第37話 樹海
バルドローンが飛び立って十五分過ぎて一助から、
「建物発見したぜ。位置は送ったからみんなに知らせて。道路はついてないな、建物の周りは木が切られててよ、広く空き地になってて、英語の<H>の文字書いてるからヘリポートじゃんか。これ使ってんのかもな。
「見つからんように監視続けててくれ」一心はそう言って手元のスマホを見る。
自分の位置と目的地の位置とそこまでの距離が示されている。
これも美紗作だ。
「数馬方向はあってるから急ごう」
とは言っても足下は悪い。高木と低木が入り乱れている。それだけで視界は五十メートルも無い。さらに溶岩の上の樹木は土が浅いため根が横に這うので地面が至る所盛り上がっている。
そこら中に倒木がありコケなのか緑色に覆われ且つ滑る。
枯葉も堆積していて靴がすっぽり埋まるくらいのところもある。
樹木の土台となっている溶岩も固まるときには結構な高低差のあるでこぼこでその上に土が堆積して木が生えるのだから、想像する以上に歩くのは厳しい。
倒木の下を四つん這いで潜ったり、太い倒木を越えられず数馬に木の上から手を引いて貰ったりもした。
残り一キロですでに汗だく、休憩を入れたいがドリンクを持ってこなかった。
ふと気が付くと腕や足に枝が当たったのだろう、服が破れてたり血が滲んでいたりする。
さすがに数馬は若いだけあって早い、一心の二十メートル先を歩いている。
それ以上離れると姿を確認できなくなる。
多くの低木は少ない光でも成長できるもので、高木は広葉樹より針葉樹が多いようだ。
幾種類もの鳥や獣のだろう鳴き声が、もののけのように響いて聞こえる。
そして数馬は、時折一心がついてきているのかを確認するように振向いて「大丈夫か?」と声をかけてよこす。
一人前になったものだ。
三十分歩いて残り百を切った。
低木が増え始めたし倒木がやたらと多くなった。
さらに進むと木々の間にシダ類などが所狭しと生えている。さらにその先には二メートルほどの高さの低木で垣根が隙間なく作られているようだ。
そこで数馬も停まっている。
「ここ通り抜けられないな」数馬が言う。
「おそらく奴らが侵入者を防ぐために故意に植えたんじゃないかな。周囲を囲っているだろうから、木を切って進むしかない」
しかし、持っていたのは小型のナイフだけだ。すぐにこの状態を美紗に伝えた。
幸い手袋を履いているので、枝を折ることにした。後続も来るから一メートル間を開けて通れる分だけの枝をボキボキと折る。
予想以上に生きている木は頑丈で汗が筋を作って流れ出す。
なんとか乗り越えて進むと家が木々の隙間から見えてきた。
「数馬、外を監視してるだろうから、頭下げて少し様子を伺おう」
建物の周囲をよく見ると、監視カメラが各面にあるようだ。
ふたりは横へ動く。
いきなり後頭部に何かが突き立てられた。
振返ろうとすると目の端にライフルの銃口が……数馬の方へ視線を走らせるとそこにも目出し帽の男が立っていて数馬の頭に銃口を当てている。
「静かに立て」と言われ数馬と目を交わしてゆっくりと立ち上がる。
数歩歩いた時だった。
数馬がいきなり振向いて男を殴った。男は空に向けて銃を放った。
驚いて見ると一心に銃口を向けていた男が数馬に狙いをつけて撃とうとしている。
慌てて「数馬危ない!」叫んで数馬めがけてジャンプした。
銃声が響いて背中に強烈な痛みが走った。肉が削がれたような気がした。
「一心!」数馬が叫ぶ。
数馬に殴られた男がライフルのグリップで数馬の顔面を殴る。
酷い音がして数馬は倒れ側頭部から血が流れ落ちる。
「数馬、騒ぐな!」一心は必死で叫んだ。
一心は立てなくなり数馬に肩を借り、銃で背中を突かれながら建物の前にある倉庫に入る。
その中に部屋があって、男がカギをあけてふたりを突き飛ばす。
よろけて倒れる一心に「大丈夫か? ごめん」
数馬が謝る。
「いや、大した怪我じゃないから大丈夫だ。それより男の靴に盗聴器仕掛けたから聞け。そしてお前だけ脱出して応援を呼んで来てくれ」
「いや、父さんも連れて行くよ。一緒に逃げよう」
「ダメだ。俺が行ったんじゃ足手まといになる。来た時の状況を考えろ、ひとりでさえきついんだ、言う通りにしてくれ!」
一心は必死で説得した。数馬を殺させるわけには行かない。
ふたりで盗聴器から聞こえてくる声を聞く。
犯人も緊迫しているようだ。一心達が来たことで警察もここへ来ると考えたんだろう。
金を持って逃げる算段をしているようだ。
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