序章 1-5
美咲は色々なことがあったなと小さな子供をあやすかのように、菜穂の頭を撫でながら、思い返していた。黒く肩まで伸びた髪。髪質は細く、そして柔らかく、サラサラで真っ直ぐに伸びている。綺麗なストレートヘア。毎週、美容院に行ってるのかと錯覚するくらい綺麗だった。しかし、そんなことはなく生まれつきのものだった。時刻は16時を過ぎようとしていた。外は更に雨足が強くなり、ゴロゴロと雷の音が響き始め、それと同時に風が強くなっていく。ガタガタと風が窓を叩く。美咲は窓の方に顔を向け、その様子を見ていた。すると、左側の空気が冷たくなった。密着していた部分が離れ、菜穂が上体を起こしたのだ。美咲は「落ち着いた?」と菜穂に声をかける。「うん。ありがとう、美咲。」菜穂は涙を手で拭いながら、答える。「それにしても、雨、止まないね。もし帰るの大変だったら、今日うちに泊まる?」菜穂は美咲のことを気にかけ、誘った。「そうしようかな。」美咲は考える素振りも見せず即答した。というのも、菜穂に相談したいことがあった美咲は話すタイミングを伺っていたのだ。すると、菜穂は立ち上がり、勉強机の上に置いてあったスマホを手にしながら、「分かった。お母さんに今日、美咲が泊まるよってラインしておくね。」ラインを開き、母にメッセージを送る。「うん。」美咲はそう言うと、ローテーブルの下に置いてあった、白と赤のショルダーバッグからスマホを取り出し、母に「今日、菜穂の家に泊まるから、夕飯はいらない。」とごめんね。のクマのスタンプと一緒にメッセージを送っていた。送信した数秒後、母から「楽しんでねー」の文と語尾に笑顔の絵文字と了解の猫のスタンプが返ってきた。メッセージを送り終えた菜穂はスマホを置く、そして座っている美咲に「シチューの材料があったと思うから、作るの一緒に手伝ってほしい。」と投げかけた。「いいよ。もちろん。」美咲は微笑みながら返事をした。「ありがとう!じゃ、リビングに行こう。」そういうと菜穂は部屋の扉を開け前に置いてあった、スリッパを履く。美咲も立ち上がり、スリッパを履き、一緒に出て行く。階段を降りている最中、美咲は「菜穂と一緒に料理を作るの、なんか久々な感じするね。」と話しかけた。「最後に一緒に作ったのいつだっけ?」と美咲に返す。「うーん、確か半年くらい前かな。お昼にオムライス作って以来じゃない?」「あれ以来かー。」菜穂はその時のことを思い返していた。先に階段を降り終えた菜穂は振り返り、「あの時のオムライス美味しかったよね。」と軽く微笑んだ。「だね。特に菜穂が作ってくれた卵。絶品だったよね。お店で出てくるみたいに、外はふんわりで中はトロッとしてて美味しかった。」「ありがとう。美咲が作ったチキンライスもとても美味しかったよ。」「ありがとう。」二人は会話をしながら、玄関とは逆方向のリビングの廊下を歩いていた。廊下の壁には三つ扉があり、右側にはトイレと和室。左側には浴室があった。
菜穂はリビングの扉を開けて、入ってすぐの右側の壁のテレビドアホンの隣にある、部屋の照明スイッチを押す。すると電気がつき始め、一気に明るくなった。その辺りには、ダークブラウンの書類棚があり、その上には固定電話やペン立て、メモ帳、花瓶が一つ置かれていた。左側にキッチン、右側にナチュラルホワイトの4人用のダイニングテーブル、その奥にL字型の4人掛けのソファーとガラステーブル、前には50インチの液晶テレビが黒色のテレビ台の上に置かれてあった。電気が付くと、菜穂は奥のカーテンの方に向かって歩いて行く。テレビ側の窓とキッチン側の窓のアイスグレー色のカーテンを閉める。美咲が扉の前に立っていると、「作ろうか。」菜穂は明るく美咲に声をかける。美咲は頷くと扉を閉め、二人はキッチンの方に向かっていく。そして、夕食の準備に取り掛かるのだった。
三十二人の罪人達 鹿目 執和 @towa_71
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