第20話 襲撃
一心が中原隼の殺害犯のふたり地温悟と杉藤悠真を車に乗せて都道四六二号線を北上、田原町を過ぎた頃ワンボックス二台に前後を挟まれ強引に停止させられた。
浅草署の丘頭警部に緊急を知らせる。
如何にも悪人という輩が八名周りを囲んだ。
「誰だっ! 何故襲う!」
一心が怒鳴っても誰一人何も言わずに平然とナイフを構える。かなり慣れてる奴らだ。
端から殺す気のようだ。
「静! 手加減するな、刺されるぞっ!」
「へい」すでに静の目はボクサー色に染まっている。着物の裾を端折ってファイティングポーズを取る。
静がそんな恰好をするのは珍しい、相手の強さが分かるのか?
じりじりと間を詰めてくる。
バタンとふたりが音をたて外へ出てきた。
「危ないから引っ込んでろ!」一心が叫ぶ。
「ふたりより四人の方が戦いやすいだろう、ふふふ」以外に度胸の有る地温だ。
杉藤もいつの間にかナイフを手にしている。
静がすすーっと前に出た。
一心がやばいと思った時にはすでに三人の男が静に刃を向けて突っ込む。
斬りつけるのではなく刺しに行ってる。
すばやい動きで刃先をかわしながら手首を叩いてゆく、しかし手練れた奴らはナイフを落とさない。
姿勢を直して再度突っ込む。
静の額に汗がにじんでいる。
このままでは静がや殺られると思ったら身体が勝手に男達の中へ突っ込んでいった。
「うわーっ!」叫びながら手に持っていたバッグを振り回す。
複数の刃が一心の服と皮膚を切り裂いてゆく。
一心の相手はふたりだ。ノルマ達成だなんて思ってる暇はない。
応戦する地温と杉藤もあっという間に服は破れ顔と手には早くも血が筋を作っている。
一心は走った。敵を引きつれて地温らをも巻き込んで車の周りを走った。
こうすれば時間が稼げるし、敵が刺すチャンスが少なくなる。
地温を刺そうとする奴の後ろから罵声を浴びせて殴りかかる。
端から倒せるとも思っていない、時間を稼いでパトカーを待っているのだ。
静がひとり倒した。顔面にパンチがヒットしたのだ。
静と一心が地温と杉藤を庇う態勢になった。
男が三人一心に向かって刃を向けて突っ込んできた。バッグで刃を叩き、屈んで足を引っ掛けふたり転んだが、一人が地温にまともにぶつかった。
ずぶっと音が聞こえた。
「地温!」叫んで一心は男の顔にバッグを投げつけ同時に体当たりで男を転がす。
男は車へ走って逃げる。
それを見た他の奴らも逃げる。
その時になってパトカーが何台もサイレンを鳴らして姿を見せた。
ワンボックスは反対方向へ急発進して逃げる。
数台のパトカーがあとを追った。
「地温、大丈夫か?」一心が声をかけて刺されたところをみると真っ赤な血がどくどくと溢れてくる。
手で傷口をがっちり押さえる。
「杉藤! 手伝え!」叫んで杉藤に車からタオルを出させ傷を押さえる。
刃先が何センチあるのか分からないが、見えてる刃は二センチもない。かなり深そうな傷だ。
程無く救急車が来て運んで行った。警官がふたりついて行った。
「杉藤、お前大丈夫か?」
「あぁかすり傷だ」とは言ってるがぽたぽたと血がどこからか滴っている。
「静は大丈夫か?」叫んだ。
「へぇまた帯に助けられましたわ」
静の帯にナイフが刺さったままになっている。
「お前腹刺されてる。おーい、救急車呼んで」叫ぶと、すでにもう二台救急車が停まっていた。
静と一心を隊員が抱えて乗せようとする。
「えっ俺は大丈夫だぞ」
「何言ってんの、あんた血だらけだぞ、背中切られてる」と杉藤。
自分じゃ見えないから分からなかったがばっさりやられていたようだった。
それを聞いて、ショックで意識が消えた。
気が付いたら静の顔があった。
「どうです? 痛むんやろか?」
「いや、今は大したこと無い」
「傷は浅かったんでほんま良かったわぁ」そう言う静の目には薄っすら涙が見えていた。
「そう言えば地温は? 杉藤は?」
「地温はん、亡くなりはって……杉藤はんは元気で桃子警部はんに色々話しとります」
「そっかぁ、俺がなぁもうちっと強かったらなぁ。くっそー」
「せやかてしょうがおまへんやろ。相手はプロちゃいますか? あてのパンチ受けても平然としていた。でもな、ふたり伸びて捕まって事情聴かれてますわ。それに車の番号もわかってるようやし、八人捕まるんちゃうかな」
「そうか、それは良かった。で、お前の腹は?」
「ふふふ、またバンソコぺたって貼って終わりどす」
「済まなかったな。ふたりを自分の車で警察へ行こうとさえしなければ、地温を死なせずに済んだのにな」
「そやないです。きっとアパートに押しかけてきたちゃうかな? きっと殺せいう指示が出てたんだと思うんどす。せやから、気にせんときやす」そう言って笑う静は綺麗だ。
丘頭警部が見舞いに来てくれた。
「一心どう? 痛い? 無理し過ぎよ」
予想通り怒られた。
「でもさ、あんたらのお陰で杉藤を逮捕出来たし、事件の黒幕の柴田翔についてべらべら訊きもしないのに喋ってくれて、証拠も万一の時の為に隠してあるってさ、余程命狙われて頭にきたのねぇ。それにあんたらが命かけて守ろうとしてくれたことに感動したらしいわよ。礼言っといてってさ。で、静はバンソコ?」
「へぇお陰さんで、それで済みましたわ」
「静の帯は防刃帯だから、今度、防弾帯買ってやらんとな」
一心がそう冗談を言って笑うと、静は「おおきに、じゃこれから選びに行きまっさ、桃子はんもたまに一緒に行かへんかいな?」
「いや、私は着物着たこと無いし、見ても分かんないもの。美紗でも連れて行った方が良いわよ」
「さよか……じゃそないにしよかいな。ふふふ」
静はそう言って嬉しそうにさっさと帰って行った。
あっけに取られている一心に「杉藤が、警察が自殺だと言った根拠になった隼の寝室のトリックも吐いたわ」と警部が言うので「氷か?」と一心。
「あら、気が付いてたの。なぁんだ、あっと言わせたかったのに」ちょっと残念そうな顔をする警部。
「ドアに氷挟んどきゃ密室でも何でもないからな。だからあんとき床濡れてないかって聞いたんだ。濡れて無かったら紐付きの何かで閉まらないようにした、と思ってたんだ」
「ふーん、流石ね」感心する警部。
「そう言えば静に叩きのめされて捕まったふたりの男が言ってたわ、あの女何者だって。だから言ってやったの、プロボクサーよって、ははは、そしたら先に言えやなぁ、そしたらほかの奴だけ狙ったのに、だってさ」
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