文化祭ー5

 最終担当者である祐介の説明の番も問題なく終わり、ポスター会場は撤収作業に入る。夏休み前から準備した調査発表も、片付けるのはあっという間だ。ポスターを丁寧にはがし、六枚まとめてくるくると丸め、視聴覚教室脇の倉庫にしまう。十年間、発表資料は保管しておくのだそうだ。あとはパネルや画鋲やテープを片付け、十五分もかからずに撤収は終了した。お疲れさまでしたとそこここで声が上がる。祐介が雨に洗われた中庭をぼうっと見ていた竹史に声をかける。


「思いのほか、早く終わったな。たけ、部活行こうや」

「――ん」


 高原が思わず声をあげる。

「私も行く」


 竹史が嫌な顔をして高原に目を走らせる。高原が笑みを浮かべてその顔を見つめ返すと、即座に目をそらす。祐介が高原を見て笑う。

「おう、行こう。今日はたぶん、人少ないけん、思いっきり弓引けるで」


 明るい声で高原が問う。

「なあ、なあ、小嗣こつぎくん、あっちん駐輪場のとこ歩きよる鳥、あれっちなん?」

 固い声で、でも返事をしてくれる。

「――ハクセキレイ」


「あ、小嗣こつぎくん、あん花壇の脇を歩きよるカラスっち、ハシブト? ハシボソ?」

「――ハシボソ」


 歩きながら祐介が目を見開く。


「お、なんじゃ、高原も鳥好きか?」


 三つ編みを揺らしながら高原はうなずき、さらに尋ねる。

「なあなあ、どこで見分けるん?」

「――くちばしとおでこ」


 高原が弾んだ声で尋ね返す。

「くちばしとおでこ? どげんこと?」

「くちばしが太くて湾曲しちょんのがハシブト。細くて直線的なんがハシボソ。あと、くちばしとおでこのあいだに段差があるんがハシブト、なだらかなんがハシボソ」


 祐介が楽しげに笑う。


「たけ、おまえカラス好きよのう。前もカラスをじいっと見よったことがあったけど、なんが好きなん?」

「ケツ振りながら歩くとこ」

「はあ? ケツ? おー、たしかに振りよるな。ははは、うん、これは可愛いわ」


 ハシボソガラスを眺めながら祐介が笑う。高原がふと足を止める。


「この声……なあ、小嗣こつぎくん、この声、何の鳥?」

「イソヒヨドリ」

「イソヒヨドリ?」

「ん。どっか高えところにとまって鳴きよるはず――あ、あっちん校舎の屋上の手摺」


 竹史の指さすほうに目を凝らすと、暗い空にそびえる校舎の屋上の手摺にとまり、一心にさえずる青い背が、雲間から差す陽光を受けてぎらりと輝いた。祐介と高原が足を止めて見上げたまま、しばし聞き惚れる。


「綺麗じゃねえ」

「綺麗じゃな」


 うっとり耳を澄ますふたりが目を交わして微笑む。竹史だけが物憂げな顔で空を見上げる。

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