【7.イチゴチョコアイスパフェ】
イチゴチョコアイスパフェー1
挑むようなまっすぐなまなざしを高原が射かけた。向かい合う竹史はにらみかえすものの、その目の鋭さにひるみ、声が出せない。まじろぎもせず、そんな竹史の様子を見ていた高原の瞳に、ふと不安の影が差す。視線が揺らぐ。呪縛を解かれた竹史はようやく声を絞り出す。うわずった掠れ声は思いのほか強く高原の耳を打った。
「――無理、やけん。前にも言ったやろ、付き合うのとか、無理やけん」
甘やかな風に乗ってどこからともなく漂ってきた桜の花びらが数枚舞い落ちる。高原が目線を落とす。竹史の胸のあたりを見ながら、ぽつりと言う。
「付き合うんじゃなかったら、いいってこと? 今までみたいに、四人で一緒に遊びに行くとか……」
竹史は答えず、顔をそむける。しばらくふたりは無言のまま立ちすくむ。
「――あのさ、神田とか、大鶴とかじゃだめなん? ああ、あと、
高原が目を上げた。ふたたび射貫くようなまなざしで竹史をにらむ。ちらりと目を向けた竹史はその気迫におののく。高原はそのままくるりと身をひるがえし、去っていった。竹史は顔をゆがめ、立ち尽くしていた。
その日高原は部活を休み、翌日は学校にも来なかった。
部活のあと、着替えながら祐介が首をひねる。
「あいつ、どうしたんじゃ? なんかあったん? たけ、なんか知っちょる?」
祐介の言葉に竹史は、知らん、と答えて道着をたたむ。
「そろそろ県大会の準備だってあるにい。高原、いいとこまで来ちょる。ここが踏ん張りどころじゃ。休んどる場合じゃねえで」
安東ちゃんがなんか知っちょんかな、とつぶやきながら、バッグを担ぐ。
その翌日、朝のホームルームが始まる直前に祐介は二年三組に様子を見に行き、高原が登校しているのを見て胸をなでおろす。一時間目が終わると、祐介は改めて高原のところに行く。他のクラスの男子が入って来て一直線に高原の席を目指すのを、周囲の女子も男子も興味津々なまなざしで追いかける。
「高原、体調悪いん?」
高原は目を合わさずに答える。
「別に」
「じゃあ、今日は部活に来れるか? 県大会の部内選抜がもうそろそろやけん、極力休まん方がいい」
高原は答えない。祐介が怪訝な顔をする。
「高原? なんかあったん?」
「別に」
祐介は口をつぐみ、うつむいたままの高原をしばらく見ていたが、今日は来よやと言うと自分の教室に戻っていった。
終業時のホームルームと掃除が終わると、とたんにクラスメイトたちの振幅が大きくなる。部活に向かったり、教室でおしゃべりを始めたり、帰宅し始めるものもいる。カバンを手にした祐介が竹史に呼びかける。
「たけ、三組に行こ」
荷物をまとめていた竹史が手を止め、目を上げる。
「なんし?」
「高原を部活に誘いに行く」
竹史は再び手を動かしはじめる。
「ゆう、行けば。俺は行かん」
そう言うと荷物を持って教室を出て行った。
「なんじゃ、冷たいやつ」
祐介はそうつぶやきながら、普段以上につれない竹史の態度に、今までぼんやりとしていた不安が凝集していくのを感じた。
三組の教室を外からのぞく。高原がかばんを手に出てきたところを祐介は呼び止めた。
「高原、部活行こう!?」
高原が祐介をちらりと見て、目を伏せる。
「高原? なあ、行こう?」
答えない。目を合わせぬまま、三つ編みの先をもてあそんでいる。祐介が顎をこすりながら言った。
「部活、嫌か? ……あのさあ、それじゃったら、ちょっと付き合ってや」
高原が胡乱な目つきで祐介をにらむ。祐介は照れくさそうに笑った。
「
少し目を見開いて高原が聞く。
「男子も、甘いもんなんち、食べるん?」
疑わしそうに見る高原に、祐介がにっと笑って答える。
「俺、
「﨑里くんこそ、部活行かんでいいん?」
「まあ、たまにはいいじゃろ? 俺、いままでさぼったことねえし」
少し離れた廊下の隅で竹史がふたりの様子をうかがっている。祐介はそんな竹史に気づくことなく、高原を促し出ていった。竹史はひとりで弓道場へと向かった。
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