最終回 冒険はここから始まる

 無事に街を守ることに成功してから、1週間が過ぎた。


 死傷者なし、負傷者54名、街の損害も少なく、この功績はティルミナ聖教にあり、街の領主は報酬金を出した。


 だが報酬金は受け取らず、冒険者たちに分けてほしいと提案し、防衛に参加した全冒険者たちに配られ、街は大きく賑わった。



「ご苦労だったね、レインくん。聖女様も褒めてくださっていたよ」


「はぁ、そうですか」


「嬉しくないのかな?」



 目が覚めれば、すべてが終わっていた。

 ティルミナ聖教は街から去り、すでに街の復興活動が始まっており、レインはただ治療にいそしむ。


 そう、全てが終わっていたんだ。


 そして、治療が終わり、無事に外出できるようになると、フールギルド長からの呼び出しの連絡が来た。


 といった経緯があり、現在、ギルド長の部屋で対面しているのだ。



「あと少しすれば、ルミナ様の作戦、そして誰が街を救ったのか、その真実を私の口から宣伝するつもりだ。そうなれば、レインくんの夢は一気に近づく。これほど心躍ることはないと思うのだが…………」


「そのことですが、今回の一件の真実は公表しないでほしい」


「ほほ、それはどうして?」



 今回の一件、それはすべてルミナが仕組んだことだ。だが、それを公にしたところで誰も信じない。


 俺もギルド長も街の冒険者も全員、ルミナの掌の上で踊っていただけだ。

 それにこんな汚名でレインは兄さんの背中に近づきたくない。



「俺は冒険者だ。チャンスは自分で見つけて、自分でつかむ。その信念を貫こうかと思っただけです」


「…………ふふ、あはははははははははははっ!レインくん、君の真っ直ぐな心は本当にアルニーにそっくりだ」



 笑いに笑うフールギルド長は笑い終えた後、ゆっくりと立ち上がった。



「レインくんの言う通り、チャンスは自分で見つけて、自分でつかむ、実に冒険者らしい。だが、チャンスを自分でも見つけるのは難しいことだ。もしかしたら、今後、このような業績を積むことはできないかもしれない。それでも、公にしないと?」


「はい!!」


「そうか、ならレインくんの意見を尊重しよう。なにせ、この街を救った英雄なのだから」



 こうして、フールギルド長との話し合いは終わり。報酬金としたここ1年は安泰して暮らせるほどの金貨を貰った。


 その後、冒険者ギルドに訪れると、ダンク、ナル、そしてテラが机を囲って談笑をしていた。



「お、あんちゃん、じゃねぇか!!」


「生きててよかった」


「お前らも無事でよかった」


「レイン、座って」



 テラがポンポンっと隣に誘ってくるので、レインは普通に座った。



「それで3人は何を話してたんだ?」


「実はよう、あんちゃんに頼みがあってな」


「頼み?ダンクが?冗談だろ?」



 冗談で笑い飛ばすもダンクとナルは真剣な表情だった。



「冗談ならそもそも、テラちゃんと話してねぇよ、なぁ、ナルちゃん」


「頼みっていうのは」


「無視かよ!!」


「黙ってて!それで頼みっていうのは、とある遺跡の探索に同行してほしいの」


「とある遺跡?」


「ディテール遺跡だ。この街から西に二つほどの街を超えた先にあるんだ」



 ディテール遺跡、その遺跡をレインは知っている。

 目新しい遺跡で今だに探索が終わっておらず、定期的に依頼をしている遺跡だ。



「俺たちはもともとディテール遺跡の探索が目的でな。だが、今回の一件で二人じゃ厳しいって考えたわけだ。そこで、信頼できる友として、二人を誘いたいって腹だ」


「なるほどな…………」



 ディテール遺跡の探索、興味はあるが。


 チラッとテラを見ると、かわいい笑顔で微笑んだ。



「まあ、無理強いはしない。ディテール遺跡はネスタ遺跡よりも高レベルの魔物がいる。それに、ネスタ遺跡のようにイレギュラーのことが起きてもおかしくない」


「いや、ちょうど街を出ようと思ってたし、よし!ディテール遺跡の探索の同行、引き受けよう」


「いいのか?」


「ああ、それに冒険者なら冒険しないといけないし、それにそろそろ刺激が欲しいと思ってたところなんだ」



 俺はまだ忘れてはいない。

 ルミナを殺す、ゲニーの行方を調べることを。

 でも、俺にはそれ以上に目標がある。怒りに身を任せ、目標を見失うなんてもってのほかだ。


 それに冒険をしていれば、また会うかもしれない。


 その時に殺せばいい。



「ありがとう、レイン。それじゃあ、出発は二日後を予定しているが、大丈夫か?」


「問題ない」



 こうして、俺とテラはダンク、ナルと共にディテール遺跡に向かうことになった。


 そして二人と別れた後、俺とテラは宿に戻り、二人っきりとなった。



「よかったの?」


「ディテール遺跡の探索か?いいんだよ、本当に街を出ようと思ってたし、いい機会だ」


「レインがいいならいいけど」



 前々から街を出ようとは思っていた。

 兄さんは世界各地を回って、知らないものをたくさん見て、触って、いろんなことを経験しては1年に一度、帰ってきて俺に聞かせてくれた。


 そんな兄さんが触れた世界を知りたいと思うのは必然で、そういったところもまた俺が憧れる理由の一つだ。



「そういえば、言ってなかったな。アルファとの戦いのときは助かった、ありがとう」


「約束したから、死なせないって」


「そうだったな…………」



 テラには言うべきだろうか。

 ファブニールとの契約のことを。


 目を覚ました時、左手の甲に竜の文様が刻まれていた。

 そこかれはたしかにファブニールの魔力が感じられ、おそらく、契約の証なのだろう。


 パーティーメンバーとしてできる限り隠し事はしたくない。でも、果たして伝えるべきなのか。



「私、レインに出会えてよかった」


「…………俺もだ」



 やめておこう、そう思った。

 テラには余計な心配をしてほしくないし、それになんとなくだけど、テラは俺のためなら命すら簡単に投げうってしまいそうな気がする。



「そろそろいい時間だし、ご飯でも食べに行くか。お金もあるし、今日は奮発だ!!」


「うん!」



 こうして、レインとテラは力家でたらふく、ご飯を食べることになるのだが、そこでテラが大食いであることを思い出すもすでに頼んだ後。


 大食いする羽目になったレインは胃がはちきれそうになりながら、ご飯を食べることになったのだった。



「うぅ、テラが大食いだったことをすっかり忘れてた」



 各宿に戻り、ベットで仰向けになるレインは冒険者カードを取り出した。



「確認は大事だよな」



名前;レイン・クラフト

二つ星冒険者

レベル:26

スキル:なし

魔法:強化魔法9

契約:ファブニール

・ステータス

 力:434

 魔力566(契約補正+1000)

 素早さ455

 器用さ201

 賢さ:604



 見事に???の部分が埋まり、ステータスは大幅に上昇していた。



「レベル26か、レベルだけみればもう三つ星冒険者だな」



 遺跡の探索の後、昇格試験を受けるのも悪くないかもしれない。



「兄さんの背中はまだまだ遠いけど、少しだけ近づけた。これからだ、これから、もっと強くなって、いつか、その背中を追い越して見せる」



 心の中では絶対に届かないとわかっていた背中が初めて、届くかもしれないと思った瞬間。


 レインにとって、それはどんなことよりも飛び跳ねたいぐらいの喜びだ。



「兄さん、待ってて。絶対に…………」



□■□



 2日後。



「そんじゃあいくか!リーダー!!」


「ダンク、それは何の冗談だ」


「冗談?このパーティーのリーダーはあんちゃんだろうが」


「え、ダンクたちが誘ってきたんだから、二人のどっちかがリーダーやれよ」


「だとよ、ナルちゃん」



 そう言うとナルが口を開く。



「パーティーのリーダーというのはもっともパーティーの生存率を高めることができ、頭が回る者がやるべき。そして、私たちはレインこそ相応しいと思った」


「つまり、俺にリーダーをやれ」


「…………端的に言えば、そういうこと」


「いいじゃねぇか、俺たち、ネスタ遺跡で協力した友。今度はディテール遺跡になっただけじゃねぇか」


「ダンク、パーティーリーダーていうのは責任が重いんだぞ。俺の判断一つ、もしかしてら、全滅する可能性だってあるんだ」


「でも、俺たちはネスタ遺跡で生き残ったぜ。そのおかげは間違いなくあんちゃんがいたからだ」



 二人は俺をリーダーにしたいのか、建前を並べる。



「はぁ…………わかったよ」


「よし、じゃあ決まりだな」


「ありがとう、レイン」


「ただ俺がリーダーなんだから、俺の指示に従ってもらうからな」


「わかってるって、あんちゃん」



 こうして、4人パーティーとなり、俺たちはディテール遺跡を目指す。

 その光景はまさにレインが想像した冒険者の形。



「これから始まる、私たちの冒険が」


「テラ…………」


「楽しみだね」


「そうだな。すごく楽しみだ」



 ワクワクする心を胸に俺たちは歩き出した。

 こうして、レインの冒険、その一幕ひとまくを下ろしたのだった。



――――――――

あとがき



ここまで読んで下さり本当にありがとうございました。


皆さんが一人一人が読んでくれたおかげでここまで書くことができ、満足でいっぱいです。


あらためて、本当にありがとうございました。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

強化魔法しか使えない冒険者が親友たちが率いるパーティーに追放された後 柊オレオン @Megumen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ