またまた異世界か?ちょっと今回、魔法とか使おうぜ、太郎。って話

緋雪

俺が魔法とな?

 寝る。夢を見る。森の中。

「はい、異世界〜」

 ちょくちょく見てたら慣れてきた。どうやら、これは、「夢」とは異質なものらしい。俺は、時々こうやって、異世界と現実を行き来しているようだ。

「異世界やなあ」

 そう、この、関西弁を操る、雄のキジトラ猫「太郎」と。


「あれ? 今回、服装が随分チープなんだけど」

「せやな」

 俺は、白いTシャツにジャージ姿。高校時代に体育で着ていたやつだ。普通の白Tに、高校のマークのついた三本線のジャージだ。流石にちょっと腹の辺りがキツい。

「今回、装備とかから探させる気なんかな?」

「今回は探させる?」

「裏の話や。気にすんな」


「で? 今回は、どこ行けばいいの?」

「赤い風船が目印としか聞いてないな」

 っていうか、誰から聞いた?

「裏の話や。気にすんな」


 とにかく、赤い風船を探すことにした。

「木より高いところにあったら、ここからじゃ見えないぞ」

「手下のスズメいてたら、すぐやのにな。」

 あの、以前一緒に戦ったスズメ、お前の手下なの?

「言う事聞かな、食っ……」

 俺は慌てて太郎の口を塞ぐ。頼むから人の夢の中でスプラッタなことすんなよ。(すみません、わかる人にしかわかりません)


「しゃあないなあ。登ったるわ」

 太郎は、身軽にピョンピョン木を登っていった。


「おい、わかったぞ」

 頭上から、太郎の声がする。

「よくやった。降りてこい」

「降りられへんねん」

「は?」

「登れるけど降りられへんねんて」

「……」

 俺は仕方なく、木に登って、太郎を助けに行った。ついでに、風船の位置も確認した。

「お前が登った意味、な」

「ほれ、行くで」

 何事もなかったかのように、太郎は歩き出した。


 赤い風船の場所には、難なく着いた。


 人がいる!

 このシリーズ始まって以来初めての、普通に動いてる人!

 しかも二人!!

 痩せた老人と、若いひょろっと背の高い男。お世辞にも強そうには見えないが。


「よく来たな、勇者よ。えっと、名前……? 太郎だっけ?」

「それは猫の名前だ。俺の名は……」

「あ、じゃあジロウってことで」

 まて。なんで俺がこいつの下なの?

「勇者ジロウよ、そなたに魔法を授ける」

「えっ? 魔法?」

 剣もロクに使えないのに? ってか、その名前、確定なの?


「あ、そなたに魔法を授けるに当たってだな、試験があるのよ」

「試験?」

 若いほうが、ガチャガチャと用意をしている。

「はい、そこ座って」

 会議用テーブルから5メートルくらいのところにパイプ椅子が置かれている(森の中だぞ、おい)。俺は、そこに座った。テーブルの上に、障子紙のようなスクリーンが置かれる。スクリーンの向こう側から、光が当てられた。

「これ、わかる?」

 スクリーンの向こう側で、老人が指で形を作りながら尋ねてくる。

「キツネ……だな」

「ピンポーン」

「何がしたいんだよ!」


「このスクリーンの向こう側に、何かが置かれる。そのシルエットを見ながら、ここにあるものを答えるのだ」

「それが、試験?」

「いかにも。簡単だと思ったら大間違いだぞ」

 そう言って、老人は、若い男に合図をした。


「1問目、これは何じゃ?」

 老人が尋ねる。画面には、りんごのようなシルエットが映し出されている。

「りんご……か?」

「ピンポーン」

 若い男が、スクリーンの上にそれを出して、こちらに見せた。


「じゃあ、2問目ね。これは何じゃ?」

 またりんご? いや、なにかひっかけ問題っぽい。

「その角度からしか見られないのか」

「心の目で見るのじゃ。さあ、これは何?」

 心の目? そんなもん一般人は持ち合わせてない。が、ハッと気付いた。

「半分に切ったりんご!」

「おお。ピンポーン!」

 若い男が、スクリーンの上に出してきたのは、半分に切られたりんごだった。


「おぬし、なかなかやりよる。よし、次」

 シルエットからして、半分に見える。今度は方向を変えて、縦にして置いたに違いない。

「半分に切ったりんご!」

「ブッブー!」

「ええっ?」

「チャンス問題じゃろう。なんでわからんかの? 答えは、1/4に切ったりんごじゃ」

 こいつ、しばく。


「うむ。では最後の問題じゃ。これは何じゃ?」

 また、全形のりんごのシルエットが映される。これは……、最後にもう一度「りんご」というひっかけか、それとも、あ、まさかの、

「縦に薄切りにしたりんご、だろ!」

「ブッブー! なんでわからんかのぉ」

「じゃあ、普通の、ただの全形のりんごだ!」

「ブッブー!」

 若い男が、真顔でスクリーンの上に出してきたのは……

「腹が減って、わしがかじったりんごでした〜」

 お前、絶対しばく。


「試験はこれで終了じゃ」

 これで何がわかると言うんだ?

「とりあえず、『火』系の魔法を授けよう」

 なんだよ、とりあえずって。

 老人は、杖を俺に向ける。杖が一度、ピカッと光った。


「そこに落ちている木の枝を指差して、『火』って言ってみ」

 え? そんな呪文なの? もっとカタカナだらけの奴だと思ってたのに。わかりやすいな、おい。

「火」

 俺は、言われた通り、地面に落ちていた枝を指差して、呪文を唱えた。


 ボッ


 木が燃え始めた。

 うん、いい感じにあったまるな。

 って、おい!


「火力弱いな」

「調節しろ、自分で」

 自分で? どうしろっていうんだ。試しに……

「強火!」


 ボワッ!!


「うおっ!!」

「やればできるんじゃろうが」

「ほお〜。凄いな」

「じゃろう。これが魔法よ」


「で?」

「で? とは?」

「どうやって消すの?」

「あ〜、それはじゃな……おい、これを」

 若い男を呼ぶと、

「消して」

 と言った。

「消火」

 と、男が言うと、手から水が出て、火は消えた。

「こいつは『水』系魔法の使い手じゃ」

 ジジイ、絶対、火系魔法しか使えないだろ。


 とにかく、俺は、生まれて初めて魔法というものを手にしたのだった。

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