第10話 詐欺
田口裕子のもとに母親から電話が入った。
「父さん騙されちゃって、裕子に残そうと思ってたお金無くしちゃった……」
いきなり半泣きの母親の声に驚いて訊いた。
「どうしたの。誰に騙されたっていうのよ」
「それがさ、鎌倉の和菓子組合の組合長が会合のときに投資会社の社員連れてきて、これからは投資の時代だって、二年前の話なのよ」
「そんな昔の話なの?」
裕子は何か拍子抜けする。
「いやぁ、ここからよ、その時に組合長が一口百万円出したっていうのよ。で、三カ月ごとに幾何かの配当もあってさ、今回また一口追加したって言ってさ、皆さんもどうですかって言ったのが一年前」
「で、父さんも投資したんだ」
「そうなのよ。でもね、そこまでは良かったの。その分は配当もあって父さんも喜んでたのよ」
「なら、良かったじゃない」
「違うのよ、話はここからなの」
「母さん、随分本題まで長いわ」いつもの母の癖が出た。本題を話し始めるまでが長すぎる。
「うるさい子ね。ちょっと聞きなさいよ。で、三カ月前にまたまた投資会社の人が来て追加どうですかって」
「で、父さん追加した?」
「そうなの、母さんは止めなって言ったのよ。でも、裕子に沢山残すためだって言って、いくら追加したと思う?」
「分かんないわよそんな。五百万とか?」
「一千九百万よ」
「えーっ、そんな大金持ってたんだ」
裕子は聞いたことのない親の財産にびっくりした。
「何、そっちに驚くか、この子は」
「投資って、株とか?」
「いや違うわよ。柴田財務副大臣が主導する北海道の海岸線に構築する国営の風力発電事業への投資だと言ってさ、パンフレットとか詳細な事業計画書を示して説明されたのよ」
「へー、で、何? 持ち逃げでもされた?」
「持ち逃げどころか、連絡もつかなくなったし、配当金もありゃしない。組合長に言っても連絡つかないって言うし……ほかの組合の人もみんな……結局詐欺だってことになって警察へ届けることになって」
「他の人もみんなそんな大金やられたの?」
「いやぁ、大抵の組合員さんは一口だから百万円」
「はーなんでまた父さんそんなにも……」
「だから言ったでしょう。あんたに残すためだったって」
「はぁでも母さんたちは生きていけるんでしょ?」
「そりゃそうだけど、母さん腹立ってさ父さんを怒鳴りつけてやったのさ」
「ほー素直にあの頑固爺さん謝った?」
「それがさ、土下座までして済まんって泣かれてさ、それ以上言えなくなっちゃって」
「はぁそれで私にぶつけてきたんだ」
「わかる。だって合計二千万円よ」
「相手は?」
「引地アセットマネジメント(株)とかいって社長は引地なんとかって……」
「えっ、引地慎吾じゃない?」
「そうそう、慎吾。でもどうして知ってるの? 彼氏?」
「なに寝ぼけたこと言ってんの。こっちでも知人がその社長がやってる建設会社と揉めてんのよ。でもよくそんな聞いたこともない会社の言うこと聞いたわね」
「それがさ、その役員に柴田健治っていう財務副大臣の息子がいるんだって謄本の写しを見せられて、国会議員の息子がやってるなら大丈夫だろうと思ってしまったみたいなのよ」
「ふーん、ならその息子と交渉したらわ?」
「そう、でも警察が言うには仮に犯人を逮捕しても投資金額全部を取戻すのは難しいでしょうねって言われてがっくりよ」
「いいわよ。あんまり父さん責めないで、私は私でしっかり稼いでるから心配しないで。少しでもお金戻ったらふたりで温泉旅行にでも行っておいでよ」
「あら、嬉しい事言ってくれるねぇ、さすが私の娘ね」
「父さんの娘でもあるけどね。ははは」
「ふふふ、そうね。ありがとう、なんかそう言って貰って少し落ち着いたわ」
「父さんに言っといて、もう儲けようなんて思わないでって」
「えぇ言うまでもなく、自分からそう言ってたわ」
「ふたりとも身体の調子は良いんでしょ?」
「えぇ相変わらず店開けてるわよ」 裕子は両親のお金を盗られたのは腹立たしいが、取り敢えず元気でいてくれたらそれで良いと思っていた。
……だけど、金額が大きくてチョット悔しい。
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