第28話 第二の悲劇

 十二月二日、外務次官の一条信(いちじょう・しん)が朝自宅近くの皇居外周をジョギングしている最中、狙撃され死亡した。

付近には数名同じように走っていた男女がいて、救急車を呼んでいる。

銃創は額から入り後頭部へと貫通している。

救急車を呼んだ男女も銃声を聞いていない。

警視庁の万十川建造課長が現場を仕切っていて、周辺の聞き取りを繰返し指示したが不審者を見たと言う証言は得られていない。

浅草署の丘頭警部も駆り出されて捜査をしたのだが

「まったく、何も浮かばない。可笑しいなぁ人ひとり殺されてるのに、それもすっかり明るくなった朝よ、変だと思わない?」と、疲れたと言って一心の事務所に顔を出した警部はそうぼやく。

一心は迷ったが佐田博士らの話をした。

警部は目を輝かせて「ちょっと会いに行こう」

一心の手を強引に引っ張って覆面に乗せて走り出した。仕方がないので住所を書いてあるスマホの電話帳を見せる。

 

 駐車場に車を停めて、正門から入る。

警部が茶道教室の方へ行こうとするので、別棟と言って先に歩く。

佐田博士はいつも通りの姿で迎えてくれた。

警部を紹介して応接室で対座する。

警部が二日続いた殺人事件の話をし、凶器について心当たりを訊く。

佐田博士は<かぶと虫>の話をしてレーザー光で狙撃はできると言った。

「現物を見せて下さる?」と警部。

ちょっと待ってと言って席をはずし<かぶと虫>を手に持って戻ってきた。

「あら、こんなに小さいの?」

「えぇまだ試験の段階で、人が乗れるようなものを開発しようとしてます」

「そう、これでひと殺せる?」

「やってみましょうか? とは言っても人じゃなくってブロックとかを撃ってもらいましょうか?」

……

田口が「準備出来ました」と言って警部らに外へ出るよう促す。

さっきのとは別の機体が庭のテーブルに載っている。そして十メートルほど離れたところにブロックが幾つか積み重ねられている。

「あのブロックを撃ちます」博士が説明して「田口さんどうぞ」スマホで話す。

<かぶと虫>がすーっと浮き上がってブロックに向かって少し飛ぶといきなり大きな音をたててブロックが砕ける。

「撃ったの? 全然見えなかった」

警部の質問に佐田博士が笑顔で、

「レーザー光線の光は目には見えないんです。射撃音も殆どしない。でも、効果はご覧の通りです」

警部は一心を凝視して

「これだわ。間違いないこれが凶器よ! 飛んでるときに音もしないし小さいからそこにあることすら分からないもの。そして殺ったのはあなたがたね」

一心が「待って」と静止したのも聞かないで、無線で応援を呼んでしまった。

 

 三十分後、ふたりの博士と操縦士の二人が署に連れて行かれた。勿論凶器の<かぶと虫>五機も警察へ持って行かれた。

残された庵に「申し訳ないね、俺が警部に情報提供したばっかりに、みんな連れて行かれちゃって」

「ははは、いや、良いんですよ」

庵は余裕の笑いを浮かべる。

「実は、探偵さんご存じの柴田翔への仇討ちを考えていたんです」

「やはりそうでしたか、みなさんの家族が次々に狙われて、本当にみなさんが柴田議員から恨まれるような出来事は無かったんでしょうか?」

「それが、誰も心当たりないって言うんです。わたしもです」

「偶然にしちゃ、事件が起き過ぎだと思いませんか?」

「確かにそう思います。思うんですが、分からないんです。みんなとも話し合ったんですが何ひとつ出てこないんで……」

庵がそこまで言うならそうなんだろう。が、一方的に柴田が恨むってことも考えられるからなぁ……。

話をしていると、警部から電話が入った。

銃創は銃で出来たものでは無くレーザー銃で撃たれたものだと確認されたと言う。

国内には登録された限られたものしかないため、密輸あるいは<かぶと虫>しか考えられないと言う。

撃たれた部分は焼け焦げていて出血はあまり無かったようだ。

その話を庵に伝えると、「強盗だ。犯人は強盗ですよ」

真剣な目をして訴える。

 

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