第36話 金の行方

 朝九時、「一心、GPS動いたぞ! ほら、警視庁のおっちゃんに電話っ!」美紗が叫ぶ。

美紗が作ったシール型GPSからの情報を受信できるのは携帯が使える範囲なので、海上では使えないのだった。

「江東区新木場四丁目から東へ飛んだようだ。ヘリじゃないか? 今は富士山の青木ヶ原樹海を目指してるみたいだぞ!」

一心は万十川課長に叫ぶように伝えて、「じゃ、行くぞっ!」家族に向かって叫ぶ。

準備していたトラックにはバルドローンを二機積んである。それには佐田博士らから聞いた<かぶと虫>の性能をもとに捕獲するための道具が夫々積んであるのだ。

(バルドローンは美紗の手作りの一人乗りドローンで翼の形のアドバルーンにドローン付きの座席をぶら下げたようなもの)

捕獲道具は、美紗が考え抜いて作ったものだ。

一助と美紗がバルドローンに乗るのでその二人がトラックに乗って向かう。

残り三人は一心の乗用車で向かう。高速を通って二時間半余りの距離だ。

走っていると一心に電話が入る。

「あーそうなんだ。こっちはもう向かってるから」

そう言って電話を切る。

「万十川からだ。美紗の言ったところにヘリポートがあるらしい。で、チャーターされたヘリが富士山周辺の観光のために飛んでるらしい。で、どうして行先わかったって言うから、課長に渡して幾つかの札束の帯封に貼ったシールがGPSなんだよって言ったら驚いてたわ」

「あらゆうてなかったんどすか?」と静。

「まぁな、あまり役立つと思ってなかったから」

「あら、そないな事美紗が聞きよったら怒りまっせ。ふふふ」

「それと機動隊二百名態勢でもう近くまで来ているらしい。ヘリも何機か飛んでくるようなこと言ってた」

「大掛かりでんな。まぁ意地でもというとこでっしゃろな」

 

一心らにやや遅れて佐田チームも向かったはずだった。

川口インターを出て二十五分ほどで本栖湖に到着、湖畔の駐車場に停める。

本栖湖を見ると富士山は背中側になる。

富士山を見ると樹海はその左側裾野に広がっている。

 

美紗と一助はすぐにバルドローンの出発準備に入る。

ふたりが飛び立ってすぐに佐田チームが着いた。

挨拶もそこそこに、四方幕付テントを張って会議テーブルを二台並べてパソコンを置き起動、<かぶと虫>の発進準備に入った。

一心と数馬は歩いて美紗と通信しながらGPSの示す方向へ歩いてゆく。

樹海の中に観光用の道は作られているが、一心と数馬は道から外れ樹海の中へと入って行った。

五分も歩くと富士山がまったく見えなくなった。

美紗が駐車場から北西へ二キロほどのところにGPSがあると伝えてきた。

 

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