第七章 青州観山寺(五)
着衣し、すっかりしおらしくなった
先ほどまでの半人半獣の
妖力を使い果たし、僧侶たちや燕青を悩ませた「
「
「妾はあの巻物に描かれた女の絵姿に、
「はて、それならばなぜあのけだもののような姿に? 」
「その時に使われた筆が、今は亡きわが
「その主とは? 」
「
(
三人は一斉に息をのんだ。と同時に、燕青と四娘は
(そうか、それで二千年の時を経て、とか言っていたのか)
元は
そしてその正体は強力な霊力を持つ「
その切り落とされた尾の毛で作られた筆で描かれたことによって、魂を持つと同時に、狐の霊力を宿した、ということらしいのだ。
「あれ? だってあんた
四娘の問いに対し、
「妾は9本あるうちの5番目の精である。真ん中の尾で一番霊力が強いのじゃ」
「なるほど」
「で、その妲己の
常廉が語気強く尋ねた。
「それは違うでおじゃる! 」
己五尾も強く
「何が違うのだ! 我が弟子の常栄が、この経堂で干からびて死んだのは、お主の仕業であろうが! 」
常廉が烈火の如く怒り出すのを、燕青がなんとかなだめすかす。
「責任がないとはいわぬ。あの者は気の毒なことになったとも思っておる。じゃが好奇心からあの者が巻物を開かなければ、こんなことにはなっておらなんだ」
「だ、だが、わしはお主のような気を発する巻物を、この経堂で見たことも感じた事もないぞ? 一体どこからやってきたのだ! 」
「
「大相国寺? ……というとあの避難させた
常廉が立ち上がり、かなり古びた
「この中か? 」
「左様。宝物庫で眠っておったのに、あたふたと長櫃ごとこの寺に連れ込まれたのじゃよ」
大相国寺は、
ところが昨今の遼軍、金軍との
そこで万一の場合を考え、いくつかの寺に宝物を
「しかし、あの長櫃が運び込まれたときにはわしもいたが、開けようとしても空かなかったし、あんな
「妾は隋代に描かれたのち、唐代に何とかいう偉い坊主に、長櫃ごと封印されたのでおじゃる。たしか
(……どえらい名前が出てきたな)
3人は目を白黒させた。ご存じ「
「では、我が弟子常栄がその封印を解いたとな? 」
「その常栄とやら、ずっと籠もりっきりでさまざまな経典ばかり詠んでおっての。たまたま詠み上げたのが、妾を封じた長櫃の封印を解く経文だったようじゃな」
長櫃から漏れ出た光に驚いた常栄は、好奇心に勝てず開けてしまい、中の御物を見ているうちに、己五尾が描かれた巻物を見つけてしまったのである。
「
「そういえば常栄は死ぬ少し前、思いつめた表情でわしのところへやってきて、なにやら言いたげな様子だった。あれはそういうことじゃったのか」
真面目一本槍で学問一筋。禁欲生活の長かった常栄は思い悩んだ。だがやめることが出来なかった。毎夜毎夜自己嫌悪に悩み苦しみながら、
ところが、常栄が精を放つたび、
そしてとうとうあの夜、己五尾と名乗るこの美女が絵から抜け出てきたのである。
古来より狐の精は、淫乱で
「むぅ、してみるとお主が魔物として
「ここに至っては逃げも隠れもせぬ。じゃが
ここで
「それは困る。とはいえ、お主をただ野に放てば、誰がどんな目に遭うかわからぬ。どうしたものか? 」
「そこで妾からおぬしらに一つ、提案というかお願いしたいことがある」
「なんじゃ? 申してみよ」
ここで己五尾は燕青の方を向き、
「どうか妾を燕青どのの配下としてお連れいただけまいか? この寺を出て行けば問題ないであろう? 」
「はぁあ? 」
3人が一斉に声を張りあげた。
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