第三ノ刀 栄える街の刀持ち

 沈黙が続く。

 感じたのは恐怖のような畏怖のような眼差し。三者三様ではあるが私の問いにも答えられぬ程に物怖じして…一人は気さえ失っている。悪鬼に会ったわけでもなく神に会ったわけでもない。異世界とは意外と緩めなのだろうか。


 仕方あるまい、無理矢理にでも斬り起こせばいい。

 イメージするのは己の身体と刀。構えは居合い、断つは消えている意識。ただ、起こすだけ。刀を振り抜け刀で斬り裂け。誰にでも伝わるように。



 ゲホッゲホッ。という喉から漏れ出た音と共に、首元を抑えて目覚めた彼は随分と青褪めた顔をしている。これならば話し合えるだろう。


「起きたことだし、話そうぜ。」


 再度、感情を込めた笑みは彼らには受け入れられなかったらしく、彼らは身体を強張らせたままであった。





 閑話休題




 どうもこの国は、アレスティナって国であり、今この場所は割と田舎にあるアンファンという街の近くらしい。

 流石というべきかなんというか、見事に横文字のような名前ばかりで日本ならばお目にかかることのないような土地名である。


 更に、運が良いことになんと街の方まで送ってくれる良き人であった。出身地だの名前だのは何度も聞かれはしたものの、送ってもらえるだけありがたい。

 次に出会える時があれば何かしら奢るなどを彼らにしてみた方が良いだろう。


 なにはともあれ広がる壁、石造りの床、立ち並ぶ家々。懐かしいようなそうでもないような、そんな「人」が強調される場所へ私は足を踏み入れることとなった。

 彼らとは街に入った後に別れてしまったが、言っていた「冒険者」という誰でも受け入れる職になれる場所は聞いていたので向かう。


 中々の発展をしているようで、街市のようなもの、屋台、家々の間の路地裏さえも目新しく映ってしまう。 

 目的の方向を外れ段々と人の気配が少ない方へと足を向ける。火や煙が虫を誘うように段々と離れ行く。とあるところで立ち止まる。


「なぁ、お前さん方は何用だい?」


 あまり小綺麗とは言い難い服装に見を包まれた人が数人、建物の影から現れた。


「いや〜、お貴族様みたいな綺麗な服を着てらっしゃるのでね、俺達もそれにあやかろうかと…」

「そうそう、俺達みたいな貧民に与えるのも良いことだろう?」

「まあ、何も言わずに施してくれりゃ…な?」


 それぞれが似たようなことを喋るが、要約すれば「荷物を寄越せ」ということなのだろう。街に入ってすぐからずっと付き纏ってて面倒臭かったのだ。

 …何にせよ、良い実験台が自分からやって来たことは幸運なのだろう。


「何やら勘違いしている様だから言うが…」


「一つ、私はこの国で使える銭は持って無い。」

 実際に、日本の金がほんのちょっぴりあるくらいだ。

「二つ、貴様らがただの物乞いなら別に何かは渡しただろう。」

 実際そうなら斬った動物の肉位は上げたというのに。



「三つ、優男に見えるかもしれないが、私は…悪人はなるべく斬るぞ。」

 私の鼻はよく効くのだよ。



 ノーモーションからの居合い。

 面倒事が起こるのならば先に殺せばいい。下手に抵抗され苦しみ続けるならば瞬間的な死こそが救済へと至る。皮肉と言いたいが私の実体験である。


「まあなんだ、来世くらいは不用意に見知らぬ人間に悪意を向けないほうが良い。なるべく長く生きるなら必須だぞ。」


 とりあえず冒険者になれるという場所まで行くとするか。


 ドサリという何かが倒れ込む音がしたがどうでもいい。今は遅くなった分の取り返しをしなくてはならないのだから。



 その後、とっとこ立ち寄った施設では無事に冒険者になれたということをここに記そう。

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刀使いの修羅剣技  面々麺綿免 @kakikaTa66bbdd

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