第38話

 俺は観覧車の中で涙を流しながら謝罪をする綾原の背中をただひたすらさすっていた。


 綾原は何も悪くないし俺は自分が探したいと思ったから綾原を探しにきただけなので、綾原が心苦しさを感じて涙をする必要なんて無い。

 とはいえ迷子になってみんなに楽しい遊園地での時間を中断させ、自分のことを探してもらった側からすれば心苦しい思いをするのも無理はないだろう。


 先程までは大粒の涙を流していた綾原だったが、その涙は止まりかなり落ち着いてきたようだ。


 そうなるとこのシチュエーションで俺の頭に浮かんでくるのは、絶対に今考えるべきではないこと--すなわち告白である。


 わかってる、絶対今じゃないよな。


 俺たちに申し訳なさを感じて涙を流している綾原に告白をするなんて、あまりにもタイミングが悪いというのは理解している。


 それでも、綺麗な夜景が見える観覧車の中で男女が2人きりだなんて、もう告白する以外ないし、告白したいと思ってしまっても仕方がないだろう。


 それにこの完璧なシチュエーションが次いつやってくるのかなんてわからない。

 いつやってくるのか、なんて言ってはいるが、2度とこんなチャンスはやってこないかもしれないんだからな。


 そんなことばかりを考えながらも、『流石に綾原が涙を流したという状況で気持ちを伝えられるわけがないだろ』と自分に言い聞かせて俺は綾原に告白するのを踏みとどまっていた。

 まあ仮に綾原が涙を流していなかったとしても、チキンの俺に告白ができていたかと言われればそれは定かではないけども。


 俺が告白して、綾原がそれを受け入れてくれたとしたら、綾原と2人で買い物に行ったり、遊園地にもきたり、動物園に行ったり、水族館に行ったり--。


「ごめんね、ずっと背中さすってくれてありがと」


「--っ⁉︎ ちょっ、ちょっとは落ち着いたか?」


「……? うん。もう落ち着いたから大丈夫」


 観覧車に乗ってしばらくしてから涙を流し始めた綾原は、あと1分ほどで観覧車がスタート位置に戻ろうかというところまで言葉を発していなかった。 

 それをいいことに頭の中で告白の話を考えていた俺は、綾原が突然話しかけてきたことに驚きビクついてしまった。


 そんな俺の反応を見た綾原は一瞬疑問を抱いたようだったが、特に何かを質問してくることはなかった。


 ……ふぅ。綾原に告白をしようかと考えていたことを悟られてしまっては、関係性が崩れ去ってしまう可能性もあるので気付かれずに済んで一安心だな……って告白したいんだかしたくないんだか、もう自分でもわけがわからなくなってきた。


 先程までは綾原が涙を流していたから告白するのをやめようとしていたが、綾原自身が『もう落ち着いたから大丈夫』と言ったのであればもう告白してしまってもいいよな? な?


 えっ、俺今から綾原に告白するのか?


 ただこの最高すぎるシチュエーションに流されてしまっただけのような状態で、告白をしてしまってもいいのか⁉︎


「永愛君? 降りないの? もう扉開いたよ?」


「うぇっ⁉︎ あっ、ごめんごめん、ちょっとぼーっとしてた」


 色々と考えているうちに観覧車はスタート位置へと戻ってきてしまい、俺たちは観覧車を降りることになった。


「ふぅーさっきまで1人で心細かったけど、もう永愛君がいるから安心だ」


「そっ、それはよかった」


 告白をするなら観覧車の中で行うのが一般的だろう。


 しかし、俺たちはもう観覧車から降りてしまった。


 でも別に観覧車から降りた後で告白したって問題ないよな?


 どこで告白したかが大切なのではなく、どれだけ想いを込めて気持ちを伝えるかが大切だよな?


 もう告白のことで頭がいっぱいになっている俺は、綾原との会話もまともにできない状態なので、意を決して告白をしようと考えた。


「……綾原っ!」


「えっ、なに、どうしたの?」


「…………」


「え、永愛君……?」


 よし、伝えろ俺、気持ちを伝えるんだ。


 気持ちを伝えて綾原が俺の気持ちを受け止めてくれたとしたら、俺は夢川先生からのミッションを完全にクリアしたことになる。


 そうなったら高い飯でも奢ってもらおう。

 回らないタイプの寿司とか色々。


 --ってそんなことはどうでも良くて、いいから早く伝えろよ俺!


「どうかしたの?」


「綾原、俺、俺、綾原のことが--」


「ちょっと待って!」


 俺が綾原に想いを伝えようとした瞬間、俺たちの会話を遮るようにして大声を出したのは楠森だった。


「くっ、楠森⁉︎」


「綾原さん、私も一個だけ言いたいことがあるんだけど」


「言いたいこと?」


「永愛君ね、実は--」


 こっ、こいつまさか⁉︎


 楠森が綾原に伝えようとしていることに気付いた俺は、急いで止めに入ろうとしたが、楠森の言葉を遮ることはできなかった。


「やっ、やめっ--」


「AIを使って綾原さんをオトそうとしてたの」


「……え?」


 楠森が俺の秘密を綾原に伝えた瞬間、閉園時間に先立ってくるくると煌びやかな光を立てて回っていたメリーゴーランドが止まり光が消えた。

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AIに恋愛相談したら好きな子とお近づきになれた 穂村大樹(ほむら だいじゅ) @homhom_d

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