イチゴチョコアイスパフェー3

 翌日の放課後、弓道場でいつものように弓を引いていた竹史は首をひねった。部活に現れた高原がゆうとしゃべりよる。それはいつものことだった。でも、どことなく、いつもとは雰囲気が違う気がした。何が違うんやろ? 互いになんか気を遣っちょるっちゅうか、よそよそしくもあるっちゅうか。それに、今日は祐介が竹史の射にひとことも口を出してこないのも気になった。でも、なんか言ってなどと言えば、甘えんなと一蹴されるのは目に見えていた。落ち着かない気持ちで部活を終えた。



 一か月後、回収した矢を持って矢取り道を歩いていた竹史に中川が言った。


「なあなあ、小嗣こつぎ、知っちょん? ついにあいつらさあ、付き合い始めたっちよ?」


 竹史は嫌な予感がして、思わず声を上げる。


「あいつらって?」


 中川はにやりと笑って言った。


「決まっちょるやん、﨑里と高原やわあ。あのふたり、部活んときさあ、いっつも一緒にしゃべっていちゃいちゃしよったやん? 俺、利光としみつ先輩らとジュース賭けちょったもん、いつ付き合い始めるかっち。俺、今年の五月っち言っとったけん、ひとり勝ちやわあ」


 ほくほく顔の中川の後ろを竹史は呆けたように歩いた。



 祐介が高原に惹かれていっているのは、竹史にはわかっていた。相変わらず自分の鍛錬に妥協を許さず、同じ厳しさで竹史にアドバイスしていたものの、最近ではかなりの時間を高原の指導にあてていた。高原の射は安定感を増していった。もともと物おじしない高原の射に安定感が加わり、彼女の腕はめきめきと上がっていった。


「はい、じゃあ次、女子の五人立な。三年生の四人と高原。立順は、高原、広瀬、佐藤、衛藤、角藤かくとうな」


 五人が本座から射位に向かう。大前おおまえの高原の小気味よい体配に竹史ですら目を奪われる。あいつには、人を強引に引き付ける奇妙な雰囲気がある、そう感じる。場の流れまで引き寄せるその力は祐介以上かもしれない。大前にぴったりだ。


 甲矢はやをつがえる。一筋の乱れもなく弓を打ち起こし、引き分けていく。まだ五月になったばかりなのに、彼女を見つめる竹史の額にうっすらと汗が浮かぶ。たくましい伸び合い。気持ちよい緊張感。軽快な弦音つるねとともにすっと矢が放たれる。当たりまえのようにててくる。


 竹史の苦手な恐ろしいくらいの意思の強さは、ひとたび弓を手にすると、すべてそこに注ぎこまれ、彼女の体からは熾火おきびのような闘志だけがのぞく。


 口を軽く引き結び、足踏み、胴作り、そして乙矢おとやをつがえる。小さな彼女が大きく見える。力強く弓が引き分けられ、あたりの空気を収縮させる。ぱあん、とその緊張が反転した。軽快な音の中で残心、的中。四つ矢を見事に皆中させ、拍手が起こる。


 見惚れていた竹史はその音に我に返る。ちらりと横目で見ると、祐介が満足げに微笑んでいる。しめつけられるように胸が痛んだ。

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