第6話 ゴミ捨て場のガラクタ
谷はかなり深い。
けど、登れないほどに険しい崖ではなさそうだ。
「もう……領土の外……なのか?」
だとしたら、かなり厳しい。
妖魔に遭遇する確率だって段違いだし、野盗の類だって平気でうろついてるのが領土の外、無管理地帯だ。
しかも今のボクは戦える
破れた布袋に入れていた多量の種が残ってれば戦いようもあった。
リュックは地下倉庫に放置したまま。
ボクの手持ちは体に巻き付けていた最後の
腰巻き袋にいれてある微々たる道具だけだ。
「武器は扱うの得意じゃないけど……」
ジークたちの戦いは間近で見てきた。
とは言っても、ボクがあのように武器を扱えるとは到底思えない。
それでも無手でいるよりはマシという考えの元、手頃な武器を探すがどれもこれも錆び付いているだけならまだしも、折れて短剣よりも短い武器ばかりだ。
「重量はあってもいいから硬くて長いものを……」
崖側に打ち上げられた残骸に目を向けると、崖の少し上に何本か剣の取っ手のような部分が見える。
川の水かさが増している時に引っかかったのだろうか。
「なんでもいい……どうせ振り回すことしかできないんだから、できるだけ長い武器なら……」
ボクは僅かに見える武器を目標に崖を上がっていく。
これくらいの崖なら旅の時は荷物を背負って登ることもあった以上、問題にはならない。
「もう……少し……」
限界ぎりぎりまで手を伸ばし、剣の柄に手をかける。
すると、ボクの手に何かが重なった。
「――え!? なっ――!」
反射的に見上げると。
薄汚れた『人形』がボクを見下ろしていた。
虚ろな瞳に微かな光が宿り、ボクに焦点を合わせる。
「くそ――ッ!」
ボクは咄嗟に剣を握りしめ、崖を滑り落ちる。
すると、人形も身を乗り出してボクを覗き込んだ。
野盗の人形や人形単独で徘徊している可能性もあるけど、あれはどう見ても処分された人形だ。
流葬の末にここに流れ着いたのだろう。
雨風に晒されて元の色も分からないほどに色素の抜け落ちた髪。
廃棄された時のままなのか、すでに衣類が役割を果たしていないことからもよく分かる。
「オマチシテイマシタ……
どれだけ昔に廃棄されたんだよ。
ボクが子供の頃でもこんな活舌の悪い人形はいなかったぞ……
獣型に片足突っ込んでるんじゃないか……
しかも……
「オマチシテイマシタ……
こいつは主をただの一度も持つことがなく廃棄されたんだ。
戦闘型にはとても見えないし、生活補助型の量産人形だろう。
家事手伝いや子供の世話をすることが多いので、たぶん顔の作りは綺麗や可愛いに該当するようなもののはずだ。
今は泥と苔が多くて判断しずらいけど。
そして……悪いけど、返事はできない。
ボクを認識されても困るんだ。
動力を抜いて土に還してあげることもできるけど……勝手に作られて勝手に死ぬなんて誰しも望まない。
だから、次に来る人を期待してくれ。
戦闘型ならともかく生活補助型、しかもいつ作られたかも分からないほど古い人形なんて今のボクに必要ない、どころかお荷物でしかない。
それだけ古い以上、今までもチャンスはあっただろうし、それでも必要とされないほどの性能しかないってことだ。
「次のやつが主になるとも思えないけどね……」
幸い見つけた剣はところどころ刃が欠けてるけど、重さ長さ共に申し分ない。これ以上、武器探しをする必要もない。
ボクは吐き捨てるように呟くと人形が覗く崖を避け、さらにゴミ捨て場の奥へ足を向けた。
そこで。
ドズン――と、何かがゴミ捨て場に落ちる音が背後から響いた。
肩越しに目を向けるとあの人形が落ちたことを確認する。
おそらくボクを認識するべく、追っているのだろう。
量産型は売られる時に、目隠しをされている。
それは鳥のヒナの習性にも似たいわゆる『最初に見た者を』ってやつだ。
……え?
「今まで誰とも会えてな……い?」
軋みをあげる体を引きずるように一歩、また一歩とボクに向かって……
ダメだ――っ!!
こんなガラクタ拾ったところで、ボクの目的の助けになんてなりゃしない!!
「オマチ……――シタ……ワタ……」
目的を見据えるんだ。
まずは街を探す。
そこで強力な人形を探す手がかりを見つけなければいけない。
噂程度だけど、国に抱えられている人形作家は、様々な地域で過去に討伐された強力な妖魔を人形にしたからこそ認められた、なんて話もある。
国は肯定も否定もしていないけど。
そこから準備を始めなきゃいけないんだ。
当てが見つからなければ、リアが残してくれた力だけで……
だから、ここでぐずぐずしてる暇なんてない。
ボクは振り切るように足早に歩き、手頃な傾斜の崖を登っていく。
頂上までいかずとも中腹辺りに森が広がっていることが見えたからだ。
上手く道が繋がっていればいいけど。
そして人形はあの状態じゃ崖を登ることは不可能なことも分かってる。
「初めて流れて来た人がボク以外ならまだよかったかもね……」
ぎこちなく崖に手を掛ける人形を一目見ると、ボクは背中を向けて森の中へ足を踏み入れた。
そして――
さきほども聞いた、人形が崖を滑り落ちる音がボクの耳に届いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます