第17話 預金口座

 庵の放火事件の翌日だった。

留市から聞いてきたと言って田口裕子という佐田研究所で操縦士をしている女性が事務所に来た。

中原博士の息子隼の自殺事件の時に博士から聞いた名前だった。

どうやら話の内容は、親が詐欺にあったので犯人を捕まえることと取られた金を取り返して欲しいということのようだ。

ここにもまた柴田翔と息子の健治の名前が出てきた。

柴田親子と佐田研究所との間に何か有るんじゃないかと思うが、当人たちは仕事と柴田親子とはまったく関係ないと言う。

 

 一心は先ず父親が振込んだ千九百万円の行方を追うことにした。

資金は複数の名義の口座を通して目的の口座へ入金となるのが通常の詐欺犯の考えることだ。

なので、投資会社の謄本をハッキングして役員を掴み、住民謄本から家族も拾う。そしてその各役員が登記されている会社を掴む。次にその会社の謄本をハッキングして……この流を行きつくまで繰返す。

そして個人と法人を特定するのだ。

美紗らハッカーにとってお役所や金融機関をハッキングするのはそんなに難しい事じゃないと言う。なんてたってファイアウォールやセキュリティソフトを構築する側の人物がハッカー仲間にいるのだから……マル秘だが……。

今回はさらに柴田翔の関係者なので柴田翔が役員となっている会社も調査する。

それで対象先が固まる。

次のステップは金の流れだ。

その対象先と、数百ある金融機関にハッキングして口座の有無を調べて行く。大変な作業だなと素人の一心なんかは思うのだが、「システムの中に両方の一覧表を作ってしまえば、後はコンピューターが処理してくれるので半日もかからない」美紗は自慢気に言うのだ。

それらが固まったら、田口裕子の父さん田口勇三(たぐち・ゆうぞう)から振込まれた口座を探す。

それは必ずある。無ければ振込は成立しない。

その後、振込との連動出金、または為替電文上の振込人名がカタカナの口座名義人のものを探す。

金額は百万円以上と設定した。多少の抜けはあっても主な先さえ押さえれば後は警察が追ってくれる。

 

 このハッキング部分を警察がやろうとしたら、いちいち理由を明記した署長印付きの依頼書を作って一軒一軒紙ベースで郵送又は手交するかなので数カ月、否、数年かかるかも知れない。

一心は詐欺の被害額を取戻せないのはその追い方に問題があるからだと思っている。

ただ今回は美紗と静は別件で手が離せないので、美紗のハッカー仲間に手を借りることになった。

当然バイト代を出すので余分な経費だが仕方がない。

基本的にハッキングは違法行為なので協力者の名前は勿論、その存在自体を警察には一応内緒である。

 

 ひと月ほどでハッカー力が示されることになるだろう、とその人物は言う。

 

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