第25話 罠

 一心は白石が女問題で困ったと言うスナックを探した。外務省で良く行くと言う渋谷に絞ってスナックに白石の写真を持って歩いた。

その結果、そういったスナックも含め十軒ほどの店で白石を知ってるといわれ、その店内にいる女の写真を撮りまくった。数馬と一助にも手分けして一週間で五十人ほど撮った写真を白石に見せどの女か訊いた。

しかし白石はかぶりをふる。

「はぁそう上手くはいかないか……また来るわ」

一心は言ってもう一週間写真を撮り続けた。

そしてまた白石を呼び出して写真を見せる。

今回もダメのようだ。

それから三週間写真を撮りまくり、やっと白石が頷く女を見つけた。

「その女と親しくなってホテルの部屋に入った途端、見知らぬ男が怒鳴り込んできて金で決着つけることになったんだ」と白石。

「はぁそれって美人局じゃないか。あんた嵌められたんだよ女に」

「そう、柴田議員にもそう言われた」

「はぁそれで柴田議員が男と話をつけたんだな? なんぼか金を渡したのかな?」

「いや、金は渡してないと言ってた」

「なるほどな、それで恩義を感じたって訳か……」

嵌めた女は、丸い顔の小柄でちょっと化粧の濃い感じだった。

美紗に渋谷を中心に監視カメラの映像の中にその女がいないかを探させた。

四日目だった。なんと浅草の警察署の玄関前にある監視カメラにその女が写っていた。署の前の信号を渡り神社の通りを歩いて行った。午後二時の事だ。

映像を続けて見ていると五時過ぎに派手なミニ履いてキラキラ光るバッグを持って何処かへ行った。

その姿から夜の仕事をしているのだろうと当たりをつけて、一心は浅草署の丘頭警部に話をして神社の見える三階の会議室を借りた。

「あぁ丁度良かった。中野向と佐田恵子さんとの会話を大学の同級生とカフェの店員が聞いてて、百万円は健治からの慰謝料だと中野向が言ったそうよ。それで任意で車と自宅を調べさせてもらったら、車のトランクから被害者の髪の毛が、自宅の風呂場の排水口からも被害者の髪の毛と隅田川の成分が見つかった。

薬で眠らせた被害者に、SMプレイで使う柔らかい素材の手錠を後ろ手に掛けて風呂場に寝かせておき、目が醒めたところで予め隅田川の水を入れて置いた洗面器で溺れさせたという事みたい。その後はトランクに乗せて川にドボンだって自供したわ。ただ、健治の方は難しい、証拠が何も無いの、逮捕しても中野向に忖度したって言われたらどうしようもないわ」丘頭警部が少し不満げに言った。

「そっか、でも恵子さんは自殺じゃない、中野向に殺害されたことは間違いないんだな」

「えぇそうよ」

「わかった。佐田博士に伝えとく」

 

 翌日の午後五時過ぎ、昨日と同じような派手なミニ履いてキラキラ光るバッグを持って女が現れた。

一心が尾ける。

浅草寺を過ぎて銀座線の浅草駅を目指しているようだ。

 ――行先は渋谷だな……どこで声をかけるかだ。いや、しばらくは様子見だ……

女は問題のスナックの目と鼻の先のスナックに入った。

「おはよう」と声が聞こえたからここで働いているんだろう。

一心はその入口の見える場所に潜みいつでも写真を撮れるよう準備だけしておく。

そして数馬に九時になったら交代するように連絡を入れた。

店に入る客の顔写真を撮った。

翌日は午後七時、店に入ってみる。やはり九時には数馬と交代する。

二日間で溜めた写真を白石のもとへ。

怯えてたのでてよく分からないがと言いながらもひとりの男を指さした。

その男は店内でその女と親しそうに喋っていた奴だった。

そして数馬に女を、一心が男を尾行して住まいと名前を調べる。

 

 一週間後、一心はその男女がいることを確認した上で静を連れてその店に入った。

その女は駒形麗莉(こまがた・れいり)という三十過ぎの厚化粧の女だ。小柄で酔ってたら美形に見えるのかもしれない顔立ちだ。

男の方は、兵頭金光(ひょうどう・かねみつ)といって麗莉と同じような歳だろう。見るからにチンピラって感じだ。

ボックスに座ってふたりを呼んだ。

麗莉は従業員だから素直に座ったが、兵頭は客の自分がなんで呼びつけられたのか不満この上ないのだろう。

「おまえら俺に何の用事よ!」

端から尖っている。座っていきなり煙草を加えたその瞬間、静の右手が微かに動いた。

ピシッと音がして男の唇から煙草が消えた?

不思議がり足下を探すが見当たらない。

「あっちにおます」静が右奥の壁を指差す。壁にもはや煙草とは言えない姿でべたっと貼り付いている。

「何っ!」男が自分の煙草か近くまで確認しに行って驚きの声をあげて席に戻る。

「大人しく話をしてくれたら何もしないから」

一心がそう言って写真を一枚テーブルに置く。

「このひと知ってるしょ?」

ふたりともキョトンとした顔をする。

「半年前くらいに、麗莉さん! あなたこの男性とホテルへ行った。そして部屋に入るとすぐに、兵頭さん!あんたが部屋に入った。その時にあんたホテルの従業員を随分と脅したそうじゃないですか、怖くて今でも忘れられないと涙目で言ってますよ」

「知らん。こんな男見たこと無い」兵頭が言った瞬間、兵頭の前髪がパラパラとテーブルに落ちた。

はっとした兵頭が静に視線を走らせ、慌てて下を向いて「すみません」と謝った。

静の目はいつものボクサーのそれになっていたのだった。

一心も怖いから見てはいないがチンピラが怖がるのだから間違いない。

「じゃ、端から話してもらおうか。そもそも何故この男だったのか? からな」

兵頭はとつとつと事情を話し出した。

掻い摘んで言うとこうだ……

ある日ふたりがここで飲んでいたら中年のおっさんが声をかけてきた。

ボックスに呼ばれ、座るといきなり五十万をテーブルに載せた。

ある男に美人局を仕掛けてくれ、という単純な内容だ。

一心がスマホに撮ってあった、中年男の写真を見せると「そうそうこの人よ」麗莉が言った。

五十万は山分けしたと言う。

「ありがとう、話してくれて。この先警察に同じ事追及されるかもだから、正直に話してね」

一心が言うと「何っ!」と立ち上がろうとしたが、静が目に入ってすごすごと元の位置へ。

「何、今の話、きっちりと録画したから大したことは訊かれないよ。逮捕はされてもね」

一心は静と気持よく店を出た。

 

 翌日、白石にその録画を見せた。

「分かったか? 柴田翔があんたを都合のいいように動かすために美人局を仕組んだってことさ」

すべてを見た後

「僕、広島に恋人いて結婚しようと思ってたんです。でも、柴田議員から留市龍生くんの殺害を頼まれて、恩義を感じていて嫌だとは言えず殺ってしまった。……警察へ行って全部話します。そして省を首になって刑期終えたら彼女に結婚申し込んで、もしも受けてくれたら彼女の実家の学生塾で英語でも教えます。留市さんの遺族の方に本当に身勝手な理由で殺してしまった事、申し訳ありませんでしたと伝えてもらえませんか? 出所したら真っ先にお墓へお参りには行きたいと思うのですが、しばらく行けないと思うので……」

「あぁ話しておくよ。一番悪いのは柴田翔だ。これから何故柴田が龍生を殺そうとしたのか調べるんだ。分かったら務所へでも知らせに行くよ」

「はい、お願いします。それは僕も知りたい」

 

 

 岡引探偵から話を聞いた留市かなめはおいおい泣いた。

何度も探偵にお礼を言って、柴田への追求もよろしくお願いします、と頭を下げた。

 その夜、かなめはみんなで夕食を取った後、探偵から報告された龍生の自殺の真相を話した。

田口は一緒に泣いてくれた。みんなから良かったね、と言われた。それぞれ未解決事件の被害者を抱えているのに優しいなぁと思う。

佐田博士に、「私、柴田翔に復讐したい。殺してやりたいくらい憎い。協力は要らないけど<かぶと虫>を一機貸して欲しい」と頼んだ。

「待てよ、まだはっきりしてないし、留市さん、あなただけが恨んでいる訳じゃない。分かってるでしょう? みんなが抱える事件の背後には必ず柴田翔がいる。それが何故かは分からないけど事実だと思う。どうしてもと言うなら、わたしも手伝う」

佐田博士がはっきりと言い切った。

続いて中原博士も、田口までもが一緒に殺ると言う。

かなめは戸惑った。みんなを殺人者には出来ない、自分一人だけなら研究は続けられる。

ここはどうしても一人でやらねば……。

 

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