敵と戦うとな?

「で、今回の冒険の目的は何だよ?」

「このステージのボス倒すことな」

「この前、ラスボス倒さなかった、俺?」

「あー、それ、前のバージョンやな。ってか、これまでのラスボス倒してきたん、俺やからな」

 確かに、このシリーズで、ラスボスを倒せたのは太郎のおかげだった。って言うか、この前の話なんて、俺、財布しか活躍してないからな……。


「お前を鍛えて、俺はラクしたいねん」

「わかりやすいな、お前」

「いや、敵とか倒さな、マジ経験値たまらへんで、お前」

「そ、そうだな」

「お前、ステータス見てみいや」

 人差し指を眼の前でスライドさせると、俺の強さや経験値がわかるシステムだ。

「Lv.1、攻撃力3、防御力2、HP20、MP10、経験値0、火系魔法、装備/ジャージ、武器/なし」

「よわよわやな」

「なんの経験もないんだからしょうがないだろ!」

「武器とか、装備とかがいるなあ」

「こういう場合、買えばいいんじゃないのか?」

「持ち金見てみいや」

「0Gって書いてあるな」

「とりあえず、弱い敵見つけて倒すで」

「魔法でか?」

「あ、『強火』のMP、8って言うてたで、爺さんが」

「一回しか撃てないじゃん」

「まあ、これでも持っていけや」

 太郎は足元から何かを幾つか拾って渡してきた。

「石?」

「ぶつけたら、結構なダメージにはなるやろ」

「……」

 俺は黙って、それらをポケットにしまった。



 森の中を当てもなく歩くこと10分。

「なあ、敵が出てこないんだけど」

「そのうち出てくるで……って、ほらいた。あ、ヤバい。見つかってる」

「お、お前、なんとかしろよ!」

「あほか。お前がなんとかせな、経験値も金もたまらへんで」

「あ、そうか」

 俺は、ポケットから石を取り出し、敵にぶつける。


 バシッ!! バシッ!! ゴンッ!!


 敵は、両腕で顔を押さえている。

 よし、効いている気がする。ボディの急所を狙え!!


 バンッ!!


「ちょ、ちょ、マジやめて!!」

 敵が何か言っているが……?

「急に攻撃とかないわ〜。相手のステータスとか先に見るでしょ、普通?」

「え? 俺、あんまり見ないタイプよ?」

「そ〜なの? もうやだ〜。顔にちょっと当たったわよ〜、ほら〜。」

 敵は鏡で顔を確かめている。こ、これはチャンスなのか? 俺はポケットに手を入れた。

「ちょ、また攻撃しようとしてるでしょ?」

「そうだけど」

「アタシ、平和主義なのよね」

「モンスターなのに?」


「ねえ、提案なんだけど、アタシのこと、倒したことにしてくれない?」

「は?」

「とりあえず経験値と、お金はあげるからさあ」

 何を言っているんだこいつは?

「戦わなくていいのか?」

「うん。このさ、死亡届に、やっつけたモンスターの名前書いて、あんたの名前書いてハンコ押して、ここの証人欄にそこの猫の名前書いてハンコ押して、次の村の役場の住民生活課に出せばいいだけだから」

 何?そんなに面倒臭いの、ここ?

「あー、でも、そっから生きていくのに困るかあ。戸籍とかなくなっちゃうわけだもんね〜。南国の島でリゾート三昧で暮らそうと思ってたけど、パスポート取れないかあ」

 戸籍? パスポート? モンスターの世界もなかなか複雑にできているらしい。

「モンスターを倒す度に、そんなもん書かされるのか?」

「あ〜、大丈夫、大丈夫。ホントに倒しちゃったら、一日一回森の掃除に来るボランティアさんたちがついでにIDカードをチェックするから。」

 ボランティアさんとかいるのか。


「それで? お前はどうすんの?」

「えっと……あ、相談なんだけどさ……」

 また面倒臭いことを言い出しそうだ。

「仲間にならない?」

「……」

「アタシ、こう見えて攻撃力高いわよ」

 ステータスを見てみる。

「Lv.28 、攻撃力40、防御力5、HP100、MP100、取得可能経験値100p、収得金100G、水系魔法、装備/鋼鉄の鱗、攻撃/締め○す」

「ホンマや。こいつ強いで」

 太郎も流石に驚いているようだ。俺、これに勝ったの? 凄すぎない? あ、こいつ、防御力よええ〜。あ、もしかして、それで勝てたの?

 えっと、種族/水竜、名前が、アケミ……? 性別♂……?

「えーと、アケミ、さん?」

「なに?」

「てっきり♀のモンスターだと思ってましたが?」

「うっそ〜、嬉しい〜。でも、森の入口に書いてたでしょ?」

「気付いたら森の中だったんで」

「やだぁ。ここは、『オネエの森』なのよ〜。」

「『オネエの森』?」

「ここの住人は、みんなオネエだから、鱗以外の所は全部弱点なのよ〜。顔なんて一発で○んじゃうから〜」

 それで俺は勝てたわけだな。納得した。


 こいつを連れていれば、結構ラクができるかもしれない。トドメを刺すのが俺ってだけで、俺の経験値になるしな。

「よし、わかった。仲間にしてやる」

「ありがと〜、ジロウちゃ〜ん!!」

 俺の名前、「ジロウ」で登録されてしまったらしい。……もういいよ、何でも。


 次の瞬間、効果音みたいなのがピコピコ、チャリンチャリン鳴った。

 ステータスを見ると、レベルが上がり、経験値が10pに、持ち金が50Gになっていた。

「何? 仲間にしても貰えるわけ?」

「そそ。あんまり深く考えないで。」


「おい、話はまとまったんか? 俺の出番が全然ないねんけど」

「おう。こちらアケミさん。仲間になったから」

「ほうか。アケミ、太郎や。よろしゅうたのむで」


 こうして、俺たち三人(?)は、次の村を目指したのだった。

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