた。

「そうですね~、こちらなどでしたら、400Gですね。今、都会で流行の形です」

村人は、オネエじゃないんだな。

「いや、流行とかじゃなくていいんだ。一番安いセットで、初心者用のやつで」

「あ〜、じゃあ、これですかね、100Gになります」

「足りないな……お前持ってる?」

太郎に尋ねる。

「あるかい」

だろうな。

「あのー、アケミさん?」

「トイチでよければ」

闇金か、お前は。

「そうか〜、困ったな〜」

わかりやすく困っていると、店主が顔を出した。顔を出すなり、

「ええええ! 三本線のジャージじゃん!! すげえ、お兄さん、大都会から来たの?」

俺の服を見て、一人で盛り上がっている。いや、三本線のジャージ、高校の時の体操服な。

「東の都ですっごい流行ってるやつじゃ〜ん」

「そうなの? まあ、みんな履いてたけどな」

「うっわあ〜、いいな〜。……お兄さん、それ譲ってくれないかなあ。」

「譲る? ジャージをか?」

「今なら、この基本セットに、盾と剣(初心者セット)もつけちゃうけど」

「よし、譲った」

話は簡単に決まった。


 試着室で着替えた。

 うん。そうだな。こんな感じだったな、最初来た時。あの時Lv.31でもこんな格好してたよな、俺。これってサービスされたんだろうか?

「あ、お兄さん、もしかして、ここのステージのボス倒しに行ったりしちゃう?」

俺のTシャツとジャージに着替えた店主が、金のアクセサリーをジャラジャラつけながら出てきた。いや、そういう着こなしするものなの、それ?

「ああ。そのつもりだが?」

「なら、おまけにこれつけてあげる」

そう言って、やたら重い袋を持ってきた。

「何?」

「尖った石」

「……」

「役に立つよ〜」

店主の言葉に、太郎が俺のふくらはぎをポンと叩く。

「せやな。下手な剣より、お前、そっちの方が才能あるかもな」

アケミも頷く。

「そうよ〜、それ、かなり役立つと思うわよ〜」

二人の言葉を信じることにした。



 村の宿屋に泊まり、HP、MPをフルチャージしてきた。知らないうちにLv.31になっていた。装備のせいか? それとも、寝る子は育つのか?

 夢の中の夢で、なんかいろんな戦闘をスキップしたのかもしれない。



 さあ、出発だ。

 いざ、ステージボスの住む城へ!


「って、方向どっち?」

「黄色い風船が目印や言うてたな。待っとれ。俺がちょっと登って……」

木に登ろうとする太郎を取り押さえた。

「お前、また降りれなくなるだろ!」

「あはは。アタシが知ってるってば」

アケミがケラケラと笑う。


 アケミの案内で、城の近くまで来た。

「ここ? 城って感じじゃないな?」

「でしょ? 元々は飲み屋だったのよね〜」

「飲み屋?」

言われてみれば、入口がそんな感じだ。ネオンサインのついた看板が出ている。

「『スナック火竜の城』って書いてあるの」

「……ネーミングセンスを疑うな」

「変な造りの建物やな。しかも木造か〜」

太郎が爪を研ぎながら言う。

「木造? ならさ、これで……」

俺は、近くに落ちていた木に向かって「火」と魔法をかけ、それを手に取った。

「何する気?」

「いや、これで一気に燃やしたら早いかな〜と。」

「放火殺人は、捕まったら死刑または無期懲役だけど?」

「ここまできて法律とかアリなの?」

俺が起こした火は、アケミの水魔法によって消火され、俺は簡単な方法を諦めざるを得なかった。


「それにしても、ホントに変な造りの城だな」

「増築増築を繰り返してるからね」

「一番上の階にボスがいるわけ?」

「そうね、今頃、客から巻き上げた金で贅沢三昧してるわよ」

「こいつに金を騙し取られたせいで、店たたまなあかんかったり、首くくるやつが出たりしたらしいからな。」

「ほんっと許せないわよねえ。鬼よ鬼! 竜だけど」

太郎はなんでそんな事情を知ってるんだろう。


「あ、それで、こいつ倒すんだったのね?」


 俺は、ここにきてやっとボス討伐の理由を知ったのだった。

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