第2話 日常
外套を被って歩いていると何処からか聞こえてくる悲鳴、罵声、銃声など、今日もスラム街には色んな音が響いている。
それは決していい音とは言えないが俺にとってはこれは普通の日常である。
俺は物心ついた時からこのスラム街で過ごしていた。
自分の両親など全く知らなく、誕生日や年齢などなんなら自分の名前すらも分からないのがこの俺だ。
俺がこのスラム街で生きてきて多分10年位になるかと思うが、この場所は何も変わらない。
この狭い空間には人を殴って優越に浸っている者や人を脅して金を貪る者、中にはヤバい薬でもしたのか突然奇声を上げる者など色んな人が存在している。
俺は基本的には他人と関わらない人間ではあるが、それでも10年くらいも住んでいればこのスラム街でも顔見知りは出来る。
ただ、そうゆう奴も突然姿が見なくなったりするけど。
(その顔見知りの奴らからは俺のことをノーネームというやつが多い)
確かに顔見知りはいるが先程言った通り俺は基本的に他人とは関わらないようにしている。
これは俺にも言えた事だが、人というのは自分が一番であり、自分に少しでも不利益が生じそうになれば全力で他人を害する事ができるからだ。
そんな中、他人と深い関わりを持ってしまっては日々その日暮らしの俺にとっては余りにも致命的な出来事が起こる事は想像に容易くない。
俺はその事をこのスラム街で学んだ。
ここには人を食い物にしか思ってない奴も大勢いるからな。
それ自体は俺は別に悪い事ではないと思っている。
それが一番効率的なら躊躇せずに行うのが人の本質だとも思っている為だ。
しかし、だからこそ、この世界はなんて醜いものなんだろうなと不意に思う事がある。
確かに俺はこのスラム街から出た事はないが外の世界も大してここと変わらないものだと思っている。
俺より年が上に見える連中が他人を食い物にしたり、傷つけたり、陥れたりしている所を日常的に見てきたからだ。
その事に何か感じるかと言われれば否と答えるが、何故か不意にこの世界は醜いなと感じてしまう事がある。
一体何故だろうか?
まぁ、日々その日暮らしの俺がそんな事を思う事自体おかしな話だけど。
じゃあ、今日も食い物を探しにいくしますかね。
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