第35話 ルミナ・アルテは運命の人を探しています
すべてを出し切ったレインはそのまま倒れそうになる。そんなところをテラは肩を貸して、支えた。
「大丈夫?」
「ああ、何とかな」
もはや、指一本すら動かせない。
「しかし、まあ、助かった、テラ。おかげで、聖騎士アルファを殺せた」
「無理してはダメ。レインの体、相当ひどい。早く回復魔法が使える魔法使いに見せないと」
聖騎士アルファを殺すことができた。
だが、問題はたくさん残っている。ゲニーの行方、そしてすべての元凶、ルミナ、俺とファブニールが交わした契約。
「心配しすぎだ」
「でも…………約束したから、レインは死なせないって」
「頼もしいな。さすが六つ星冒険者だ」
「笑う状況じゃない」
「テラ、俺たちは勝ったんだ。勝者は笑わないと、損するぞ」
俺は精一杯の笑顔を見せた。
「勝者ってルミナを殺せてないのに?」
「…………やっぱり、テラは気づいてたか」
「私は最初っから怪しいと思ってたよ。まあ、油断してあのアルファに気絶させられたけど」
たしかに、テラはルミナと会ってからずっと警戒していた。
もしかして、俺って見る目がない?
「とにかく、早く街に戻ろ」
「そうだな」
全てルミナが仕組んだことを俺たちは知った。
おそらく、俺たちが街に戻ったころにはもういないだろう。
テラの肩を借りて、街へと向かう俺たち、森を抜けた先には、戦った跡があり、街があった。
「なんとか、戻れた、これで治療が受けれるってレイン?」
そこで、レインの意識は途切れたのだった。
□■□
ルミナ・アルテは聖女である。
ティルミナ聖教の教皇に育てられた一人でそれはもう大切に育てられた。
そして、教えられた。
神、ティルミナ様は我々を守護してくださっていると。
ならば、なぜ今だに世界には魔物が蔓延っているのでしょうか?
なぜ神は、ただ守護するだけで手を差し伸べないのでしょうか?
なぜ神は、存在するのでしょうか?
ルミナにとって神とは不思議な存在で、その存在理由を知りたかった。
神に会いたい、神と話したい。ただそれを願い、教会で祈り続けた。そんな時、初めて神の声を聞いた。
ような気がした。
そう気がしただけ、本当に聞こえたのか、不確かだった。
でもルミナは感動した。
神はおられる。私たちを見てくださっている。
不確かだったがそれは現実だったと認識した。
神の言葉、その内容は。
『神の試練を乗り越えた運命を運ぶ者がそなたの前に現れる。その者こそ、そなたの運命の人である』
私の運命の人。
この時、ルミナは運命の人にこの身のすべてを
なぜ、そう決めたのか、それはただそうしようと思ったから。そこに深い理由はない。ただルミナは運命の人にの身のすべてを捧げたいのだ。
そして、その運命の人を探すためにルミナは、神の試練を課すようになる。
これは神が課した試練です、と建前を飾り、あらゆる悪逆をなした。
すべて運命の人を探し出して、すべてをささげるため。
「待っていてください。私の運命の人。必ず、見つけますから…………どんな手を使ってでも」
神の声を聞いた時、すでにルミナは狂っていた。
いや、そもそも最初っから狂っていたのかもしれない。
そんな彼女がたくさんの悪逆をしていった中で、ある日、運命の出会いを果たす。
それはとある街でお忍びで買い物をしていた時。
「ここは平和ですね…………あれが原因でしょうか」
とある方角を向くルミナ。
そこは遺跡があった場所だった。
「ここならば、神の試練にふさわしい場になるかもしれませんね。もしかして…………その中に私の、きゃあ!」
後ろから押され、手足を地面につけた。
「ご、ごめん。大丈夫か?」
「え、ええ、大丈夫ですよ」
差し伸べられた手を握り、ルミナは立ち上がる。
「ちょっと、レイン!何よそ見しているの!」
「反省してるから、怒るなよ、ライラ。あ、怪我は大丈夫?」
ルミナの心臓が強く脈打ち、高鳴った。
「あ、はい。大丈夫ですよ」
「すいません。この馬鹿が」
「誰がバカだ」
「黙って、本当にごめんなさい」
まるで親と子供だ。
だが、そんな光景にも目もくれず、ルミナは目の前の男を見た。
「そんな、謝らないでください」
「本当に、本当にごめんさい。ほら、レインも!」
「もう謝ったんだが」
「そんなお気になさらず、それでは」
ルミナは逃げるようにその場を去り、街の路地裏に潜んだ。
「なんでしょう、この気持ちは」
初めて、心臓の音を聞いた。
初めて、どうしたらいいか、わからなかった。
「まさか、あの人が運命の…………」
思わず、ルミナは彼が運命の人なのではと思った。
だが、それはありえない。
なぜなら、彼は神の試練を乗り越えていないのだから。
でも、彼の顔が、彼の声が頭から離れない。
「そうだ。彼に神の試練を課せばいい。それを乗り越えれば…………」
ルミナの心は一気に有頂天に達し、体がうずいた。
全身が痙攣し、今にもあふれ出そうになる。
「彼が運命の人になる…………たしか、レイン様って名前でしたね」
この時、始まったのだ。
レインが運命の人であるかどうかを選別する神の試練が。
□■□
神の試練が終わり、ルミナはザルド聖騎士のもとに姿を現した。
「ご苦労様でした、ザルド聖騎士」
「聖女様、まだおられたのですね」
「ティルミナ聖教の騎士が、冒険者が戦っている中、一人で逃げるわけにはいきませんから。それより、先ほど教皇様から連絡がありました」
「教皇様からですか?」
「すぐに私とともに本殿に戻りなさい、とのことです」
「わかりました。すぐに準備いたしますが、聖女様は」
こうして、ザルド聖騎士は街の防衛が終えた1日後に、街を去るための準備が始まった。
その間に街の防衛で出た被害の数を確認した。
「死傷者なし、負傷者は5名ほどです」
「そうですか、思ったより多いですね」
「不甲斐ないばかりです」
ティルミナ聖教の騎士は精鋭ぞろい、負傷者が出るだけでもティルミナ聖教の威厳を損なう可能性がある。
何より、この街はそこまで大きくなく、森の中の魔物もそこまでレベルは高くない。それを加味すれば、負傷者5人はティルミナ聖教側にとって、多いのだ。
そんな中、ルミナ様はザルド聖騎士に向かって、微笑みながら。
「ザルド聖騎士、私が前に言ったことを覚えていますか?”あなた想像したようなことは決して起こらない”と言いましたよね」
「一言一句、覚えております」
「そうですか、ではあらためて、どうでしたか?ザルド聖騎士が想像したことは起こりましたか?」
唐突のことだったがザルド聖騎士はルミナ様を見て、はっきりと口にした。
「いえ、一切、起こりませんでした」
「…………やっぱり、ザルド聖騎士、あなたは素晴らしい聖騎士です。どうですか?もしよければ、私の右腕になるつもりはありませんか?」
それは唐突なお誘いだった。
ここでもし、ザルド聖騎士が了承すれば、ルミナ派閥につくことになる。
だが、ザルド聖騎士は常に中立を保ち、どの派閥にも肩入れしなかった。
「ザルド聖騎士、あなたが私を嫌う理由はわかります。しかし、私は噓をつきません。それはあなた自身がわかっているはずですよね」
ルミナ様の言う通り、今回は最悪なことは起こらず死傷者もいなかった。ルミナ様はきっと、それがわかっていて、私のこの一件を託した。
そして、ルミナ様の目的を私は知っている。
害をなす全ての駆除、それはきっと他の聖女様も含まれているだろう。
だが、私の中で一つ気になっていることがある。ルミナ様が歩む道の結末だ。
教皇になられるのか、それとも敵によって打たれるのか、裏切りによって殺されるのか。
これほど歪んだ聖女はおらず、そんな彼女に興味が湧いているのだ。
「ザルド聖騎士、返答は?」
ルミナ様の本性は私には計り知れない。
だからなのだろう、これほど興味を惹かれるのは。
ザルド聖騎士の人生はそれほど長くはない。現役で戦えることを加味しても残り6,7年ほどだろう。
ならば一度ぐらい、好奇心に任せてもいいのではないか?
そう思ったザルド聖騎士は聖剣を掲げ、誓いを立てる。
「私は、聖騎士ザルドは、ルミナ様に我が剣をささげることを誓おう」
「ザルド聖騎士ならそう決断すると思いましたよ。これからよろしくお願いしますね」
「はぁ!!」
私は見届けたい。ルミナ様の結末を。
この時を持って、ザルド聖騎士はルミナ派閥へと加入したのだった。
「それでは、そろそろ出発しましょう」
出発の準備が整い、ルミナ様は専用の馬車に乗る。
そして、もう一人、フードを深くティルミナ聖教の騎士が聖女様の馬車に乗るため、ザルド聖騎士の隣を横切る。
「うん?」
その時、ザルド聖騎士は違和感を覚え、振り返った。
「…………あのような騎士、最初っからいただろうか」
馬車が出発し、馬車の中にはルミナ様と護衛にティルミナ聖教の騎士が一人、同席した。
互いに向き合いながら座り、ルミナはニコニコと笑う。
「もう、フードを外して構いませんよ、ベータ騎士」
「俺の名前はゲニーだ」
「いいえ、ベータ騎士です。そうでしょ?だって、ゲニー・ガンガという冒険者は死んだのですから」
「くぅ…………」
「これはあなたが選んだ選択です。これからあなたはベータというティルミナ聖教の騎士として私に仕える。そういうお約束でしょ?」
「そうだったな」
全てはうまくいっている。
レイン様は神の試練を乗り越え、ファブニールの契約者となり、聖騎士であるアルファを倒した。
これだけそろえば、もう確信できる。
レイン様こそ、運命の人。
本当なら今すぐにでも会って全てをささげたい。だけど、それは叶わない。
なぜなら、レイン様のそばには六つ星冒険者テラ・シルフィーという邪魔者が存在するからだ。
だが、構わない。これはきっと神が与えた私自身に課せられた試練。
「待っていてください、私の運命の人。必ず、向かいに行きますから」
こうして、聖女ルミナ様率いるティルミナ聖教の騎士たちは街を去ったのであった。
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