第97話 ダンジョンは怖い生き物です!
県境のトンネルを超える。
いよいよ京都に到着だ。
といっても、まだ郊外だから中央からは遠いけど。
私達はシェルハウスを出て外を見回す。
先輩も伸びをすると、周囲を見回した。
「今更ですが、京都でも郊外だと街並みって他とそう変わらないんですね」
「そりゃそうだよ。京都だからって町全体がテレビで見るような風景な訳ないじゃん」
あ、でも京都って外観を守るためになんか特別な法律とかあったんだっけ?
コンビニとか外食チェーンとかの看板の色が違うとか。
「しかしなんというか、奇妙な気配を感じるな……。ここはもうダンジョンの中なのか?」
「いえ、この辺はまだ『バージィス』にも、派生ダンジョンにも浸食されてない場所みたいです」
上杉さんの感じる気配……私も肌で感じている。
凄く嫌な感じだ。
京都の町は八割以上がダンジョンに浸食されているので、ここは貴重なダンジョンに浸食されていない場所になる。検索さんが教えてくれた。
私は手に持った地図を広げる。
「えーっと、今私たちが居るのは京都霊園の近くなので、ここからまた嵐山を抜けて天龍寺に向かうルートになります」
すると三木さんがひょいっと顔を覗かせてくる。
「ここからなら、長岡京市役所の方もそう遠くないと思いますけど?」
「確かにそうですけど、市役所の方は派生ダンジョンの中では規模も大きく攻略に時間が掛かるみたいなんです。天龍寺、金閣寺、清水寺の派生ダンジョンは『バージィス』ともあまり離れていないせいか規模が小さく、攻略しやすいって検索さんが言ってました」
「了解です。納得しました」
生存者を救出する意味でもダンジョン攻略は効率的に進めなきゃいけない。
検索さんの提示してくれたルートを信じよう。
「という訳で、メアさん。また頑張って貰う形になるけど大丈夫?」
『ミャゥー!』
メアさんは全然平気! という風に声を上げた。
他のナイトメアさんと交代とは言え、かなりの距離を走っているのに凄いスタミナだ。
後で他のナイトメアさんと一緒にたくさん労ってあげないと。
「……ちなみにボルさん、他のナイトメアさんの好物ってなんですか? メアさんは猫に擬態してからはキャットフードが大好きみたいですけど」
『……擬態した生物の好みも反映されるようだから、何とも言えんな。メアのように好みの擬態を見つけなければ、好みも分からん』
今のメアさんってもう完全に猫だものね。
ナイトメアは霧のモンスターだからどんな生物にも擬態できる。
そしてナイトメアにはそれぞれ得意な擬態や好みの擬態が存在し、その姿が気に入ると、生態や仕草もその生物に似てくるのだ。
『しかしこれが京都か……。確かに我々好みの土地だ。魂、血、そして恨み……。様々な負の感情が染み込んでいる。長い年月を掛けて耕されたのだろう。これはダンジョンにとっても堪らない土地だろうな』
ボルさんには申し訳ないが、そんな風に評価されても全く嬉しくない。
そしてボルさんたちもやっぱりアンデッドだからそういうのを好むんですね。
『そんな顔をするな。君たちにとっては不本意かもしれないがメリットもある。ここなら我々は普段よりも力を発揮することが出来るだろう』
「負の感情を吸い取るって事ですか?」
『ああ。とはいえ、それは敵も同じだ。油断はするなよ』
「はいっ」
私達は再びシェルハウスに入ると、移動を再開した。
移動中の嵐山は恐ろしい程に静かだった。
『普通のモンスターの気配が全くないな。おそらく、周囲のモンスターは全てダンジョンに取り込まれたとみて良いだろう』
「取り込まれるとどうなるんですか?」
『通常であれば殺され養分になるだろうが、戦力になるのであればダンジョンの手駒として再利用される。通常のダンジョンが生み出すモンスターと違い、消費するエネルギーが少なくて済むからな。そして永遠にダンジョンの奴隷として働かされる』
「……死なないって事ですか?」
『ああ。ダンジョンが死ぬまで、取り込まれたモンスターも死ぬことはない。とはいえ、傷を負えば、治すのに相応の時間はかかるがな。そしてダンジョンが死ねば、取り込まれたモンスターも死ぬ』
なんとも恐ろしい話だ。
死ぬよりも恐ろしいかもしれない。
「……それはもしかして人も……?」
『可能性はあるだろう。特にレベルを上げ、スキルを持った人間は、ある意味モンスター以上にダンジョンにとっては貴重な手駒だ。あやめよ、覚悟だけはしておけ。君たちはこれからかつて『人であった者』とも戦う可能性がある』
「はい……」
確かにその可能性は十分にある。
ボルさんの言葉に、私達の間に重い空気が流れた。
『けっ、何をしみったれてやがる。ダンジョンに取り込まれた人間はもう人間じゃねぇ。ただの人形だ。割り切らねぇと、テメェが潰れるだけだぞ? 散々モンスターを殺してきただろうが。四国じゃ人の姿をしたモンスターだって居たじゃねーか。今更何を躊躇うってんだよ』
「ベレさん……」
おそらくベレさんは四季嚙さんの事を指して言っているのだろう。
確かに自分の為に積極的に人を殺してきた彼女は、モンスターと何も変わらない危険な存在だった。
『本当に相手の事を思ってんなら躊躇うんじゃねぇ。ダンジョンを攻略しない限り、取り込まれた人間どもは永遠に戦わされ続けるんだ。だったら早く終わらせてやんのがせめてもの優しさってもんだろうよ』
ベレさんがそう言うと、ボルさんは愉快そうにカタカタと骨を鳴らした。
『かかっ、らしくない事を言うではないか、ベレよ。そんなにあやめ達の事が心配か?』
『はぁ!? おまっ、馬鹿な事言ってんじゃねーよ! ただこれだけ俺らが手を貸してやったソイツらがつまんねぇ死に方をするのが気に食わねぇだけだ』
『……そのままではないか、馬鹿者め』
「ふふっ……」
『あやめ……テメェ、何笑ってやがる! 穿つぞコラァ!』
「すいません……。でも、そうですね。ベレさんの言う通りです」
「……だね」
「ああ」
「ですね」
私も、先輩も、上杉さんも、三木さんも、先程までの重い雰囲気は無くなっていた。
そうだ。そもそも覚悟はもう決まってる。
「見えてきましたよ」
嵐山を抜けると、一本の橋が見えてくる。
――渡月橋。
京都の有名な観光名所の一つであり、今は天龍寺ダンジョンへの入口となっている橋だ。
「さあ、ダンジョンを攻略しましょう」
モンスターがあふれる世界になったけど、頼れる猫がいるから大丈夫です よっしゃあっ! @yoshyaa
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