第六章 飲馬川山塞(二)
「なにそれ?
再び青州を目指してからはや1週間、すっかり旅にも乗馬にも慣れた四娘が、白兎馬の上ですっとんきょうな声をあげた。
「だから前言っただろ、いちばん信用ならないのはむしろ宋国だって」
隣で説明した燕青は
「ねぇ、皇帝って馬鹿なの? 」
梁山泊の面々を招安した
幸か不幸か、徽宗の時代には政治家「
その言葉に踊らされた徽宗は、全国から
さらに人民を苦しめた「
「おれが話した印象では、決して愚かな方ではなかった。だが
悔しそうに唇を噛む。
「駄目だったの? 」
「とくに盧俊義さまには、徹夜で説得を続けたんだが、やはり昔の栄華が忘れられなかったのだろうな。とうとう最後にはお怒りになり、親子の縁を切る、とまで言われてしまって、仕方なくお
「そうか……」
元気づけようにも、慰めようにも、まだ子供の四娘にはかける言葉が思いつかなかった。
四娘にとって、何でもできて常に明るく
「ちょっと急ぐか。この先暫くは町がないんだが、もう少し行くと
「へぇ、面白そうだね」
わざと明るくはしゃいでみせる四娘であり、それに気づかぬ燕青でもない。
かつての
「ちょっと馬を下りてここで待っていろ」
「どうしたの? 」
「馬や荷車は通っていないようだが、人は通っているようだ。ところどころ草が踏み倒されている。多分ひとりだろうが、いちど偵察してくる」
かつて、後に「星持ち」となる「
四娘と2頭の馬を少し開けた草原に
山塞の
その前庭に、焚き火の前に座る人影があった。
遠目で見るに、伸びっぱなしでぼさぼさの髪の毛、髭もびっしり鼻の下から
乞食か浮浪者か、何にしてもひとりのようだ。
(乞食ひとりなら大丈夫かな)
燕青は
男は一度じろりと燕青の方を見たが、すぐに興味を失ったようで、眼前の肉の焼き加減を真剣に見つめている。
近づいてみると、60歳くらいであろうか。よほど長い間洗っていないのか、顔も手足も
燕青は慎重に話しかけた。
「もし、ご先輩、ご無礼をお詫びします。少々お願いがありまして参りました」
老人は燕青の方を向いてから、焼いていた肉の塊にかぶりついた。肉の一片を食いちぎり、もくもぐ
「ご先輩ときたか。まぁいきなり爺さんと呼びかけなかっただけましかな」
声は意外に若々しく、しかも低いのにしっかり遠くまで通る力強い声である。
その声を聞いた瞬間、燕青は(これは
「失礼いたしました。わたしは小乙と申す旅の者です。間もなく日も暮れようとしていますが、町まではまだ遠く、こちらの建物で一晩過ごさせていただきたいのですが、お願いできますでしょうか? 」
「ふふっ、わしとてこの
「そうですか、実は下にわたしの妹も待たせてありまして、一緒に泊まらせていただきます。よろしくお願いします。ときにご先輩、お名前は? 」
「わしか……わしは
「周先輩ですか。では失礼して妹と馬を連れて参ります」
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