第五章 康永金夢楼(六)
「ええ、ここまで魂が拒絶しているのがわかった以上、正直申しあげて太夫がこのお仕事を続けるのはもう無理です。引退なさるべきです」
「そう、でしょうね、でも」
「なにか問題が? 」
「わたしもぜひそうしたいところです。ですが、曲がりなりにもわたしは
四娘は、このままでは魂が逃げ場を失い、いずれおかしくなってしまうと説得したのだが、太夫は楼主の
最悪の場合「
いろいろな方面から
四娘も困り果て、燕青に助言を求めようとしたそのとき、棚の上の箏がうっすらと光を放ちはじめた。
光はやがて箏から離れ床に降り、だんだん輝きと大きさを増していき、人の形をとりはじめた。輪郭がはっきりしてきたのを見て太夫が叫んだ。
「
箏の中から出てきた
李承の魂は3人に頭を下げてから語り始めた。
(太夫、お願いですからここはお逃げになってください。このままだと近々魂が衰えてお亡くなりになってしまいます)
「それよりあなた、今までいったいどうしていたの、なぜ姿を見せてくれなかったの」
王扇太夫の問いに、李承の魂は切々と答えた。
唐回に殺されて、
できることといえば、箏の中に潜んで太夫のことを案じることだけ。苦しく悲しかったが、箏から出て見つかれば、僧侶や道士に
だが今日、久しぶりに、小乙が純粋な気持ちで 箏を引いてくれたこと。太夫が自分のことを思い出しながら、昔と同じように笛を吹いてくれたこと。そして何よりも
(今日太夫は三ヶ月ぶりに、心底満ち足りた気持ちでお眠りになれましたよね。ということは、
李承の魂は、今度は四娘に向かって懇願した。
(道士様、
「
「ええとね。あたしの仕事は、人に災いをなす
四娘の言葉に、王扇太夫も李承の魂も、安堵の表情を浮かべ、深々と頭をさげた。
「小融様、
唇を噛みしめ、眦をあげた王扇太夫の表情に、もう迷いはなかった。
(小融様、ありがとうございます。しばらくのあいだ、
李承の魂は太夫の背中から、体の中に溶け込むように消えていった。
燕青は久しぶりに口を開いた。
「小融、見事な道士っぷりだったな。ではここからは
「はい、大丈夫です」
「それならば」
3人と1霊は太夫の身の振り方についてあれこれ思案した。が結局、一旦「二仙山」で保護してもらい、あとは
こっそり部屋を抜け出し、太夫と四娘は
そして状況説明の手紙を持たせた太夫を、「
ここまでくれば
「善は急げだ、太夫はそのヒラヒラの服ではまずい、何か動きやすい服に着替えてください。準備ができたら行きましょう」
太夫は急いで
そして部屋を出ようと、扉に手を掛けたまさにそのとき、いきなり外から声がかかった。
「先ほどから何やら話し声が聞こえましたが、祓いの方はお済みになりましたかな? 」
声とともに、洪楼主と、数人の
「おや太夫、そんな格好をなさって、どちらへおいでですかな? 」
きゅう、と洪の口元がねじあがって笑顔を作っているが、目は全く笑っていない。
一瞬怯んだ太夫であったが、きっと表情を引き締め声を張った。
「洪様、長年お世話になりましたが、
「太夫、困りますなぁ。そんな
「いやです、お断りします! 」
「やれやれ、祓いだけしておけばいいものを、何を吹き込みやがったのか。まぁいいでしょう。
「あたしもお断りよ! あんたみたいな腐れ外道のいうことなんか聞くもんか! 」
「そうはいかない。そもそもあなたでしょ、こちらの方々に
と、嫌らしく話しかける洪泰元のうしろから現れたのは、体中に
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