代償代行人、美しき世界を知る

アイア

第1話 プロローグ

これはある一人の物語


孤児としてスラムで生きてきた【その人】は人の闇を知り尽くしていた。


貧困、暴力、裏切り、保身などが日常茶飯事のその世界で【その人】は幼いながらも世界とはなんて醜いものなのだと悟っていた。


人は自分の身が可愛くて、平気で他者を陥れるものだと思っていた。

自分はまだ小さく、他者と関わりを持っていないがいつかはあんな風になるのかと思っていた。


【その人】の目に映るもの全てが灰色に染まっていた。


ある時、1人の少年が瀕死の状態で路上に倒れていた。

その少年は全身見るにも耐えない程の傷を負っており、今にも天に召される状態であった。


【その人】はいつもの事かと、その場をさろうとした。

スラムでは、こんな日常は当たり前のことだった。


あー、あの少年ももう直ぐ死ぬのかな、運がなかったな、とそんな事を思いながらその少年の横を通り過ぎて歩いていくと、突如後ろの方から泣き叫ぶ声が聞こえてきた。


泣き叫ぶ声が聞こえるのは日常茶飯事はこの場所いつもだったら気にも留めない【その人】は先程の少年の事と声の場所が近かった為、何となく後ろを振り向いてみた。


するとそこには、少年より少し小さい女の子が涙を流しながら、血で濡れている少年の手を取り、かみさまかみさまどうかお兄ちゃんを救ってください‼︎と泣きながらそう叫ぶ少女の姿が。


【その人】にとってその光景は余りにも不可解な出来事だった。

何故なら、他者の事を思って泣いている人など見た事がなかったのだから。

人は自分だけが可愛いのではないのかと思っていた【その人】にとって、その行動は理解できるものではなかった。


しかし、何故か【その人】は泣き叫ぶ少女の事に目が離せなくなっていた。


今まで灰色しか映してこなかったその目は初めて灰色以外の色をしていたのだから。

しかもそれはとても綺麗な色をしていたのだから。


灰色以外の色を見た事がなかった【その人】はその光景に困惑していると突如頭に女性の声が聞こえてくるではないか。

『貴方は〈代償〉と言う能力を持っております。』

『貴方はその能力で今倒れている少年を救う事が出来ます。

しかし、助けるには少女から何かしらの〈代償〉を頂けねばいけません。』

『貴方はその能力を使用しますか?』


女性の声がそう問い掛けると【その人】はその問いかけに答えないまま、少女に向かって歩き出す。


いつもだったら他者の事などに一切関与しない自分が何故少女に向かって歩いているのかと【その人】は疑問に思いながらも、しかし何故自分は色鮮やかな光景を見る事が出来ているんだとそちらの方が疑問の方が勝る為、それを解決するにはあの少女が手掛かりになるのではと思い歩み寄る。


そして、その少女の近くまで歩くと【その人】は立ち止まり、少女に向かってこう言った。


【】

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