第二章 二仙山紫虚観(二)
「
「そうか、で、
「はい」
「私も……」
苦悶の表情で、吐き出すように言った。
「私も、
「
「
田虎、王慶、方臘といった大規模反乱軍を、
燕青はうなづき、
「だから私も、大恩ある
「
その彼が、
「そうか……それはお前のような義理堅い男には辛かっただろうな」
「はい……官軍を抜けても行く当てはないけれど、蓄えた路銀には余裕があったので、どこか落ち着ける町を探そうと旅に出ました。途中で金国がこの燕雲十六州から
「なるほど、その途中で小融に出会い、助けてくれたと。なかなかの
羅真人が笑いながら長髯をしごいている。さらに続けて、
「と、いうことは当面なにか決まった行き先はない、ということじゃな?」
「はあ、まあそういうことで」
「
「どうじゃろうか。一生とは言わぬが、しばらくわしの
「は? 食客?」燕青は突然の申し出に面食らった。
「いやなに、先ほどあのならず者を懲らしめたのを見たが、おぬしの腕前は相当のものじゃ。そんじょそこいらの相手には負けんじゃろう。どうかの、わが二仙山の道士たちの
一清道人がそれを聞いてパン、と膝を叩いた。
「なるほど、
燕青は考えた。確かに、師匠であり父と慕う
宋国は、皇帝も役人も軍隊も全く信用ならない。かといって今さら賊軍に入る気も、ましてや現在宋国を
はて、おれはいったい、これからどう生きていこうか……
しばし考えたのち、
「……わかりました。しばらくご厄介になります。よろしくお願いします」
と、頭をさげた。
聞いて羅真人と一清道人は相好を崩した。
「ありがたい、これでわしも
「うかとうせん?」
「さよう、わしももうすぐ百歳になる。そろそろ俗世から離れて仙界に登りたいのじゃよ。ところが後進を託すべき一清めがおぬしら梁山泊に取られていたせいで、なかなかそちらに手が回らなかったのじゃ。幸い、一清もすでに、秘技『
「へぇ、さっきの四娘なんか、あんなに小さい体で凄い
「そこよ。この二仙山は現在、
なるほど。先ほど見た
そう燕青が考えたところで、一清が後を続けた。
「ここで暮らす道士たちは、先の四娘も含めほとんどが、戦災孤児など身寄りのない子で、真人様はそういう子らを自立させたいとお考えだ。だからできるだけ独力で祓いの依頼を受けさせたいのだが、毎度真人様や私が付いていっては、道士としての成長が望めない。だからおぬしに、祓い以外の部分で
自身も孤児だった燕青は、身寄りの無い者が独り立ちする不安をよく知っている。ならば力になってやろうと、無言で力強く頷いてみせたのである。
「護衛してもらうのは
「一清よ、例の
「観山寺?」
「
まぁ旅自体は別にかまわない。むしろ野に伏し山に寝、石に枕し流れに
あてのない流浪より、目的地がある旅の方がどれほど心強いことか。
「分かりました。で、どなたの護衛をすれば?」
「そうさの。いきなりふたりも三人も護衛してくれ、は大変だからまずはお試しでひとりだけ……となると、顔見知りにもなったことだし、先ほどの
「あれですか……あれは
「あはは、大丈夫でしょう。どれだけ世話が焼けても、『
それを聞いた一清と羅真人は、顔を見合わせてぷっと吹き出した。
「ふふふ、そりゃもっともだ」
「
かつて羅真人を殺そうと企み、逆に散々な目に遭わされたことがあるのだ。
「では、小融を呼んできましょう」
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