第26話 秘密基地
佐田チームは庵宅別棟の秘密基地に集まっていた。
全焼した庵宅は重機も入って綺麗に片付けられ整地もされていたが、まだ住宅の建築には着手していないようだった。
「ご心配を掛けましたが、わたしと娘は当面ホテル暮らしをし、そのホテルの小宴会場を借りて茶道の教室を続けようと思ってます」と庵が言った。
「そう、新しい家を建てるんでしょうがしばらくは落ち着きませんね」と佐田が心配する。
「えぇ、まぁ生徒は専用のバスが出ていたので行先が代わっただけで、その事で辞めるという娘は出ませんでしたから、今設計している住宅が年内にはできるという業者の話なんでそれまでですね」
「へぇー、庵さん、新しいお家はどんな感じなんですか?」田口が興味津々と言った感じで尋ねる。
「そんなびっくりするようなもんじゃないんですが、一階に前のと同じ広さの教室と茶室を四つ作ろうかと思ってます。もちろん、キッチン、リビング、バストイレは同じ感じです。で、ふたりになったので二階に階段を上がった左側に華蓮が結婚しても住めるように三LDKにバストイレ付きの部屋を用意して、階段の右側にわたし用のバストイレ付きの部屋を作ろうとしてるんです」
「そうしたら、普段からご飯は別々に作るんですか?」留市が突っ込む。
「ははは、いや、家政婦さんを雇ってるんで一階のダイニングで食事は一緒ですよ」
明るく庵が応じた。
「あぁそれと庭は草木を植えて造ろうと思うんです。最近、今の庭が寂しい感じがするものですから……」
庵宅が無くなった今は、別棟から門やその横に続く塀が見えていて、庭がぽつんと依然と変わらない佇まいを見せていた。妻と娘を亡くした庵にはきっと寂しく悲しい景色に見えるんだろうなと佐田は思ったが口にはしなかった。
そして、そんな窓外の景色を眺めながら本題へ話を向ける。
「じゃそろそろ話を始めましょうか」
今日は柴田翔への復讐について話したいと言い出した留市の意見に、ほかのメンバーも夫々思うところがあり集まったのだった。
「ねぇ博士、ここには五機の<かぶと虫>があるし、飛ばすための装置も全部揃ってるんですよね?」
留市かなめが確認する。勿論、それを使って復讐したいと考えていることはみんな知っている。
「あぁそうだが、しかし、それを復讐のために使うことは科学者としても、人としても許せないが……」
そう言う佐田も心のどこかで恵子を殺した議員秘書だけでなく、健治や翔も憎んでいる。その気持ちに嘘は付けない。
「佐田博士、私もかなめの言うように悪は退治した方が良いと思うわ」
田口は、詐欺の被害額が概ね戻るだろうという被害者の代理人弁護士からの伝言を聞いていて、ちょっと言い方に余裕がある。
「中原博士はどう思いますか?」と、佐田が訊く。
「隼のことは柴田が罪を着せたうえで殺したと思ってますよ。ただ自分には密室の謎が解けてませんが……。それでも<かぶと虫>を使う事はねぇ……」
中原博士も学者としての立場と親としての立場の狭間で苦しんでいるようだ。
「ドラマじゃ、どんな人間だって殺されて良い人間なんていないって刑事が犯人にいう場面があるじゃないですか、わたしは違うという信念がある。今の法律は加害者の生きる権利ばかりを重視し過ぎだと思うんです。愛葉は四十五で殺されました。犯人がそれより年下なら同じ年までしか生きる権利は無い、とすべきなんだ。同じ年になるまで刑務所で悔いてその年齢になったら死刑を実行する。それに複数人殺さなければ死刑にはならないなんて不公平だと思うんですよ。
三人殺害しないと死刑にならないとも聞くけど、三人の被害者の命の重さと加害者ひとりの命の重さが同じだって理屈になるでしょう?
ただ、その殺人が親族の仇討ちだった場合は同じには扱えないと思うんですがね」
庵は昔からそう言う考えを持っていて、妻と娘を失って自分の考えを改めて主張しみんなに認めて貰ったうえで復讐をしたいと考えているように佐田は感じた。
「庵さん、では復讐に賛成なんですね」佐田が問う。
「佐田さん、復讐と言う言葉は止めましょう。仇討ちです」
「そうですね。私に異論はありません」
周りを見回すとみんなが頷く。
「じゃ、仇討ちはやるというみなさんの意見ですね」と、佐田。
「仇討ちは柴田翔に対してですね」田口がちょっと不満そうに言う。
「田口さんのお父さんと佐田博士の娘さんは息子の健治に騙されたということがあって、憎しみは計り知れませんが、親がいなくなったら息子は自ずから滅んでゆくだろうと思いますよ。その方が健治を辛い目に合わせられるんじゃないでしょうか。それに詐欺罪で逮捕され刑務所暮らしになるでしょうし、ここは翔一人をターゲットにすることで良いんじゃないでしょうか?」
「中原博士の言う通りかもしれない。恨みがあるから何人も殺すんじゃ奴らと一緒だ」
佐田はそう言って中原博士の意見に賛成した。
それならと田口も賛成する。
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