第30話 裏切り

 十二月四日、田口裕子は朝早く根島を横浜の臨海公園に呼び出した。

そして裕子は海を背にして手摺に寄りかかり

「あんた佐田研究所の強盗事件起したでしょう。そしてテレビで大騒ぎになっている議員や官僚を暗殺して百億円を要求したのもそうなんじゃないの?」裕子が問い詰める。

「俺は知らない。何か証拠でもあんのか?」根島は裕子に対峙するように立ったまま両手をズボンのポケットに突っ込んで白を切る。

「前にここであんたと喧嘩したあと、青池あかりっていう女が私に声かけてきて、何かと思ったらあんたと同棲してるっていうのよ。その時はまだ嘘だと思ったんだけど、ベッドで並んでる写真見せたりするんでそうだったんだって思った。その時、あんたは教授でも何でもないただのチンピラだって教えて貰ったのよ。という事は、私と出会って始めに准教授だとかって名乗ったのは、研究所の話を聞くために私に近づく口実のひとつだった。何故? 研究を盗むためよ、違う?」

「さぁな、俺はかっこつけたかっただけだ」根島は平然としていて動揺を見せない。

「嘘言うな。相手の素性も分からないで教授だなんていったら、引かれることの方が多いわよ。普通に実業家とか医者とか言った方が、金持ってそうかなって思うんじゃない」

「うっせーな、何ごちゃごちゃと、用終わったら帰るぜ」そう言って裕子に背を向け歩き出した。

「良いわよ。私、このまま警察へ行ってあんたが暗殺した凶器持ってるってちくるから。じゃ」

裕子が怒鳴り、そして根島の背中を睨みつける。

根島は振向いてにやりとして

「大人しくしてれば長生きできたのになぁ……」

そう言いながら胸ポケットから拳銃を出して、一ミリの迷いもなく引き金を引いた。

逃げる暇もなく裕子の胸に激痛が走った。

付近にいたカップルなどが銃声に驚いて一斉に注目し、拳銃を手にした男と倒れる女を網膜に焼き付けて悲鳴を上げる。

裕子の目に映る根島の走り去る姿がしだいに小さくなってゆく……

薄れる意識の中で、必死に留市かなめに電話を入れる「早く出て……お願い……」が、相手が出る前に意識が消えた。

 

誰かが救急車と警察を呼んで周りに人だかりができる。

 

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