第38話 戦闘

 いきなりドアが開いて数人の目出し帽の男が入ってきた。

一心は胸倉を掴まれ「なんだお前らは?」

リーダー格だろう男に返事を強要された。

「強盗犯を捕まえてくれと頼まれた探偵だ」

一心は答える。

「警察も来てるのか?」男は一心の胸元を掴んだまま持ち上げ、顔を近づける。

「いや、俺らだけだ。もう少し様子を探ってから通報する積りだったがこのありさまだ」

身体に力が入らず首を吊ってるような姿勢で苦しいが何とか答える。

「本当か?」

「俺は撃たれてるんだ。嘘言ったってしょうがないだろう」

そう言うと、男は一心から手を放す。

どさっと床に倒れ込む一心、数馬に支えられ肩で息をする。

「まぁいい。おい、あれ飛ばして周囲を警戒させろ」

リーダー格に言われた男がふたり部屋を出た。

「俺たちがここを脱出するときまでの命だせいぜいもがいてんだな。ははは」

リーダー格の男もそう言って出ていった。

良かった。数馬は何もされなかった。

少しして盗聴器から「博士」と呼ばれる男にリーダー格の男が報告をしているような声が聞こえてきた。

「数馬! 行けっ!」一心は叫んだ。

困ったような顔をする数馬を一心は思い切り蹴った。

「早く行け! ふたりとも殺されるぞ!」

肩で息をしながら怒鳴る。

「父さん、必ず助けるからな、少しだけ待っててくれ!」

そう言って数馬はいとも簡単に鍵を開けて出ていった。

こんな一般的なカギは鍵師の数馬にとったら鍵のないドアと一緒なのだ。

背中の激痛を感じなくなってくる。

これで少なくとも数馬は逃げ切るだろう、ホッとしたら何故か意識が遠くへ飛んで行った。

 

 

 数馬は頭を低くして走った。垣根を抜けて兎に角早くと思って走った。

「待てーっ!」怒鳴り声が聞こえた。

監視カメラで脱走する姿を発見されてしまったようだ。

「逃げたら、もう一人を殺すぞっ!」

数馬は耳を塞いで足を止めなかった。

背後で銃声がする。幹や足下にも、そして腕に掠った。

弾みでもんどりうって転ぶ。それでもすぐ立ち上がって走る。

倒木を飛び越え、あるいは下を潜って「一心を、親父を助けるためにはここで死ぬわけには行かない!」

強く思って走った。

四、五人くらいに追われているようだった。

どのくらい走り続けたのか、突然後方で男の悲鳴が複数聞こえる。

驚いて振返る。

銃を持った男がふたり伸びていた。

そして、そこには着物の裾を端折って、タスキを掛けている母、静の姿があった。

見ていると母の後ろから男が撃とうとしている。

「危ないっ!」

数馬が叫ぶより早く母は木の幹に姿を一瞬隠し弾丸をよけるとすぐに反対側から飛び出して男の顔面に右フックを叩き込んだ。

骨の砕ける音がして数メートル飛ばされた男は動かなくなった。

まだ残っているふたりの男は銃を構えながら後ずさりして静との距離をとり、さっと振向くと逃げていった。

その様子を樹木に隠れながら見ていた母がにこっとして数馬のところへ来てくれた。

「数馬、あんはん大事おへんか?」優しい母の口調で訊かれ

「あっ父さんが撃たれたんだ!」

「何処で!」優しい微笑みを、一転、鬼の形相に変え質す。

「奴らの家の前の倉庫の中」

聞くより早く母の姿が消えていた。

数馬は美紗に状況報告し警察に通報してと叫んだ。

それから佐田チームへも一報を入れて父親救出の協力を頼む。

そして父のもとへ走り出した。

 

 垣根を越えた辺りで静が足止めされている。

銃弾が降り注ぎ、さすがの母さんにもどうしようもないようだった。

銃弾が止むのを待つしかないのか、と木の陰でもどかしく思っていると、佐田チームの二機の<かぶと虫>が空から狙撃者を攻撃する。

それで敵は引いた。が、今度は敵の<かぶと虫>が飛んでくる。十機以上ありそうだ。

空中戦だが数では分が悪い。

しかし、見ていると、佐田チームの佐田機はスピードが速いし背後に回られても宙返りや急停止したり変化して攻撃を逃れ、敵の背後に回って撃っている。細かい動きで敵を混乱させている。

佐田機は互いの距離を保って味方同士の撃合いや衝突を招かないように戦っているのに対し、敵機は十機以上がばらばらに攻撃を仕掛けているように見える。

ただ、数馬はその中に佐田機に劣らぬ動きをする<かぶと虫>を一機だけ発見した。

その機以外は敵機同士で撃合いになってしまいそうだと見ていると、想像通りに敵機同士が空中で激突し墜落する。

その強敵は佐田機に絡みつくごちゃごちゃとした戦隊から離れ少し上空から状況を見定め、ここぞと言う時に一気に降下して佐田機に襲い掛かるのだった。

幾度となく佐田機の危ない場面を見せられたが、間一髪のところで佐田機はかわしている。

空中戦は、数馬の位置からは四、五十メートル離れた場所で、数馬の目には碁石の大きさの<かぶと虫>が夫々複雑な曲線をほかの曲線と絡みあわせながら描いているように見える。

が、その飛び方や戦い方で敵味方が分かるくらい差があるのだ。

 佐田機の後ろに敵機がついて数馬が一瞬「危ない! やられる!」と叫んでしまう場面も何回となくあるのだが、その時、佐田機は急上昇し、敵機にその後を追わせるのだが、スピードが違うので宙返りして円を描くように元の位置に戻ってくると敵機との距離が空いている。さらに宙返りを繰返すと佐田機が最後尾の敵機に追いつきそうになる。

数馬がそう思った瞬間、その最後尾の敵機が爆発し墜落する。そして更にその前を飛んでいた敵機も撃たれ墜落した。

残った敵機は蜘蛛の子を散らすように逃げる。

もう一機の佐田機は水平に飛んで敵に後ろを取らせる。その瞬間エンジンを止めたのだろうか急激に速度を落し墜落でもするかのように落ちる。敵機は速度を落としきれず佐田機の上を通過すると佐田機は下から見上げるように攻撃したのだろう、一機、二機と爆発する。

数馬はさすがに北海道で飛行訓練をしてきただけのことはあると感心する。

数馬が思うには、おそらく、<かぶと虫>のカメラで写される映像は前方だけなので、前方の敵が画面から逸れてもその方向前に敵がいるはずと思い込んでしまうのがやられる原因だろう。スピードの違いや操縦技術の差がこのような錯覚ともいえる状態を生んでいると思う。

 

 戦いが始まって十分も戦っているだろうか敵機が五機、六機と撃ち落とされてゆく。

数馬が「敵機をやっつけろーっ!」と応援をしていると、例の敵機が佐田機に襲い掛かった。

数馬が「あっ危ないっ!」と思った瞬間、佐田機が一機爆発し墜落してしまった。

「あーやばい!」数馬の口から思わず零れた。

するとさぁーっと別の佐田機が飛んできて敵機を攻撃する。予備機があったのだろう。

そして、

佐田チームの二機がさーっと引いてゆくと、いつの間にかその遥上空に美紗の操縦するバルドローンが飛んできていて、大きな網が敵機の上に落とされる。

数機が引っ掛かり火花を散らせて墜落する。

美紗はそれを二度、三度と繰返し、敵の数が数えられるほどに減った。

数馬がさすが美紗だと感激していると、突然、美紗のバルドローンのバッテリー部分から火を噴いた。例の敵機がまだ残っていて美紗のバルドローンにレーザーを照射したのだろう。

バルドローンはドローンの機能を失ってもハングライダーのように滑空できるので、美紗はゆっくり下降し続けている。

今度は、一助が敵機の上空から真っ黒な霧を撒く。霧は大きくひろがり敵機を襲う。

そして霧を浴びた<かぶと虫>はふらふらと飛んでいる。

美紗によれば黒いのはペンキで金属の粉を混ぜてあるらしい。

カメラ機能の喪失と本機との通信妨害を狙ったものだと言っていた。

それが見事に的中し敵機は空中を彷徨い墜落したりあらぬ方向へ飛んでいく。

美紗が落とした網は静電気を帯びた細い金属製の糸で作られた網で<かぶと虫>が触れると、内蔵する機器がショートし墜落することになると美紗が自慢げに話していた。

 

 美紗のバルドローンは火を噴きながら滑空し高度を下げ続けていたが、炎が大きくなってバルーンに引火しガスが漏れ、一気に落下を始めた。

美紗の悲鳴が響いた。

すばやく一助が美紗のバルドローンのすぐ後ろから美紗の機体の下に回って、空中にジャンプする美紗の身体を機体上部のバルーンで受け止めようとする。

躊躇する美紗に一助が手振りで早く! と言っている。

思わず数馬も「飛べーっ!」と叫んだ。母も叫んでいる。

覚悟を決めたのか美紗の身体が宙に舞う。もう、地上まで数十メートルも無い。

一助がバルドローンをその下へ動かす。

うまい具合に美紗はそこへ落ちた。

数馬がほっとしたのもつかの間、美紗の身体が大きくバウンドして機外へ落ちる。

 

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